第7話 殿下ってこんな人だったかしら?

そのまま部屋を出ようとしたのだが…


「待って、クリスティーヌ嬢。まだお茶を飲んでいないのに、帰ろうとするのはどうかと思うよ。さあ、お茶にしよう。このお茶はね、隣国から取り寄せた貴重なお茶なんだよ。この前話をしたときに、飲んでみたいと言っていただろう?」


私にお茶を進めてくるカロイド殿下。仕方がない、一杯だけ付き合うとするか。早速入れて頂いたお茶を一気に飲み干した。


「とても美味しいお茶ですわ。それでは私はこれで」


そう言って席を立とうとすると


「ハハハハハ、そんなに露骨に帰ろうとするなんて。君みたいな令嬢は初めてだよ」


そう言って声を上げて笑い始めたのだ。何だ、この男。そんなにおかしいのか?訳が分からず、首をコテンとかしげる。


「クリスティーヌ嬢は、本当に分かりやすいね。実は妹に頼まれて、君に近づいて欲しいと言われたから今日呼んだだけなのだが。僕は君自身に興味を持ったよ。僕を軽くあしらい、さっさと帰ろうとする令嬢、初めて会った」


この人、何を言っているの?妹に頼まれて私に近づいた?一体何のことなの?全く意味が分からない。


「と…とにかく私は、そろそろお暇させていただきますわ。それでは、失礼いたします」


「待って!せっかくだから、一緒に中庭を散歩しようよ。公爵には時間をもらっているから、いいだろう?さあ、行こう」


私の手を握り、そのまま歩き出したカロイド殿下。


「殿下、令嬢の手を気軽に握るのはいかがなものかと。とにかく、放してください」


カロイド殿下の手をスッと振りほどいた。


「君、本当にこの前会ったクリスティーヌ嬢なのかい?全く別人に感じるのだが。あの時は、僕の美しさにノックアウトされていたのに。僕はね、この美しい顔立ちのせいか、大体の令嬢は僕が微笑むと皆頬を赤くするんだよ」


ええ、知っていますとも。あなた様はこの国で一番美しいと言われている、完璧なヒーローなのだから。


「毎回ちょっとほほ笑むだけで、ノックアウトされている令嬢に嫌気がさしていたんだよ。でも、今日のクリスティーヌ嬢は、全く僕になびかないね。それどころか、僕の事をあしらって早く帰りたいオーラ全開だ」


そう言って声を上げて笑っている。だから、何が可笑しいのよ。私は早く屋敷に戻りたいのよ。愛するアルフレッド様が、今頃玄関の外で待っているのだから!


「さすがカロイド殿下、私の心の声が分かるだなんて。はい、はっきり申し上げると、家に帰りたいです。そもそも、私はあなた様の婚約者にはなるつもりはないので、時間の無駄だと思いませんか?どうかあなた様にノックアウトされている令嬢と一緒に、楽しいお時間をお過ごしください。それでは私はこの辺で」


「待ってよ、僕は僕にノックアウトされている令嬢なんて興味がないよ。それよりも、君みたいに僕に興味のない令嬢に興味があるんだ。君の様な令嬢を僕の虜にした方が、楽しいだろう?」


こいつ、何を言っているのだろう。


「殿下、この際なのではっきりと申し上げます。私はアルフレッド様を心より愛しております。ですから、あなた様が私にどんな魔法を掛けようが、どんな色仕掛けをかけようが、あなた様を好きになる事は絶対にありません!もう一度言います。私はあなた様を、絶対に好きになりませんから、もう私には関わらないで下さい!それでは失礼いたします!」


最後くらいは美しくカーテシーを決め、クルリと反対側を向き歩き始めた。


「今日は帰してあげるけれど、僕は君を諦めないよ。そういえば来月から、貴族学院が始まるね。毎日君に会えるのを、楽しみにしているよ。あっ、でも門までは送らせてもらうよ」


満面の笑みで私の隣までやって来たカロイド殿下。胡散臭い微笑を浮かべている。そもそもこの人って、こんなキャラだったかしら?



漫画ではいつも笑顔で、アルフレッド様に怯えるクリスティーヌに常に寄り添っていたイメージしかない。それに妹に頼まれて、私を呼びだしたと言っていたわ。


妹とは、カリーナ殿下の事よね?カリーナ殿下が、どうして私を呼びだすように頼んだのかしら?全く意味が分からない。


「殿下、1つお伺いしたいのですが、どうしてカリーナ殿下は、私を呼びだすようにあなた様に頼んだのですか?」


私の隣にいたカロイド殿下に気になる事を聞いた。


「それはね…内緒!そうだな、また僕とお茶をしてくれるなら、話してあげてもいいよ。もちろん、最低でも2時間は付き合ってほしいな」


こいつ!


「お断りしますわ」


「即答で断るだなんて。僕、一応王太子なんだけれどな…でも、そんなところも気に入ったよ」


何なのよ、この人。もしかして、嫌われることを喜んでいるのかしら?ドMタイプ?あの漫画に出てくる男たちって、実は皆変り者だったのかしら?


て、今はそんな事どうでもいいわ。


ただ1つ言える事は、どうやら王太子殿下に気に入られてしまった様だ。これは面倒な事になった。せっかくアルフレッド様の心も穏やかだったのに。またアルフレッド様の心が乱されるじゃない!


もしかして、これが漫画の強制力という奴かしら?とにかく、王太子殿下にはさっさと私を諦めてもらわないと。それに、妹君のカリーナ殿下。なんだか彼女が気になる。家に帰ったら、もう一度ストーリーを思い返してみないと!

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