第22話 ゲームオーバー
闘技場の中心にはオーテムの神官、僧侶、僧兵たちが円形に並んでいる。
興行主の言葉も聞かずに、グラノースという聞いたこともない魔物を召喚しようとしている。
「皆さま、グラノースという魔物を御存じでしょうか?」
彼女の兄、騎士であり貴族のアルスまで、わざわざ帝国領の北、帝都マールスにやってきたらしい。
彼は観衆に向かって、雑踏の中を通り抜ける声色で演説を始めた。
由緒正しき名家の生まれなので、アリアの兄を知る民衆は多くいたのだ。
「悪魔ゼラレッテの眷属とも知られるグラノリスの系譜、その末端の魔物がグラノースです。実はその魔物は、大デナン帝国時代のコロシアムでは定番の魔物なのです。そして、当時。…デナ様へ捧げる式典では、現在の我々のように始祖たちは戦いを神にささげていました。」
しかも、彼はなんとデナ信仰の歴史を語り始める。
そして、グレイが仰天した。テルミルス帝国臣民は彼の話に興味津々なのだ。
「魔物と…、戦う剣闘士…か」
「でも、私たちが知ってる魔物は単なる労働力だよねぇ」
「いや。戦争だと魔物を使役して戦うって聞いたぞ。つまりそういうことなんじゃないか?」
眉目麗しい兄妹が左右で、それぞれ違う人々に語り掛ける。
「いえ。戦争ではあくまで悪魔の力を借りるだけです。古代は森に海に林に草原に、魔物は跋扈しておりました。そのグラノースも同様です。体高は3m、体長は7mの六足獣、それがグラノースです」
「で、でかい…。そんなのと人間が?」
「そうですよ。オーテム教会の剣士はその為の訓練も積んでいます」
…え?何を言っているんだよ。そんなの一回も…、それだったらディメントの方がマシなんだけど。っていうか、こんなところに魔物を召喚するなんて
でも、二人が話しているのは事実だよ。君だって、知っているよね。テルミルス帝国の闘技場は人間対人間の戦いしか、奴隷対奴隷の仕合いしかしないってね。
それは…、リリーに聞いたばかりだけど。っていうか、リリーは?これも作戦?
あの赤毛の子は控室に隠れてるだけだよ。やっぱりサイコロは振りたくないって。ボクの相手はしないってさ。
ここで漸く、グレイは自らが置かれた状況を理解した。
だが、それはあくまで状況の理解。
なんで⁉動かなきゃ、何も変わらない。ゲームは始まったばかりじゃん。
知らないよ。って、ボクと会話なんてしてていいのかい?君にはやるべきことがあるんじゃないの?ほら、大衆はあの兄妹の話に夢中だよ。
確かに夢中…。なんでそんなのに食いつくのか…
それは勿論、人間と魔物が戦っているところを見たいからだよ。さっきの仕合いだって、彼らは何度同じような光景を見たことだろうねー
「ね。グレイ。聞いてます?」
心の中で悪魔と会話をしていたから、鼻先がつくほどの距離のアリアに気付いていなかった。
やや遅れて、両肩を浮かせて、何度も何度も頷いてみる。
すると。
「あの鎧たちが私たちの邪魔をするんです。お兄様と協力して、牽制して頂けませんか?勿論、後で良いことをして差し上げます。例えば、あの二人に市民権を…」
途中でアリアは話を止めた。
そして、とてもにこやかにこんなことを言う。
「エアリスさんと結婚させてあげます。どうです?奴隷と言えど、飼い主の許可があれば結婚は出来ます。勿論、教会の許可も必要ですが…、それは必要ないですよね」
彼女の話はぶっ飛びすぎて、グレイは目を丸くする。
そもそも…
「な…なんで、そのことを…」
「教会を舐めないでください。ついでに私のことも舐めないでくださいね。ちゃーんと分かってます」
分かられている。理解されている。行動を全て読まれている。
それほどの力の違い、学の違い、レベルの違い。
これってヤバいよ。グレイ、このままじゃ…
【
そんなこと言われても、何をしなければならないか、分からされてるんだ。
ボクはあの女の言う事を聞きたくの!
俺だって──
どこまで遡るべきなのか。
アリアはメリアル王国の策略を知っていた。
その後、荒れ果てた大地で何をしていたのか。
「グレイ。この中でメメント・モリって言いながら、背後に立つべき人間って、誰だと思う?」
グレイは死体に埋もれた時、自らのサイコロの目で助かった。本当に?
彼を見つけたのは、誰だったか。
分からされる、解らされる、判らされる。
──良いから早く!!ダイスを振って!!二十面ダイス、100以上で逃げ切れるから!!
イスルローダが言い間違えたわけではない。
不可能な数値が出たのは、普通の行動では逃げることができないから。
つまり、この危機を乗り越える為に必要なのは
クリティカルを出さないと、この恐ろしい悪意に飲み込まれる。…っていうか、俺は最初から全て計画に組み込まれてたってこと
【4】+知性補正2及び精神力補正、学力補正。何ならありとあらゆる補正値を付け加えても、せいぜい25程度。
この場合、20以外は何の意味もない
く…。20なんて、今までの何回も出たのに…、こんな大事な場面で…
「…はい分かってます。この場で俺が背後に立つべきは」
「おい!その灰色のガキを近づかせるな!!」
分からないことは沢山。
本当に偶然だったのか。
あの日偶然、グレイは生き残ったのか。
兄妹は一体何を探していたのだろう。
白と黒、灰色の髪の毛。そして右利きでもあり、左利きでもあり
この時代の騎士。彼らの多くは、未開の大地を切り開いた豪族の子孫。
ただ、子孫というだけ。剣闘士と比べて特別強いってことはない。
「がは…」
「嘘、だろ?この鎧は魔法の鎧…なの…に」
何度も出てきた淡い光を放つ防具や剣だ。
勿論、それらに意味はある。人間なんて簡単に死んでしまうから、可能性を減らすためにお金を掛けているのだ。
例えば魔法、例えばクロスボウ。
鎧を貫く攻撃はいくらでも存在している。
「仕方ないよ。レベルが違うんだ。俺はアリア様の言う事を聞かないと…」
右腕が鎌、左腕には短剣。
命を奪う存在でしかないナニか。
あれ?
魔物を呼び出していたんだよね?
「
「この、バケモノが!!」
「ボクはグレイと一緒にゲームしてるだけだよ。大丈夫、人間はみんな、最期はゲームオーバーなんだから」
そして俺はこの手で公爵様の首を掻き切った。
だって、この男の首を収穫するために新調した鎌だから。
大丈夫。
きっと、このゲームは──
…バッドエンドでは終わらないから。
────────────
試験的にやって、グダグダで終わってスミマセンでした!
神様はサイコロを振る。悪魔は出目を教える。俺の運命が決まる。 綿木絹 @Lotus_on_Lotus
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