第46話 クリスティーヌは一体…~アルフレッド視点~

そのまま護衛たちに連れられ、退場して行こうとしていた時だった。


「お待ちください!アルフレッド様は犯人ではありませんわ」


えっ?この声は…


声の方を振り向くと、そこには毒を盛られたはずのクリスティーヌが立っていた。隣にはレイチェル嬢の姿も。


「クリスティーヌ!!」


あっけに取られている護衛たちを振り払い、そのままクリスティーヌを抱きしめた。よかった、生きていたのだな。本当によかった。溢れる涙を堪える事が出来ず、彼女を抱きしめながら泣いた。


そんな僕を


「アルフレッド様、不安な気持ちにさせてしまい、申し訳ございませんでした」


ハンカチで僕の涙を拭いてくれるクリスティーヌ。


「クリスティーヌ、君、毒を盛られたのではなかったのかい?」


「ええ、盛られましたわ。でも、すぐに解毒剤を飲みましたので大丈夫です。それよりもカリーナ殿下、よくも私の大切なアルフレッド様を傷つけて下さいましたね。その上、私の大切な親友、レイチェル様の婚約披露パーティーまで滅茶苦茶にして!絶対に許しませんわ」


クリスティーヌが強い言葉でカリーナ殿下に詰め寄っている。


「何をおっしゃっていらっしゃるの?どうして私に文句をいうのですか?私はただ、あなた様に毒を盛った犯人を突き止めただけですのに。酷いですわ…」


目に涙を浮かべ、胡散臭い演技をしている。周りも騒めき始めた。


“毒を実際持っていたのは、アルフレッド殿だよな?それなのにクリスティーヌ嬢は何を言っているのだ?”


“好きな人に毒を盛られてショックなのはわかるけれど、さすがにカリーナ殿下に言いがかりをつけるのは…”


あちこちからざわつきが聞こえる。


「皆の者、静粛に。クリスティーヌ嬢、そこまで言うなら、カリーナが犯人だという証拠を見せてくれるかい?もちろん、証拠があるのだよね」


陛下がクリスティーヌに問いかけた。クリスティーヌが、そんなものを持っているのか?いいや、持っていないだろう。クリスティーヌはきっと、僕を守るためにそう言ってくれているのだ。このままだと、クリスティーヌが僕のせいで、カリーナ殿下の名誉を傷つけた罪で捕まってしまう。


そんな事は絶対にさせない。


「犯人は僕…」


「証拠ならありますわ。皆様、これをご覧ください」


レイチェル様がスクリーンを準備すると、ある映像が流れる。


“あの女、本当に憎らしいわ。あの女のせいで、アルフレッド様が絶望にひれ伏す姿が見られないじゃない。いい、今度お兄様の婚約披露パーティーがあるでしょう?あの場でクリスティーヌを毒殺しましょう。そして犯人を、アルフレッド様に仕立て上げるの。愛するクリスティーヌを失ったうえ、自分は犯罪者にされ処刑される。あぁ、アルフレッド様が絶望にひれ伏しながら死んでいく姿…想像しただけでうっとりするわ”


「何だ、この映像は…」


さらに…


“いい、この毒をクリスティーヌに飲ませるのよ。その後は、アルフレッド様が犯人と騒ぐの。それから、あなたはこの毒をアルフレッド様のポケットに入れなさい。失敗したらあなた達の命はないわよ。分かったわね”


“承知いたしました。あの…本当に私たちは罪に問われないのでしょうか?それに王太子殿下の婚約披露パーティーで問題を起こすだなんて、さすがに…”


“何を言っているの?お兄様は私を裏切ったのよ。ついでにお兄様のパーティーも滅茶苦茶にしてやるわ。まさに一石二鳥、いえ、一石三鳥ね。とにかくやりなさい。分かったわね”


次々とカリーナ殿下の映像や音声が流れる。さらに僕のポケットにさりげなく毒を入れるメイドの姿も納められていた。


「カリーナ殿下、どうですか?この映像を見ても、まだアルフレッド様が犯人とおっしゃるのですか?」


クリスティーヌの言葉に、皆が一斉にカリーナ殿下の方を見る。


「あなた、この音声や映像をどこで手に入れたの?まさか王家にスパイでも送っていたの?王家にスパイを送るだなんて、国家反逆罪よ。この女を捕まえなさい」


何だって?ここにきて、あろう事かクリスティーヌを捕まえるだって?あり得ない。急いでクリスティーヌの前に出て、護衛たちから彼女を守る。絶対にクリスティーヌは連れて行かせないぞ!


「いい加減にしないか。カリーナ。この映像は僕が君に付けたスパイから得たものを、クリスティーヌ嬢に提供しただけだ。罪もない貴族が、君の快楽の為に命を奪われるだなんて、あってはならない。これ以上、王家の顔に泥を塗る様なことは止めろ!」


「何ですって?お兄様の許可を得てですって…お兄様、私を売ったの?」


「僕は君を売っていない。何度も忠告したはずだ。これ以上2人に何かしたら、容赦しないと!それなのに君は、僕の忠告を無視して、恐ろしい事件を犯した。今すぐカリーナを地下牢に連れて行け!」


カロイド殿下の指示で、カリーナ殿下が護衛たちに捕らえられた。


「どうして?どうして私が捕まるの?嫌よ…私はただ、アルフレッド様を愛していただけ。それなのに、アルフレッド様が私を受け入れてくれなかったのがいけないのよ。そうよ、全部アルフレッド様のせいよ!」


泣き叫ぶカリーナ殿下。そもそも、何をどうしたら僕のせいになるのだ?あり得ないだろう。


そう思っていた時だった。


「カリーナ殿下、いい加減にしてください。アルフレッド様はあなたのおもちゃではありません。心の通った人間です。自分の思い通りにならないから、絶望させて殺そうだなんて、鬼畜のする事ですわ。私は絶対にあなた様を許しません。どうか覚悟していてください!」


涙を流しながら叫ぶクリスティーヌ。僕の愛おしいクリスティーヌが僕の為に…愛おしくて彼女を抱きしめようとした時だった。


「クリスティーヌ様、よく頑張りましたね…」


そう言ってレイチェル嬢が、クリスティーヌを抱きしめたのだ。

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