第6話 兄と妹
首輪と言われていたが付けられてこれは枷だと感じた。どことなく体が重だるくなり、首が……コアがある部分が熱をもって僅かに痛む。シャドウをちらりと見ると、いつもより存在が……どことなくだが薄いような感じがした。シャドウに触れようとすると手がすり抜けてしまう。
ここの知らない場所で頼れるのは、シャドウだけだった。話も通じたことがない恐ろしい存在だと思っていたけれど、それでも彼なりに恐らく私を守ろうとしてくれていたのも事実だ。相変わらず何を考えているのか分からないが、彼も不愉快そうに見えた。
「これからどうなるんだろ……」
ベットに倒れ込むように横になる。扉は手をかけるところが見つからないし、ノックしても誰も来なかった。小さな小窓から外を覗けたが人の気配がない真っ白な廊下しか見えなかった。
部屋にはベットとシャワーとトイレ。一応シャワーやトイレはカーテンで区切られているが、あまりいい気はしない。
キャッツアイはまた来ないのだろうか。話をしている方が気持ちが落ち込まなくてすむし、この世界のことをもう少し知りたいという気持ちもある。今の自分が置かれている状態がマシなのかそれとも最悪なのかすら分からない。
人間もこういう風に暮らしているのだろうか。UHMと呼ばれるものたちだけなのだろうか。外はどんな景色なのだろうか。どんな動物がいるのだろうか。……子供が武器を取らざるを得ないような環境でなければいいのだけれど。
一度に色んなことがあったせいか思っていたよりも疲れていたらしく、気が付けば微睡みの中にいた。ここはわからないことが多くて恐ろしいところだけどベットは気持ちがいい。柔らかいものは唯一私の心を少しだけ癒してくれる。
重たい瞼をゆっくり瞬かせていると、背後で独特な音を立てて扉が開いた。
「部屋で大人しくしているなんてホントに何も知らないんデスネ」
クセのある金髪、くるくると指に引っ掛けて回す逆十字、キラリと浅瀬色の大きな宝石があしらわれたピアス。エメラルドグリーンの瞳を細め、歯を見せながら三日月のように笑った男は遠慮という言葉を知らないように部屋に入ってくる。
妙に異質な雰囲気にゆっくり起き上がりシーツを握りしめる。黒のハイネックに溶け込むように首輪が見えたからUHMなのだろう。
「新人さん、よろしくお願いしマス。警戒することは《良き事》デス。しかし、退屈を貪るのは《悪しき事》! ワタシの兄と同じでその内爆弾のように爆発しちゃいマスよ! フフフッもちろん比喩デスが……」
ペラペラと上機嫌に話しながらステップを踏むように軽やかな足取りで目の前まで彼は来るとグッと身をかがめて目の前に顔を近づけてきた。とんでもなく近い。ずっと笑顔を崩さないのも恐ろしい。シャドウが私を守ろうとするように手を彼に突き出したが、当たることなく幽霊のように体をつきぬけてしまう。
「貴方は……?」
「妹、としか呼ばれてません。なにぶん常に兄とセットで、区別をつけたところで意味をなさないものデスから! 質問はそれだけ?」
「お兄さんはどちらに?」
「ここにいマス」
「見えない存在ってこと……?」
「いえ! むしろワタシが見えない存在デス。そんなことより散歩しません? お喋りは歩きながらでも」
そう言うと《妹》は私にさっさと背を向けて扉の前まで行ってしまう。散歩……ずっとここにいると気が落ちてしまうだろうし、もしかしたらこの人はこの場所を案内するために来てくれたのかもしれない。
どことなく会話が噛み合わないことが気になるが……UHMについても知る必要がある。話せば何か少しでも掴めるかもしれない。
そんな小さな可能性にかけて私は立ち上がる。満足気に私が駆け寄るのを待っていた《妹》と共に部屋から足を踏み出した。
「この施設はとぉーっても広いデスけど、我々のような存在の居住スペースはこの階層のみ。無許可で移動すれば反乱分子として殺されるそうなのでお気を付けて」
「はぁ……」
そもそもほかの階に移動出来そうな階段が見当たらないので、何となく生返事になってしまう。それにしても誰ともすれ違わない。部屋の扉らしきものは沢山あるのだが、LOCKというプレートが光っていてなんだか不気味だ。
「あの……不愉快な質問だったらごめんなさい。あなたのお兄さんには名前があるの?その……もしもよ、同じ体を使っているのなら、彼と話すことも出来たり……いえ、あなたとのお話がしたくないわけじゃなくて、挨拶くらいはと思ったの。……どうかしら?」
「そうデスね……。同じ体というのは正解デス。兄がストレスに耐えれなくなった時にワタシが代わりに出てきマス」
「じゃあ今お兄さんは……」
「きっと貴女の考えるストレスとは別方向デスよ。ワタシの兄はね、全部壊したくて壊したくて仕方がない人なんデス。普段は我慢出来るんデスけどね。戦ったりしたあとはどうも……。それでも挨拶、してみマスか?」
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