3、エイデン王子の探検隊
大人たちは対策を練り、時計塔見学は実施された。
ただし、暗殺者を罠に嵌める形で。
結果として暗殺者は捕まり、被害はゼロ。
ママが無事だったので、私はとても安心した。
「ルルミィのお手柄で、暗殺事件を防ぐことができた。敵対派閥を率いていた貴族が首謀者だとわかり、有罪が決まったよ……と、話してどれだけ理解してもらえるかな。まだ3歳だもんなあ。ははは……」
パパは一家団欒の席で事件の顛末を話してくれて、私をぎゅうっと抱きしめて顔中にキスをした。愛情たっぷりだ。
「君はわからないかもしれないけど、君のおかげで大切な家族と王子殿下が守れたんだ。愛しい人を失わずに済んだ……ありがとう……ほんとうに、ありがとう」
パパの声は、涙声だった。
「ぱぱ、泣いてう」
「ほんとだー」
兄妹でハンカチを握ってパパの頬を拭いてあげると、涙はどんどん勢いを増していって、パパは号泣してしまった。
「う、うちの子たちが、こんなにいい子……っ、可愛い……やさじい……っ!」
パパに釣られてママも涙ぐんでいる。
幸せな家族の団欒だ――みんなを守れて、よかった。
「せーれいさま、ありあとう、ごじゃます」
精霊様にお礼を言うと、精霊様は目を細めた。
「にゃーお(よかったね)」
精霊様の鳴き声は、優しかった。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
その後、国王陛下は私とパパをお城に呼んで、
ヴァリディシア侯爵ファミリーのお屋敷も立派だけど、お城は国王一家の住む場所。
大人の貴族たちが注目してくる。
ワッと拍手が沸く。
こんなに大勢の人の前で褒められて拍手されたのは、初めてだ。ちょっと恥ずかしい。
たくさんの視線から逃れるように、私はパパにぎゅーっとしがみついた。
「よしよし、ルルミィ。怖くないぞ」
パパは優しく私を撫でてくれた。おかげで少し安心できた。
と、そんな謁見の間に、慌てた様子の大人の声と、明るくてやんちゃな男の子の声が響く。
「アーッ、エイデン殿下ぁーっ、いけませぇーん!」
「はっはー! アーモンドの妹はおまえかー! ちっちゃいな!」
声の主は、男の子だ。
オレンジに近いきらっきらの金髪と、明るい青空の瞳をしている。
アルバートお兄様と同じくらいの年頃で、美形を見慣れている私でも、目を奪われる美少年だ。服装は、白っぽくて上品、かつフリルが多めの貴族令息風スタイルだ。頭に小さな冠をつけている。見るからに『王族』ってオーラがある。
美少年は、だだだーっと勢いよく走って来た。
後ろに従者らしき大人が数人、ついてくる。
……待って?
エイデン殿下と呼ばれていた――ということは?
「おれさまが時計塔の探検隊長だぁ! ついてこ~いっ!」
「へっ、えいでんしゃま?」
この美少年が、幼少期の主人公さま?
原作では、闇墜ちしたヴァリディシア侯爵家が世界を脅かしたとき、国のため世界のために立ち上がって悪を滅ぼす17歳の主人公。それが「エイデン様」だ。
「いかにも! おれがエイデンであるっ!」
ぐいっと私の腕を掴んで引っ張っていこうとするエイデン王子は元気いっぱいだった。陽気なオーラがすごい――そこにいるだけで世界が明るくなりそうな特別感がある。
しゃべってる感じは「やんちゃで偉そうなお子さま」だ。
「アーモンドの妹のルルルンだな! 大人の集まりは話が長くてつまらん! おれと遊べ! 拒否権はなーい!」
兄妹揃って変な名前で覚えられてる!
兄はアーモンドじゃないし、ルルルンは前世の世界で人気だったフェイスマスクの名前で、私の名前じゃありませんっ!
「こらっ、エイデン!」
お日様みたいな笑顔で話しかけるエイデン王子は、すぐに私から引き剥がされた。
でも、「おれは気にしないぜぇっ!」な態度でこっちを見て、ビシッと指を指してくる。
「説教が長くてルルフンがフンフンしてるぞ! かわいそうに! アルバカバカもよくバカバカするんだ!」
フンフンバカバカってなに?
ニコニコした無邪気な顔には悪意はなさそうだけど、王子の言語センスは独特だ。
「わ、わたちはルルミィで、お兄様はアルバートでち!」
「おー! そうそう、それだ! まあ名前なんて細かいことはいい! おれの探検隊に入れてやるっ、毎週集まって庭で探検ごっこだ!」
その日、なぜか私はエイデン王子の探検ごっこ隊メンバーになった。
探検隊は年齢が近い貴族の子どもたちで構成されていて、アルバートお兄様もメンバーだ。
「アルバート! 暗殺者を警戒だ!」
「はいっ、王子殿下」
「ルルミィはおれの嫁になれ!」
「!? 遠慮しましゅ」
「お前3歳なのに遠慮できるのか! すごいな!」
精霊様は……。
「みゃあー!(探検たのしー!)」
……今後も、仲良くしてくれそうです!
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