迷宮管理者

水城みつは

第1話 迷宮再構築

「知らない天井だ」

 いや、言ってみたかっただけだが、本当に見知らぬ天井だ。

 病室なのは分かるが特に怪我は見当たらない。


「あ、西戸さいどさん、目が覚めました? いま先生呼びますね~。しかし、迷宮ダンジョン再構築リビルドに巻き込まれるなんて災難でしたね」

 ドアから顔を覗かせたおっとりとした看護師さんがインカムで何かを伝えながら入ってきた。


迷宮ダンジョン再構築リビルド……。俺ってどれくらい寝てました?」


―― 迷宮ダンジョン再構築リビルド


 ダンジョンがその構造を変える際に起きる現象だ。

 不定期に起きる現象であり、その後にはダンジョンの階層が増えたり、広がったりする。

 また、迷宮核ダンジョンコアが壊された場合は遅くとも数日以内に迷宮ダンジョン再構築リビルドが起こるとされている。


「運び込まれたのは一昨日の午後ですから、丸二日寝てたことになりますね。魔力枯渇じゃないかって先生が言ってましたけど、ダンジョンで無理しました?」

 少したしなめるような看護師さんの聞き取りが続いた。



 ◆ ◇ ◆



「で、問題はこのステータスか……」


 簡単なチェックの後、あっさりと退院した俺は自室へと戻っていた。

 ステータスが発現している探索者シーカーは基本、身体が丈夫なのだ。


 迷宮ダンジョンが発見されて四半世紀程。

 ダンジョンには銃火器の効かない魔物モンスターが跋扈しているものの、モンスターが落とすドロップアイテムにダンジョン内で採れる鉱石や何故か存在する宝箱を求めて探索者シーカー達がダンジョンに潜っていた。

 迷宮ダンジョンと共存する世界。それが今の世の中だ。


 そして、俺、西戸さいど伽羅きゃらもそんな探索者シーカーの一人だ。


 探索者シーカーはステータスが発現した者だけがなれる。そして、ステータスが発現するのは十人に一人と言われている。

 正確には役職ロールが発現することによって、ステータスやスキルを得て、まるでゲームのようなシステムが使えるようになる。


 俺も数ヶ月前の全国探索者シーカー適正検査によって役職ロールが発現した時はまるでゲームの主人公になったような気がしたものだ。

 高校入試の一環として行われる適性検査によって役職が発現した者は探索者育成高校に進学できるのだ。

 そして、俺はすぐに自分が主人公ではないことに気づいた。集められた生徒の中には主人公っぽいやつが何人もいた。それに、ギルドで見かけたヤツの中には同年代と思えないほど化け物じみた奴らも居たからだ。

 まあ、スタートダッシュには成功しているので名前付きのモブぐらいの位置はキープできそうではある。


「そう、思っていたときもありました……」

 眼の前に表示される半透明のステータス画面には先日の出来事が嘘ではなかったと思わせる結果が表示されていた。


―― 役職ロール:【迷宮管理者ダンジョンマスター


1.迷宮核ダンジョンコアが破壊されると死亡します。

2.迷宮核ダンジョンコアから離れるとステータスが下がります。

3.迷宮核ダンジョンコアに関わる不利益な行動はとれません。


 役職ロールには制約ルールがある。その強制力は様々だが、ルールに従うことによるメリットと違反した時のデメリットがあり、ルールに反した場合に死亡することもあると言われている。


役職ロール変わってるし、それに、どう見ても人類の敵側だよな【迷宮管理者ダンジョンマスター】……」

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