第11話 ミアのひと声


 可愛い見た目に反して計算高い性格をしていたお姉様、華菜かなさんの説得もありまして。


 妹の陽夜理ひよりから、砂霧親子が我が海猫亭に居候いそうろうする許可が無事に下りました。


 いやはや、一時はどうなるかと思ったけど、これでホッとした。いやぁ、良かった良かった。



「でも、本当に良かったのかしら。自分で言うのもアレだけど、あまりに突然過ぎだったわよね」


 俺特製のチーズinハンバーグを上品にナイフで切り分けながら、アンニュイな溜め息を吐く華菜さん。ちょっとした仕草にもエロスを感じるのは、俺の気のせいだろうか。



「あの。やっぱりミアたち、出て行った方が……お金もあんまり無いし、カラダで払うのは……まだミアは中学生だし……」


 遠慮がちに声を出したのは、華菜さんをひと回りほど幼くした美少女の美愛みあちゃんだ。


 猫舌なのか、シチューを少しずつスプーンですくってはフーフーしながら口に運んでいる。口元にはデミグラスソースがついていてキュートだ。舐めたい。


 お風呂上がりの美愛ちゃんは、お母さんに似た美しい黒髪を後ろで一つに結んでいる。ちょっと強気そうな猫目に、リップもしていないのにプルップルな唇。


 現在は来音くるね市の中学校に通っているらしい。おそらくはクラスの、いや学校のアイドルになっているレベルの可愛さだ。



 だけど待ってほしい。そんな美少女を居候させるとあっても、カラダの関係を要求するようなゲスな考えは生憎と持ち合わせていない。だが――


「ミアちゃんには、ウチの宿で身体を張ってもらおうとは思っている」


 ――ガタガタッ!!


 俺の発言の直後。陽夜理と華菜さんが食事中にも関わらず、突然椅子から立ち上がった。それも、憤怒の形相で。


「な、なんだよ!? 何かマズいことでも言ったか?」


「お兄ちゃん、サイテー」


「相護さん……見損ないました」


「や、やっぱりミアは、ミアは……あぅあぅあぅ」


 な、なんで!?


「な、なにか勘違いをしていないか? 俺はただ、2人にはこの民宿である海猫亭の住み込みアルバイトとして働いてもらおうかと思って……」


「「……チッ、紛らわしい言い回しを」」


 2人はガタンッと荒々しく席に戻り、ミアちゃんは未だにグルグルと目を回している。


 やっぱり勘違いをしていたみたいだけど、舌打ちは酷いからね?

 こんな俺でも傷付くよ?



「ミア、この歳でデビューしちゃうんだ……それも民宿が舞台で……」


「いや、しないから! っていうか、ミアちゃんは何を妄想しているのかな? ウチは健全な営業を心掛けていますからね!?」


 1人だけエッチな妄想の世界に飛び立ってしまったが、まぁいい。ともかくこれは、俺が彼女たちを引き取ると決めた時から考えていたことだ。



「華菜さんには成人した大人として、この民宿の運営補佐と接客を」


 華菜さんは経理に役立つ資格を持っていたり、会社の受付嬢やスーパーでの接客の経験があったりするので、即戦力として期待ができる。



「ミアちゃんは、華菜さんとヒヨリの補佐として学業に支障がない程度にお手伝いをしてくれると嬉しい。もちろん、バイト代は出すからね」


 陽夜理だけでは手が回らない事もあるし、人手が多い方が助かる。


 それに美少女だし、現場がより華やかになるだろう。つまり俺が嬉しい。頑張れる。



「お母さんはともかく、ミアは新聞配達のアルバイトしかしたことないよ? 得意なことも、『炊事洗濯』に『算盤検定一級』に『英会話』と『漢検準一級』、『危険物取扱者免許』、『料理技能検定』と「ちょ、ちょっと待って! そんなに? なんなの? 何を目指している中学生なの、ミアちゃんは!?」……え? 専業主婦?」


 コテン、と首をかしげて不思議そうな顔をする美愛ちゃん。かぁいい。――じゃなくて!


