【ハート】【ズッキーニ】【レンガ】

課題:推理物

「朝顔さん! 事件です! 早く現場に来てください!」

 部下の真田からの一報を受けて、朝顔警部は現場に急行した。

「真田君ご苦労様、ここは?」

「本田の自宅です」

「帰る!」

「え!? 何言ってんですか? どうして? まだ何もしてないじゃないですか!」

「どうもこうもないわ! 罠の臭いしかしないじゃない!」

 朝顔警部にとって本田はかつて煮湯を飲まされた相手であり、顔も見たくないというか生理的に無理というか、なのにどこか気になっちゃう複雑な相手だった。

「最後まで聞いてください!」そう言って真田が朝顔を引き止める。

「殺されているんです! その本田が!」

「オホッ、いい気味だわ! いけない私ったら、公私混同は良くないわ。真田君本田に恨みを持つものは?」

「該当者が多すぎて絞り込めません」

「ロクなヤツじゃないわね」

 真田は「あんたもね」と言う言葉を飲み込んだ。

「それじゃあ第一発見者は誰?」

「宅配便の配達員です」

「そいつが犯人ね。第一発見者が犯人に決まっているわ」

「さすがに雑ですよ。推理もクソもないじゃないですか。結論先取は悪い癖ですよ。それに彼にはアリバイがあります」真田が呆れて言う。

「それなら父親ね」

「その数撃ちゃ当たる戦法やめた方がいいですよ。まずは死体を観察しましょう」

「そうね、それで死因は?」

「ズッキーニのようなものでハートを一突きです」

「待って、待って、どこからツっこんでいいかわからないんだけど」

「なんか変ですか?」

「まずハートって何? 普通心臓でしょ」

「すいません、お題はそのまま使わないといけなかったんで」

「お題って何よ。そういう世界観無視ヤメて! あと何でズッキーニで刺すの? 刺さる? 刺さる? あれで? なまくらすぎにも程があるでしょ! それに、『のようなもの』って何?」

「ほら、よく言うじゃないですか、バールのようなものって。俺もアレが絶対ズッキーニと言えるか自信ないし。キュウリかもしれないし、似たような形のかぼちゃとかあるって聞くし」

「何もそんなもので殺さなくても、ここに置いてあるレンガで殴打すればいいだけでしょ! って、普通部屋にレンガなんか置く?」

「俺に聞かないでくださいよ」

「犯人がわかったわ!」

「本当ですか? 誰です?」

「オホッ! 何を、しらばっくれてるの? 真田君、あなたが犯人でしょ」

「お題の頭文字を読んでください」

「えっと、ハ、ズ、レ」

「そうハズレです」

「世界観無視ヤメて!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る