第5話 馬鹿は類を呼ぶ?


 馬鹿コータのお陰でアシュフィールドグレートおっぱい助教授に注意されてしまうという一幕ひとまくがあったものの、生物の講義は無事に終了した。


 助教授のお叱りが効いたのかコータも真面目に勉強に取り組み、本日最後のコマである数学の講義も無事に終了した。



「……おいソーゴ! お前のせいで怒られちまったじゃねえか!」


 公太は反省文代わりに与えられた生物学の課題を解きながら、恨めしそうに文句を言ってくる。


 まぁ確かに俺にも非はあるが……9割がたはコイツの自業自得なので同情はしない。むしろアシュフィールド先生と会話できたんだから俺に感謝してくれと思う。



「そういやお前、今夜のテニサー主催の飲み会には来るんだろ?」


 のんびりと帰りの支度したくをしていると、コータがそんな質問をしてきた。


「テニサー? ……あぁ。肝心のテニスをしないで遊んでばかりな、あのなんちゃってテニスサークルか?」


 コータの付き添いで入ったはいいものの、ほとんど参加していなかったから存在を忘れかけていたわ。


「部長が忘年会のリハーサルをやるんだって。すげぇ張り切ってたぜ」


「はぁ? なんじゃそりゃ」


 なんだその、忘年会のリハーサルって。


 ただの飲み会に予行練習なんて必要無いだろう。



「やっぱそこ気になるよな? だから俺も部長に聞いたんだよ」


 まぁ、あのチャラい部長の事だ。

 なんとなく、しょうもない理由な気がするけど。


「そもそも今年の忘年会って、クリスマスの一週間前へ開催日が変更になったんだよ。なんでもその理由が、他のサークルと合同で開催することに決まったとかで」


「あー……。クリスマスの当日付近は、都合が悪い奴がいるだろうしな」


 クリスマスの予定を既に立てている奴も多いからな。そりゃあリア充たちは忘年会よりも恋人を優先するさ。人を集めたきゃ日程をずらすだろう。


 俺? もちろん家で陽夜理と楽しくパーティをする予定だったけど?



「……で? それが忘年会のリハーサルと、いったいどう繋がるんだよ?」


「相手のサークルに、部長が本気で惚れた女子が居るらしくてさ」


「はぁ~? 女に見境の無いあの部長がガチ恋? ははっ、冗談だろ」


「それがマジなんだって。だから部長もテンション上がりまくってて――


『忘年会で俺は彼女に告白するぜ。そしてクリスマスはその子と一緒に過ごすんだ! だから確実に成功させる為にも、今から予行練習じゃー!』


 ――なぁんて意気込んでいるんだよ。なんだか必死過ぎて笑っちまうよなぁ!?」


 ようやく課題を解き終わったコータは、ゴソゴソと鞄の中に解答用紙をしまいながらゲラゲラと笑い声を上げる。


 ちなみに俺はその隣で妹の陽夜理ひよりからのメールを確認している真っ最中だった。あいにくと、部長の恋愛模様には一切の興味が無い。



「で、どうする? ソーゴも行くだろ??」


「ん~、妹と夕飯を作る約束をしてるから俺はいいや。悪いなコータ、また今度埋め合わせするから」


「そっか、なら仕方ないか……」


 残念そうにガックリと肩を落とすコータだったが、すぐにまた笑顔に戻る。本当に切り替えの早いヤツだぜ、まったく。



 俺はスマホをカバンにしまうと、コータに別れを告げて教室を出た。


 廊下に出てからふと窓の外を見てみると、空がどんよりと黒い雲に覆われているのが目に入った。


「おいおい、マジかよ……」


 さいわいにもまだ雨は降り始めてはいないが、いかにも冷たそうな風が木の枝をザァザァとしならせている。この様子だと、いつ雨が降り出してもおかしくはないだろう。


 俺の記憶違いで無ければ、今日の天気予報は一日中晴れだったハズなのだが。



「はぁ。マジで予報なんて当てにならないな。雨に濡れる前に帰れるといいんだが」


 ついブルーな気分になっていると、さっきまで居た教室から公太のやかましい声が響いてくる。他の友人とくだらない話でもしているのだろう。


 友の変わらぬ能天気さに苦笑いを浮かべながら、廊下にたむろする学生たちの合間を縫うようにして歩いていく。



「うぅ~、さみぃ!!」


 屋外に出ると、想像以上の寒さに身体がぶるりと震えた。


 思わず小走りになりながら門の外に出る。すぐさま、かじかんだ手をジーンズのポケットに突っ込み、クシャッと凹んだタバコとホイールの錆びた鈍色にびいろのオイルライターを取り出した。


 そして少しだけ湿気しけっているタバコを口に咥えると、ライターをザリッ、ザリッと音を立てて火を付けた。


「あー、冬は嫌いだ。喫煙者に優しくねぇ」


 ――そういえば両親が居なくなったのも、こんな寒い日だったな。



「……早く帰って、ヒヨリに美味しいご飯を作ろう」


 空の黒さを煙の白で塗り替えるように溜め息を吐くと、俺は家路いえじを急ぐことにした。



――――――――――――――――――――

作者「友人がクリスマス付近で妙に付き合い悪くなったと思ったら隠れて恋人を作っていたこと、あると思います(号泣)」


★★★★★★★★★★★★★★

★カクヨムコンに挑戦中!!★

★★★★★★★★★★★★★★


フォローや星のレビューをいただけると大変励みになります。よろしくお願いいたします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る