「いやいやいや? 専業主婦に必要なスキルじゃない物も結構あった気がするんですけど!? そもそも危険物取扱者免許なんて何に使うの!?」


「……ガソリンの扱い?」


 真顔の美愛ちゃんの隣で、華菜さんがニコッと笑った。


 な、なんだ?

 今、すごい寒気がしたんだが……。


 ガソリンの扱いができるようになって、いったいどうするつもりだったんですかこの母娘。まさか何かに掛けて燃やすとかじゃありませんよね!?


 ま、まさか元夫を……。



「相護さん。知識というのは、時に武器になるんですよ?」


 意味ぜんぜん違うよねぇ!? それって物理的な武器として使うって事だよね?


 事件に発展する臭いがプンプンするし、絶対に危ないことに使っちゃダメだからね!?



「ま、まぁミアちゃんも即戦力ということで。できることからやっていこう。……危ないことは禁止だからね?」


 「せっかく頑張って勉強したのにー」と口を尖らせている美愛ちゃん。俺にはもう彼女を扱い切れる自信がないので、ここはスルーすることにする。


 2人をこれ以上つつくと、他にも聞いちゃいけないネタが出てきそうでこわい。



「それにしても相護さんは、料理がお上手なんですね。ちょっとした料理店レベルですよ。そのうち私も教えてもらおうかしら」


 赤ワインの入ったグラスをクルクルと回しながら香りを楽しんでいる華菜さん。ちょっとアルコールが回っているのか、頬がほんのりと赤い。


「まぁ、これでも宿屋のせがれなもんで。昔はよく両親に仕込まれたんですよ。特に魚の捌き方は厳しかったですね……」


 俺は学生だっていうのに、早朝から父さんに殴られながら教え込まれたっけ。


 そういえば俺が家を継がずに教師になりたいって父さんに打ち明けた時、文句も言わずに賛成してくれたけど……あの時の顔、少し寂しそうだったんだよなぁ。



「あ……ごめんなさい」


「いえ。気にしないでください。それより華菜さんもお料理ができるんなら、大助かりですよ! なにせ最近では接客する余裕が無くて、開店休業中みたいな感じでして」


「お兄ちゃんの言う通り! 華菜お姉さんとミアちゃんがお手伝いしてくれたら、お客さんも戻ってきてヒヨのお小遣いもアップだよ!」


 両親の遺産もろもろがあるので、生活するのに当分の間は困らない。だけど収入があるに越したことはない。


 なにせ維持するだけでも経費は掛かるし、餌代が掛かる動物がたくさんいるからだ。


『なぁ〜ご?』

『にゃあん』


 キッチンの隅で夜ご飯を食べていた黒猫親子のオハギとボタンが、何かを察してこちらに来たようだ。


 俺は2匹の頭を撫でながら猫たちに問い掛ける。



「なんだ、オハギ、ボタン。お前らも海猫亭ウチが流行りそうな案を出してくれよ〜。お金が無いとオマンマがあげられなくなるんだぞ?」


『『うなぁ〜?』』


 当然教えてくれるなんてことはなく。2匹は能天気な顔をしながら、美愛ちゃんの方にトコトコと歩いていってしまった。


 すると美愛ちゃんは娘猫であるボタンを抱き上げ、猫と見つめ合いながらボソリ、と呟いた。


「ん〜! ボタンちゃんたちは本当に可愛いね! こんなに可愛いなら、動物喫茶みたいにこの子たちと宿があればいいのに!」



――――――――――――――――――――

【ラノベでことわざコーナー】

鶴の一声:その一言で周囲の意見をまとめ上げること。


万能すぎる才女、美愛が発したラストのセリフ。これがキッカケで、相護たちが迎える今後の展開は大きく変わっていきます。


文中にある『危険物取扱者免許』ですが、日本における最年少取得は小学生の方らしいです……凄いですよね。



作者「ちなみに私は、旅先の宿が舞台の🔞作品が好きです(誰も聞いてない)」


続きは1/22の19時過ぎを予定!


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★カクヨムコンに挑戦中!!★

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