第六話


 「ファンタジー系4」


          堀川士朗



第六話



王暦37年。2月。

北の国では激しく雪が降っていた。

爆薬を満載したゲドレ線の地下鉄列車自爆攻撃により、地下で結ばれていた線路は破壊され封鎖されてしまう。

北の国の犯行と、タリホー帝国は一方的に決めつけた。

北の国は、いやタリホーの仕業だと譲らず話は平行線をたどったまま曖昧模糊となった。

その自爆攻撃の大爆破の影響は地上の都市にも及び、数多くのタリホー市民が死傷した。

それまで両国の深い友好の証だったゲドレ線の崩壊はいみじくも開戦後ちょうど半年が経ってからの事である……。

即ちそれはこれから、手段を選ばない戦闘が積極的に行われる事を意味した。

そこには絶望しかない。

ご覧なさい。

戦争は、何でもありだ。

猫の額ほどの領地を巡って殺し合うのだ……。



一方、北の国。

戦争に反対する北の国国内のカルト教団ドドゥイッツ教。

最近では教徒によるテロも多発していたため一斉に取り締まる事となった。

ドドゥイッツ教はタリホー帝国のシンパであり、工作機関だった。タリホーから資金提供を受け開戦前から北の国で暗躍していた。

その彼らを根こそぎ検挙し、強制収容所の壁に並べる。

その数、千数百人。


「殺れ」


栗色の長い髪を束ねた四天王サンザ将軍の号令のもと、重機関銃で滅多撃ちに蜂の巣にされる信者たち。

彼らは撃たれながら、


「北の国はまやかしの国!北の国はまやかしの国!」


と口々に叫んでいた。

吹き飛ぶ血肉!

電子機器を組み込み命中率を上げた重機関銃の水銀弾によって、信者たちの身体は炸裂していく!

硝煙が立ち上っている。

北の国騎兵たちは水銀弾で次々と老人や女、子供相手でもお構いなしに容赦なく射殺していく!


全員死亡。


ドドゥイッツ教は完全に崩壊し、教祖をはじめとした全教徒はこの世から一人残らず消えてなくなった。


「終わった?私、テロに堕した宗教は嫌いよ」


紅茶を片手に、血生臭い強制収容所を訪れた大魔王アルノの感想はそれ以上でもなく、それ以下でもなかった。



北の国の鳥類飼育センター。

成長すると全長780パルカ(80メートル)にまでなる巨大鳥グロイデルの繁殖に成功し、養殖して部隊を編成する。

グロイデルの卵は原産国であるへーカップ王国から供与されたものである。

グロイデルは成長がとても速い。


タリホー帝国の森林首都エルトポへ空襲をかけるが、敵の迎撃レシプロ戦闘機が襲いかかり、グロイデル戦略空軍爆撃部隊にも被害が出る。

敵地エルトポ上空の制空権はまだ完全に北の国のものではないのだ。



一週間の休戦期間があった。



その間を利用して北の国の女スパイ、ティチヴァン・ミュノリが帰国した。

タリホー帝国での潜伏諜報任務に一区切りがついた彼女は大魔王アルノの邸宅を訪れていた。

アルノとミュノリは上司と部下の間柄であるが、同時に愛し合う恋人同士でもあった。

夜。

アルノの部屋。

二人で葡萄酒を飲んでいる。


「ミュノリ、お疲れ様。よく帰って来てくれたわね」

「本当に長かったです」

「12年もの間よく北の国のために頑張ってくれたわ」

「陛下はお変わりなく。私は気がつけば34歳になってしまいました」

「寂しかった……」

「私も……うん」

「ん?」

「でも、いつかアルノ様にまた会えるからと思って嫌な任務にもつきました」

「本当にありがとう」

「アルノ様、愛しています」

「私もよミュノリ」


ミュノリは部屋の灯りを消してアルノにキスをした。

彼女は、大魔王アルノの孤独、そして自分自身の空白を埋めようと必死になって愛した……。



今回のタリホー戦役について、SNS上において北の国への賛同の『いいね』がタリホー帝国に比べて少ない事に大魔王アルノは不満を隠せないようだった。

そんなアルノを見かねて、四天王サンザがこう言った。


「アルノ様。いいねの数が全て正義を表している訳ではありません。それに、いいねはカネで買えます。タリホーのいいねなんてただの組織票ですよ」

「ふ~ん。まあそうなんだけどさあ~」


アルノはまだ納得がいっていない様子だった。



タリホー帝国の戦傷者は休戦期間中に、寝台特急コキュートス号で同盟国であるネルネ共和国にある温泉郷タマノイまで運ばれ、その傷を癒した。

兵らはみな湯治場で、湯ったりたっぷりのーんびりと湯につかっていた。

そこには驕りがあった。


一方その頃北の国の森の奥ではエルトポ完全攻略を模擬して、カワハラン・ズーランダー少将率いる第3戦車連隊の多砲塔戦車ゲンブが猛軍事訓練の真っ最中であった……!



            続く


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