危機一髪

@curisutofa

目が覚めても終わらない悪夢

【ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ。ガキンッ、ガキンッ、ガキンッ】


【畜生。やっぱり駄目だっ!】


一ヶ月間に渡りボク達が暮らす故郷を包囲している敵軍の中に、根元魔法で空を自由自在に飛び回りながら、金髪ブロンデス・ハール瑠璃之青アツーア・ブラオの瞳をしていると識別出来る程に繰り返し近付いて攻撃して来る魔法使マーギアーいがいるけれど。城壁から弓で矢を射かけても、見えない壁みたいな物で全て弾かれてしまう。


傭兵ゼルドナーをしていた親父の昔話に何度も登場をする、金髪ブロンデス・ハールの悪鬼みたいな魔法使マーギアーいだが。見た目は若いな】


故郷を守る為に徴募ちょうぼに応じて民兵となったボク達を指揮する隊長が、矢を弾き飛ばしながら根元魔法による攻撃を行っている、空飛ぶ金髪ブロンデス・ハール瑠璃之青アツーア・ブラオの瞳をしている魔法使マーギアーいの様子を確認しながら話すと。


魔法使マーギアーい殿。伯爵グラーフ閣下から総攻めを開始せよとの命が下りました】


軍場いくさばでも良く通る声が響くと、金髪ブロンデス・ハール瑠璃之青アツーア・ブラオの瞳をしている魔法使マーギアーいは、空を飛びながら背後を振り返り。


【はい。騎士リッター様】


【ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ。ガキンッ、ガキンッ、ガキンッ】


城壁からボク達が、背中を見せた魔法使マーギアーいに向けて一斉に大量の矢を射かけても、空中で全て弾かれてしまった。


原子核崩壊アトーム・ツェアファル


【【バシュッウッッ!】】


【【なっ!】】【【そんなっ。城壁が一撃でっ!】】


魔法使マーギアーいが根元魔法を唱えると、城壁の一部が一瞬で消滅したっ!。


【逃げたければ逃げても構いませんよ。私が傭兵ゼルドナーとして伯爵グラーフ閣下から御受けした依頼内容は攻囲戦ですから、貴方達を鏖殺おうさつする殲滅戦フェアニヒトゥング・フェルトツークではありません】


城壁の一部を消し去った金髪ブロンデス・ハール魔法使マーギアーいが、空を飛びながらボク達に近付いて来て、路傍ろぼうの石でも見るかのような一切の関心を示さない瑠璃之青アツーア・ブラオの瞳による眼差しを向けながら、抑揚よくようの無い声で淡々と告げると。


【【うっ、うわあああっっ!】】


ボクの口から、今まで一度も叫んだ事が無い大声が発せられると、何も考えずに全力で逃げ出した。


【持ち場を勝手に離れるなっ!。故郷を守り】


原子核崩壊アトーム・ツェアファル。バシュウッ】


背後からボクに向けて何かを話そうとした隊長の声と、さっき城壁の一部を消し去った根元魔法が発動した際と同じ音が聞こえたけれど。振り返る事無くボクは必死に走って逃げた…。


『はっ!』


うなされていたな。また悪夢か?』


全身に汗をかいて目覚めたボクは、ひたいの汗を袖で拭いながら頷いて。


『あ、ああ。またあの日の出来事が夢の中で繰り返された…』


ボク達が生まれ育った故郷が攻め落とされて、灰燼かいじんしたあの日の事を、ボクは夢の中で繰り返し体験し続けている…。


『あの日に死んでいた方が、楽だったかもな』


故郷を守る為に共に戦った民兵仲間だった彼は、おりの中から星灯り以外の光源が無い暗闇に覆われている奴隷市場を見回して。


『生き残りはしたが、こうして商品として奴隷市場で売られるよりは、人間として死ぬ事が出来たあの日に死んでおくべきだった』


故郷を攻め落とされた後に、魔法使マーギアーいが話したようにボク達は皆殺しにはされなかったけれど。代わりに戦利品として平民身分を剥奪されて奴隷身分に落とされて、こうして商品として奴隷市場で売られている…。


『目が覚めていても、寝ていても終わらない悪夢が、続いているみたいだ…』


ボクの言葉に対して、元民兵仲間の彼も星灯りの下で無言で頷くだけだった…。

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