【大仏】【たぬき】【フライパン】

 課題【南極を舞台とする】


 小生の名は怪盗Q。世界に名を轟かせる大怪盗だ。今、とあるところに身を隠しているのだが、移動手段を失った上に食料の備蓄が足りない。無能な警察を呼び寄せて、乗り物を奪うとしよう。


「杉下警部大変です!」

「どうしました?」杉下警部は紅茶を注ぎながら答えた。

「これを見てください!」亀山がノートパソコンのモニターを指さす。


“怪盗Qの挑戦状”


「怪盗Qですか、久しぶりに聞く名前ですね」

「警部はご存知なんですか?」

「ええ、本人は怪盗だと、うそぶいていますが、ただのおかしなクイズマニアだと記憶しています」

「じゃあ警部、ウイルスチェックは済んでいるので、とりあえずファイルを開きますよ」

「お願いします」


 Q. パンはパンでも食べられないパンは何だ?


「警部、これくらいならオレでもわかりますよ」

 そう言って亀山は”フライパン”と入力してエンターを押すと、たぬきのキャラクターが画面に現れて、表示されているメッセージを読み上げた。


“おめでとう、では次の問題だ。小生が今いる場所のヒントだ”

“いたましょうたせたいはたさばたくにたいる”


「オレには分かりませんが、課題が南極を舞台とするだから、南極なんじゃないですか?」

「亀山君、そういう世界観を無視した推理は感心しませんねぇ」

「すいません」

「たぬきがヒントです。”た”を抜くのですよ」

「えっと、『今小生は砂漠にいる』って、南極って砂漠だったんですか?」

「亀山君」

「すいません、結論先取りしてしまいました」亀山は”砂漠”と入力してエンターを押した。


“おめでとう、では最後の問題だ”

“小生のいる建物は玄関を十二時方向とすると、十二時方向、三時方向、六時方向、九時方向に窓がある。その全ての窓は北を向いている”


「警部、四方向の窓が全部北向きなんて、いくら南き……」そこで杉下警部の視線を感じて亀山は口をつぐんだ。


 小生は挑戦状の最後にビデオレターをつけた。映像で煽って警察のケツに火をつけてやる作戦だ。カメラを前に一人で喋るのは恥ずかしかったな。あの時のセリフは

「無能な警察諸君ごきげんよう。小生はこの地で新たな犯罪プロットを大分作ったよ。早く捕まえないと大変なことになるぞ」


「南極点ですよ」杉下警部は地球儀を指でなぞりながら言った。

「さすが警部! あ、見てくださいなんかビデオレターみたいです」


「無能……警察……ごきげんよう」

 スピーカーから途切れ途切れの音声が流れる。

「小生はこの地で、……あらたな……だいぶつくった……大変なことになるぞ」


「これって、『小生はこの地で、新たな大仏食った。大変なことになるぞ』ってことですか? どう言うことでしょう?」

「わかりません。寒さで頭がおかしくなったのかもしれません」杉下はティーカップを置いた。

「どうします?」

「ただのクイズマニアです。捨て置きましょう」


「早くきて」小生は最後のカンパンを齧りながら願った。

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