死にめぐり幼馴染はギフトで死の未来を回避する

濱村史生

〈一〉

「おれ、今日死ぬかもしんない」


 いつも通り詠蕾みらいの家でおばさんの作ってくれていた朝食をご馳走になっていると、寝ぐせがついたままの寝ぼけ眼で起きてきた詠蕾がそんなことを言い出した。まだ寝巻にしているスウェットのまま、歯すら磨いている形跡がない。こいつ目覚ましが鳴ってから何度寝をかましていたんだ、という意味での「はあ?」を、詠蕾は「それはいったいどういうわけで?」と話を促す意味の相槌と捉えたらしく、味噌汁をすする俺の前でぼりぼり腹をかきながら続けた。


「いやあ、夢に見たんだよね。車が突っ込んできてさあ。もうドーン、だよ。ありゃ即死だな」

「ほー」

「帰り道の和菓子屋んとこあるじゃん。あそこの交差点。幸いにもおれだけしかいなくてよかったよかった」

「米でいいのか」

「ん。味噌汁はいい」


 席を立ち、早々に仕事へ行ったおばさんの代わりに茶碗へ米をよそってから戻ると、ソファにぽんぽんと寝巻を投げ捨てている最中の詠蕾と目が合う。いつものことながら、俺は呆れて言った。


「それで?」

「なにが?」


 制服のベルトを締め、詠蕾はさっさと席につく。「やべ」という声が漏れたのは、もしも学校へ行くのであれば、家を出るべきタイムリミットがあと数分のところまで差し迫っていたからだろう。

 もう答えは分かっているけれど、何度目かもわからない質問はいつも呆れながら、そしてどこか願掛けをするように問うことにしている。こいつのお隣さんとして、そして長い時間を共にした友人として。



「それでお前は、



 そしていつも、こいつは俺の願いを笑顔で裏切るのだ。



「だって今日、席替えだし」

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