ファンタジー系4
堀川士朗
第一話
「ファンタジー系4」
堀川士朗
第一話
東州の北のはずれ。
小さな集落。
秋の収穫を終えた農家の人々に、大鍋で作った手作りのシチューをアルノは振る舞っていた。
丹精込めて作った、人参とじゃがいもの入ったホワイトシチュー。
アルノの父親はこの村の有力者。
だが持病が悪化し、今は病の床に伏せっている。
母親はいない。
アルノは母の姿を見た事がない。
父親の説明によると、やはり母も病弱で、アルノが幼い子供の頃に亡くなってしまったらしい。
アルノは本が大好きな女の子だった。
時間があると、いつも分厚い難しい内容の本を読んでいた。
アルノは誕生日を迎え、16歳になった。
ベッドに寝たきりの父はアルノにこう言った。咳をしながら。
「アルノ。16歳になったお前に私は伝えなければならない。実は……私はお前の本当の父親ではないのだ」
「え!」
「私はある者に託されたのだ。お前という完璧なる生き物を!お前は決して死なない。永遠に16歳を繰り返すんだ。アルノ、お前はその運命に耐えきれるか?」
アルノは突然の父の告白に少し驚いたが、ああやっぱりそうだったんだという顔をしてこう言った。
「……うん。パパ。私、他の人が誰も成し得ない事をするわ。この、無限の命を使って」
「そうか。少し安心したよ……」
その年の冬にアルノの父親は病気で死んだ。
アルノはこの地方に国を作り、大魔王になる事を心に固く決めた。
王でもなく、大統領でもなく、恐怖を司り、その恐怖によって国を支配する大魔王に……!
「私はこの地に新たに『北の国』を創るわ!国花はスピカ薔薇。私が大好きなお花!素敵でしょ?」
ここに初めて『北の国』が誕生した……!
☆王暦5年。人口4200。金720。食料1680。鋼量150。兵力500。文明度20。
アルノは計画的農地改善政策を取り、この小さき国、北の国を農業立国にした。
最初は金本位制だったが、数年もしない内に造幣局を立ち上げ、その通貨単位を『スクレバス』とした。
単純比較は出来ないが、1スクレバスの価値は日本円で約280円。
貨幣には5分の1スクレバス、10分の1スクレバス硬貨が用いられ、スピカ薔薇があしらわれた。
北の国王国広場では週に一度大規模なバザールが催された。
新鮮な野菜、果物や近海で水揚げされた魚介類、肉類、乳製品などが市に並び、市の規模は大きく、国民の多くがこぞってこれを買い求め市場はいつも大盛況だった。
日用品や洋服も出回っている。
アルノはバザールを訪れ、蛍光ピンクのフワフワとした女の子向けのかわいらしい洋服を買った。
一着40スクレバス(11200円)。
さっきまでかんかん照りだった天気が、もう曇天模様だ。
雨が近い。
バザールの人々は商品を濡らさないように慌てて幌を掛け始めた。
遠くで雷が鳴っている。
アルノは馬車に乗って邸宅へと帰っていった。
☆王暦8年。人口8900。金3800。食料6700。鋼量300。兵力1800。文明度38。
秋の虫の声。
黄金色をした稲の穂が風に揺れている。
実りの秋。今年は6月の麦と秋の米が揃って大豊作だ。
農民たちはみんな笑顔で収穫している。
大魔王アルノ自らが、王のイメージとしてのキャンペーンなどではなく実際に収穫に本格的に参加し、一生懸命みなとともに汗をかきながら働いている。
そういった姿を見て国民は感動と信頼感を覚え、豊かな食料が北の国の国民の胃袋を満たすのだ。
やがて子供たちも多く生まれ、人口が増加し、国が着実に大きくなっていく。
また、北の国の評判を聞きつけて近隣諸国からの移住者も増えてきた。
☆王暦12年。人口14900。金5200。食料9900。鋼量580。兵力2700。文明度60。
領土を巡り衝突があったマナウス。
兵を送り、小規模な戦闘があった末に北の国は小国マナウスを併合した。
→☆王暦12年。人口19200。金7500。食料12500。鋼量850。兵力4800。文明度90。
その頃、北の国には大魔王アルノの直属の部下である『四天王』と呼ばれる武将がいた。
サンザ。
ケンシバ。
ネス。
トウマート。
四人とも若い女性だった。
若いので夜ともなれば、アルノの屋敷でパーリナイ!夜な夜なダンスパーティーに四天王は興じた。
特にトウマートはヒップホップダンスが上手かった。
だが、とても有能な将軍である事には間違いなかった。
大魔王の前ではラブ&ピースのはっちゃけたギャルの四人だったが、敵には勇猛果敢な将軍、戦鬼として畏れられていた。
大魔王はファンシーなぬいぐるみに囲まれたピンク色の部屋で、毎朝欠かさずはちみつたっぷりのパンケーキを食べ酵素ドリンクを飲む。
大魔王である16歳の彼女は今日も元気にツインテールの髪をフリフリしている。お気に入りのシュシュ。
サンザとネスの騎兵師団はマナウス地方を越境し、敵対勢力だったヨイトバシ共和国を攻めた。
共和国軍隊や便衣兵は長期間に渡り抵抗した。
犠牲を払いつつも前方の城を四つ攻略。前線基地である攻撃要塞とした。
年が明けヨイトバシ共和国の中枢部である首都へネケに大規模な攻撃を開始。
北の国本国とマナウス地方から経由してきたケンシバ将軍率いる第4師団が攻撃隊の援軍に現れ勝負は決した。
ヨイトバシ共和国は解体され支配下に置かれた。
北の国は5つの門を有する城塞都市ハムエルを中心に栄えていった。
まさに向かうところ敵なし、連戦連勝の北の国だった!
着実に北の国はその勢力を拡げていった……。
大魔王アルノは相変わらず16歳のままだった。
続く
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