第39話 さすがのレイチェル様も折れた様です
あの事件以降、レイチェル様をさらに崇拝する様になったカロイド殿下。周りの目も一切気にせず、猛烈なアプローチを掛けているのだ。カロイド殿下の姿を見たお妃候補たちが、全員辞退する程、彼のアプローチはものすごいものだった。どうやらあの事件の後、陛下たちを連れ、公爵家にレイチェル様と結婚したい旨を伝えに行ったらしい。
ただ、レイチェル様が猛烈に嫌がっている為、今は保留になっているらしいが。
そしてあの日以降、カロイド殿下とカリーナ殿下の仲は、亀裂が入ってしまった様で、馬車も別々。目があえば睨み合っている程、仲が悪くなってしまった。
カリーナ殿下と一緒にいない分、レイチェル様にベッタリなのだ。今日も追いかけてくるカロイド殿下をなんとか巻いて、今レイチェル様と2人で校舎裏に来ている。
「聞いて、幸!もう本当にあの男は一体何なのよ。我が家に毎日の様に花を持って押しかけてくるのよ!お父様もお母様もお兄様まで、完全に舞い上がっているし。陛下や王妃様からもなぜか熱烈な歓迎を受けているの。このままだと私、本当にあの性悪男と結婚させられてしまうわ!」
ハンカチを噛みながら、悔しそうにレイチェル様が叫んでいる。
「落ち着いて下さい、レイチェル様。それから私は、幸ではなくクリスティーヌです。気持ちは分かりますが、呼び方には気を付けて下さい。それにしてもあの何を考えているか分からないカロイド殿下が、ここまで自分の感情を露わにするだなんて…よほどレイチェル様の事を愛していらっしゃるのですね」
ここまでストレートに愛情表現をする人だっただなんて、私もかなり驚いている。アルフレッド様やクリスティーヌの事を考えると、レイチェル様と殿下がくっ付いてくれたら有難い。ただ…あの性悪王太子に大切な親友を渡したくはないという気持ちもあるのだ。
「ちょっとクリスティーヌ様、他人事だと思って適当な事を言って!私はあの性悪男を受け入れるなんて出来ないわ。本当にあの男、どこにでも湧いてくるのよ。まるでゴキブリみたい」
「もう、いっちゃんったら。殿下をゴキブリだなんて。でも、本当にゴキブリみたいにどこにでも湧いてくるわよね」
「ほら、幸だって私の事を、いっちゃんって呼んでいるじゃない」
そう言って2人で声を上げて笑った。この感じ、やっぱり落ち着くわ。記憶が戻ってから、今までたった1人で戦って来た。そんな中現れた、大切な親友、いっちゃんことレイチェル様。彼女がいるだけで、私の心は落ち着くのだ。
やっぱり私、レイチェル様にも幸せになって欲しいわ…
「レイチェル嬢、ここにいたのだね。随分と探したのだよ。クリスティーヌ嬢、アルフレッド殿をほったらかしにして、僕の大切なレイチェル嬢をこんなところに連れてくるだなんてどういうつもりだい?」
早速湧いて来た…失礼、現れたのはカロイド殿下だ。後ろには不安そうな顔のアルフレッド様もいる。
「本当にゴキブリの様に、どこにでも現れるのだから…」
レイチェル様がポツリと呟いたのを、私は聞き逃さなかった。本人に向かってゴキブリだなんて…もうやめてよ、笑いそうになるじゃない。て、笑っている場合ではない。
「殿下、私とレイチェル様は親友なのです。親友と2人でいて、何が悪いのですか?」
「そうですわ、それに私はまだ、あなたと婚約するとは決めていないのです。それなのに、私の周りをちょろちょろとするのはおやめください。鬱陶しいことこの上ないですわ」
プイっとあちらの方向を向いて、レイチェル様が文句を言っている。ただ、そんなレイチェル様をうっとりとした眼差しで見ている殿下。そう、殿下はレイチェル様にきつい言葉を掛けられれば掛けられるほど喜ぶ、まさにド変態なのだ。
ちょっと、作者さん。一体あなたの書いた漫画はどうなっているのよ。まさかヒーローが変態だなんて!
「レイチェル嬢、怒った顔も可愛いね…そうだ、これ、君が欲しがっていたお菓子を作る道具だよ。他国から取り寄せたんだよ」
殿下が嬉しそうにいくつかの道具を、レイチェル様に見せている。
「まあ、これは和菓子で使うハサミ、こっちは小さなハケ。他にもこんなに沢山の道具が…これがあれば、もっと色々な和菓子を作る事が出来るわ」
「レイチェル嬢が喜んでくれてよかったよ。怒った顔も好きだけれど、僕はやっぱり、君が笑った顔が一番好きなんだ。早速この道具を使って、好きなお菓子を作るといい。そうだ、王宮にも立派な厨房を準備したよ。君がいつでも嫁いできてもいい様に、色々と準備をしているのだよ」
どうやらこの男、好きな令嬢にはとことん尽くすタイプの様だ。漫画ではクリスティーヌにそんなそぶりは見せていなかった。きっと妹の為に、クリスティーヌを愛しているふりをしていたのだろう。
嬉しそうに道具を手に取っているレイチェル様を、嬉しそうに見つめる殿下。もしかしたら今の殿下なら、レイチェル様を幸せにしてくれるかもしれない…なんだかそんな気がした。
その後もカロイド殿下の猛列アプローチは半年近くも続き、さすがのレイチェル様も折れて、殿下の婚約者に内定したのだった。
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