【チェコスロバキア】【玉響(たまゆら)】【ヒ素】

課題:夏の夜の話 


 夜空を彩る大輪の花火を見て私は考える。その美しい姿は一瞬にして消える。そこにあるのは儚さだ。


 小説家を目指す読者諸君には、是非とも胸に刻んでほしいのだか、物書きにとって日常は学びの場であり、練習の場でもあるということだ。ネタなどその辺にいくらでも転がっている。ようはそれに気づくかどうかなのだ。常に感覚を研ぎ澄ますのだ。語彙や表現力を身に付けたいなら、実際に日常の描写に使って我が物として欲しい。

 例えば儚さを表す修飾後“一夏の”は、最早使い古された表現で面白みがない。何か違う表現をして欲しい。私レベルになると”玉響(たまゆら)”あたりが思い浮かぶ。

 だが、くれぐれも使い所には注意が必要だ。無教養な相手に使えば「風もないのにぶーらぶらですか?」なんて言われるのがオチだからだ。


 国で表すならチェコスロバキアだ。知っての通り、現在はチェコとスロバキアとして袂をわかっている。人類の長い歴史で見れば、チェコスロバキア共和国というのはたった一瞬の出来事にすぎないということだ。

 両国の共和国解消は、ビロード離婚と言われている。先の民主化革命がいわゆる無血革命で、その品の良さをベルベットに例えビロード革命と読んだことに因んだ物だ。

 そして私は今、離婚の危機を感じている。私くらい日常にセンサーを張り巡らしていると妻の行動の機微からわかってしまう物だ。


 そうなる前には気づかなかったのかという読者の声が聞こえた気がした。


 だが、これもいわゆるビロード離婚になるだろう。

 私は妻の部屋を訪れたが、生憎外出しているようだ。化粧台に並べられた香水の瓶の中から一つを手に取りラベルを見た。


「ヒ素」


 うん、真夏の夜といえば怖い話だよね。

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