背後の危険

Grisly

背後の危険

S氏が道を歩いていると、

後ろから怪しい気配を感じる。


先程から、

どうやら付きまとわれているらしい。


S氏は、気づかれないように、

そっと足を早めた。



S氏の背中を追い越し、

肩を通り抜け、感じるその気配は

一向に遠ざかる感じはせず、

かと言って近寄っている感じもしない。


不気味な呼吸の音だけが、

消える事なくS氏の耳に入ってくる。




曲がり角に差しかかった時、

遂に後ろのそれは、

S氏に牙を突き立てようとした。


ヴァンパイア、吸血鬼、ドラキュラ、

なんと言うかは人それぞれだが、

S氏はまさに餌にされようとしていたのだ。


「グルルルルアァ」

凄まじい音がして、

耳まで裂けた口が開こうとしたその時。


危機一髪。

空から飛んで来た男が、

一撃で、S氏の背後のものを倒した。




「ヘクター。」


S氏は感動の目で彼を見つめた。

彼はS氏の友人であり、スーパーヒーロー。


「やはりピンチの時は

 助けに来てくれるのか。

 

 今回も命を落とすところだった。

 本当にありがとう。」



「いやいや、当然のことをしているまでだ。

 それに俺達は友達だろ。」

 


「ああそうだ。

 それにしても

 危険なやつが後を絶たないな。」





 吸血鬼が世に出て数十年。

 圧倒的なパワー、永遠の寿命。

 

 憧れるものは多く、

 メリットも大きかった為、

 人類のほとんどは吸血鬼になった。


 その後だった。

 皆が危険に気づいたのは。

 吸血鬼は人間の血しか吸えない。

 吸血鬼の血は吸えないのだ。

 

 そのため、

 当時奇跡的に残っていた

 S氏のような数千人の人類は貴重。


 今後、吸血鬼にする事も、なる事も、

 噛み付く事も、

 血を吸って死に至らしめる事も

 禁止されているのだ。 



男はS氏に尋ねた。


「そう言えば、

 どうしてお前は

 吸血鬼にならなかったんだ。


 今日のような事が多くて大変だったはず。」



「理由なんてないさ。

 成り行きだ。

 強いて言うなら、

 少し気持ち悪さがあったからかな。

 

 今となっては、なっておけば良かったと

 思わないこともない。

 しかし、お前らの大変さも知っている。」


 

「そうだろう。

 毎日配給の少ない血で我慢しているのだ。


 生き残れてはいるものの、

 常に空腹感が襲う。

 今日のような暴漢が現れるのも無理もない

 死刑は免れないがね。


 私達も、お前が羨ましくなる時がある。

 定期的な、輸血器での

 血の提供の見返りとして、

 毎月恐ろしい額の手当を貰える。


 腹一杯飯を食って、遊んで暮らせる。」



「お前達はそうはいかないよな。

 圧倒的なパワー、永遠の寿命。

 余す事なく、フルで使って

 毎日働かなければ、配給も貰えず、

 生きていくことすらままならない。」

 

2人は足りない物を補い合うように

酒屋へと歩き出した。




実に複雑とも言える友情関係。

2人は友人であっても、立場は全く違う。


持てる者と、持たざる者。

両者に違いが生じた瞬間、

言いようの無い苦しみが、

生まれるのかもしれない。


この苦しみがあるからこそ、

世界は回っているとも言える。


古来から続く伝統。

経営者と労働者、

教師と生徒。

親と子供。

金持ちと貧乏人。


そして、

この場合は、お互いに言える事だが、

ひいては男と女…

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背後の危険 Grisly @grisly

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