第34話 レイチェル様も大変です

「殿下、何を戯言をおっしゃっておられるのですか?あなた様は昨日まで、クリスティーヌ様にご好意を抱いておられましたよね。それなのに、今度は私ですか?申し訳ございませんが、私は移り気の激しい殿方は苦手なのです」


笑顔だが明らかに怒っているレイチェル様。ただ、あの腹黒王太子は全くきかない様で…


「全身怒っているオーラを出しているレイチェル嬢も素敵だ。確かに昨日まではクリスティーヌ嬢に興味があった。でも、今朝君が言った通り、王太子でもあろう僕が、既にアルフレッド殿と恋仲の彼女を想い続けるのもよくないと思ったのだよ。レイチェル嬢には決まった殿方がいないのだから、僕がアプローチしても問題ないだろう?君ならきっと、立派な王妃になれるよ」


「私は王妃になんてなりたくありませんわ。次期王妃殿下には、お妃候補に名乗りの上げている令嬢たちの中から、ぜひお選びください。とにかく、私はあなた様にはこれっぽっちも興味がないのです。これ以上私に関わらないで下さい!それでは失礼します」


カロイド殿下にはっきりそう告げると、レイチェル様が足早に去って行った。


「アルフレッド様、レイチェル様が心配ですので、私も後を追いますわ。それでは失礼いたします」


「待って、クリスティーヌ」


後ろでアルフレッド様の声が聞こえるが、今は親友でもあるいっちゃんの方が心配だ。急いで彼女の元へと向かう。


「レイチェル様、大丈夫ですか?」


人気のない校舎裏にいたレイチェル様に声をかけた。


「大丈夫な訳ないでしょう!何なのよ、あの男。私の事が好きですって?ふざけないで欲しいわ。昨日まであなたの事を追い回していたくせに!それに私は、あのうさん臭い顔が大嫌いなのよ!」


ハンカチを握りしめ、レイチェル様が怒り狂っている。


「分かるわ、私もあのうさん臭い顔が嫌いだったもの…それにしても、まさかあなたを好きになるだなんて…あの人、恋多き男だったのね…」


「何が恋多き男よ!本当に迷惑だわ。あぁ、腹が立つ!誰があんな男と結婚なんてするものですか!絶対に全力で拒否してやるわ!見てなさい、あの男の思い通りになんてさせないから!」


顔を真っ赤にして宣言しているが、相手は一応この国で一番権力を持った王太子殿下だ。レイチェル様に相手がいない事をいい事に、上手く丸め込まれないかしら?なんだか心配になって来たわ…


とにかく、レイチェル様が心配だ。極力彼女の元にいよう。そう決めたのだが…


「レイチェル嬢!一緒に帰ろう。そうだ、よかったら王宮に遊びに来ないかい?美味しいお菓子を準備してあるよ。君は何の花が好きなのだい?王宮の中庭に君の好きな花畑を作るよ。レイチェル嬢が嫁いできてくれた時に、喜んでもらえる様に…」


放課後、満面の笑みでレイチェル様の元にやって来たカロイド殿下。この人、こんなキャラだったかしら?そう思うほど、生き生きとレイチェル様に話しかけている。そんな殿下を、冷ややかな眼差しで見つめるレイチェル様。


「殿下、申し訳ございませんが、今日はアレスティー公爵家にお邪魔させていただく事になっておりますの。ですので、申し訳ございません。さあ、クリスティーヌ様、アルフレッド様、参りましょう」


シッシッとレイチェル様がカロイド殿下を追い払うと、私とアルフレッド様を急いで馬車に押し込め、自分も乗り込んできた。


「待って…レイチェル嬢…」


殿下の悲痛な叫びが聞こえるが、無視してレイチェル様がドアを閉めた。そして走り出す馬車。


「本当に何なのでしょうか?あの人は。絶対に殿下なんかと結婚なんてしないわ。もう、本当に迷惑な男!」


顔を真っ赤にしてレイチェル様が怒っている。まあ、気持ちは分かるわ。彼は私達の愛してやまないアルフレッド様を殺した人物なのだから。いわば仇の様な人間なのだ。


ただ…


「ディスティーヌ嬢、そこまで殿下を嫌わなくてもいいのではないかい?君ならきっと、あの殿下をしっかりコントロールできると思うよ」


何を思ったのか、アルフレッド様がにっこり笑ってそんな事を言い出したのだ。


「まあ…アルフレッド様がそうおっしゃるなら…でも、あの腹黒王太子に嫁ぐだなんて、なんだか癪に障るのよね…でも、アルフレッド様の言う事は聞いてあげたいし…」


頬を赤らめ、レイチェル様が小声でボソボソと呟いている。地獄耳の私にはバッチリ聞こえたが、アルフレッド様には聞こえていない様で、首をかしげている。


「レイチェル様、落ち着いて下さい。私はあなた様が幸せになれる方法を考えて行動された方が良いかと思いますわ。どうかご自分の思う様に行動してくださいね」


いくらアルフレッド様に言われたからと言って、今後の人生に関わる重大な決断なのだ。どうか自分の意思を尊重して、結論を出して欲しい。私は彼女にも幸せになって欲しいと思っているのだ。


「ええ、分かっておりますわ。クリスティーヌ様、お気遣いいただきありがとうございます。さあ、公爵家に着いた様ですわね。早速私の開発した苺大福のレシピを、料理長に伝授いたしますわ」


馬車を降りると、厨房へと向かった。

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