第27話 レイチェル様が気になる
「ディスティーヌ嬢、珍しいお菓子だね。これは一体…」
「このお菓子は、私が開発しましたの。苺をアンコと呼ばれるもので包み、さらにお餅で包んだお菓子ですわ。美味しいので食べてみてください」
「レイチェル様のお菓子、本当に美味しいのですよ」
「初めて食べたが、苺がみずみずしくて、アンコ?と餅と呼ばれるものとよく合っていよ。本当にうまいんだ」
他の貴族たちが嬉しそうに頬張りながら教えてくれた。これは、苺大福よね。
「せっかくだから、私たちも頂きましょう」
「クリスティーヌ、待って…」
アルフレッド様の静止を振り切り、1口食べる。
この味は!
「いっちゃん…」
あまりにも懐かしい味に、涙が溢れ出す。この味、知っているわ。私の親友でもあり、同じくアルフレッド様推しだった“いっちゃん”。彼女の実家は和菓子屋で、彼女自身もお店をよく手伝っていた。
私はいっちゃんが作る苺大福が大好きで、よく食べていたわ。
「クリスティーヌ、急に泣き出してどうしたのだい?まさか毒が…」
心配そうな顔で私に呟くアルフレッド様。
「ごめんなさい、あまりにも美味しくて。レイチェル様、こんなにも美味しいお菓子、この世に生を受けてから初めて食べましたわ」
「それは良かったですわ。クリスティーヌ様、今まで酷い態度を取ってしまい、申し訳ございませんでした。これからは私とも仲良くしてくださると、嬉しいです。そうですわ、よかったら今日、我が家にいらっしゃいませんか?他にも美味しいお菓子があるのですが」
「それは本当ですか?是非…」
「ディスティーヌ嬢、申し訳ないがクリスティーヌは、今日は用事があってあなたの家には行けません。さあ、クリスティーヌ、そろそろ先生が来るよ。席に着こう」
「あ…でも…」
私の手を引き、そのまま席へと誘導するアルフレッド様。一体どうしたのかしら?ただ、不安そうな顔をしているアルフレッド様を見ていたら、これ以上何も言えない。
そしてそのまま、授業が始まってしまった。
さっき食べた苺大福を思い出す。あの味…絶対にいっちゃんのお店の味だわ。もしかしてレイチェル様はいっちゃん?いっちゃんは私と同じく、アルフレッド様を推していた。
もしいっちゃんがレイチェル様だったとしたら、今まで私に冷たく当たっていたのもうなずける。ヒロインの仮面をかぶった悪女、クリスティーヌを嫌っていたから。
やはり一度レイチェル様とお話しがしたい。でも、アルフレッド様はどうやら私とレイチェル様が関わる事を嫌がっている様だ。もしかしたら今まで私に冷たい態度を取っていたことを、気にしているのかもしれない。
アルフレッド様に、心配は掛けたくはないが、レイチェル様ともお話しがしたい。一体どうすればいいのかしら?
悶々とした気持ちの中、お昼を迎えた。
「クリスティーヌ、一緒に昼食を食べよう」
いつものようにアルフレッド様が私の元へとやって来た。ただ…
「今日は天気がよろしいので、中庭で食べましょう」
「そうだね、そうしよう」
当たり前のように、カリーナ殿下とカロイド殿下もやって来る。正直2人には関わりたくはないが、今まで一緒に食事をしていたのだ。他の友人たちの手前、さすがに断りづらい。仕方なく殿下たちも一緒に、中庭に向かう事にした。
「あの、今日は私も一緒に食事をしてもよろしいですか?」
私達の元にやって来たのは、レイチェル様だ。
「ええ、もちろんですわ」
優しい微笑を浮かべてやってきたレイチェル様も一緒に、食事をする事になった。私とカロイド殿下の間にスッと入り込んだレイチェル様。
一瞬怪訝そうな顔をしたカロイド殿下だったが、いつもの王子スマイルに戻った。ただ、なぜかレイチェル様を警戒しているアルフレッド様は、ずっと怪訝そうな顔をしている。さりげなく自分の方に私を引き寄せている。
それでも終始和やかな空気の中、食事は進んでいく。
「今朝のレイチェル様のお菓子、本当に美味しかったですわね。私、あんなに美味しいお菓子、初めて食べましたわ」
「僕もだよ。レイチェル嬢、あんなにも美味しいお菓子をありがとう」
周りにいた友人たちが、レイチェル様に声をかける。
「そんなにも美味しいお菓子を、レイチェル嬢は持ってきていたのかい?」
「ええ、とても美味しいお菓子で、クリスティーヌ様なんて感動のあまり、涙を流しておられましたわ」
カロイド殿下の質問に、令嬢が答えている。
「クリスティーヌ嬢が感動するだなんて。ぜひ僕も食べてみたいな。レイチェル嬢、僕にも1つもらえるかな?」
「それでしたら、私も頂きたいですわ。そんなに美味しいお菓子なら、ぜひ」
カロイド殿下とカリーナ殿下が、レイチェル様に話しかけている。
「わかりましたわ。それでは、どうぞ」
残っていた苺大福を、殿下たちに差し出すレイチェル様。さらに
「クリスティーヌ様も随分とお気に召してくださったようですので、ぜひ」
私にも1つくれたのだ。この美味しい苺大福をまた頂けるだなんて。嬉しくて早速頬張ろうとしたのだが、ジッと私を見つめているアルフレッド様の視線に気が付いた。
「アルフレッド様も苺大福が欲しいのですね。それでは、半分こしましょう」
近くにあったナイフで苺大福を半分こにすると、アルフレッド様のお口に放り込もうとしたのだが、なぜか拒否されてしまった。したかなく、1人で食べる。
そうよ、この味よ。やっぱりいっちゃんの家の苺大福の味だわ。
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