県外遠征@京都左京区
153 鳥籠に収まらない鳥たち
月読side
「はっ……真幸くんの神力が消えた!?」
「しー。今帰ってくるから静かに待っててね、真幸はちょっと疲れてるだけだよ」
「累ちゃん……そうなの?あぁ、僕は赤ちゃん返りしちゃったのか。意識だけ先に戻った感じかな」
「うん。私がここを任されてるから、じっとしててね」
「うん……」
柔らかいお布団の中、僕よりも少し大きな姿の累ちゃんが頭を撫でてくれる。すぐ横では件がすやすや眠っていた。
……件と乳兄弟になったって事だよね、これは。一時的とは言え、複雑な気分だ。真幸くんが面倒見てくれてるなら嬉しいけど。
お布団からは颯人と真幸君の匂いがする。似た様な香りでもあの子の香りは区別がつく。颯人よりもずっと甘くて……大好きな人の匂いだから。
もしや一緒に寝てたのか!?よく覚えてないなんて悔しすぎる……もう少し赤ちゃんのふりしておこうかな。
「戻ったぞ、累」
「おかえりなさーい!」
ドアが開く音がして、反射的に目を瞑る。僕はとりあえず寝たふりをした。
衣擦れの音の後、真幸君に抱きしめられた。むちゅっと音を立てて僕の頬に触れた唇は、震えている。
待って!赤ちゃんだとチューまでしてくれるの???何この天国。
でも、真幸君の様子が気になる……どうしたんだろう。
「月読は怪我してない?件も大丈夫?」
「問題ない、はよう目を瞑るのだ」
「累……累は?」
「はぁい、元気だよー。誰もどこも怪我してないし、清音ちゃんもよく寝てる。
真幸は大変だったね……累がぎゅうってしてあげる!」
「うん……」
そっと瞼を上げると、目前に泣き腫らした真幸君の顔が見えた。眉を顰めて、目を瞑ってる。
枕の上から累ちゃんが体ごとのしかかって、颯人がその上から更にかぶさってくる。
「分霊を少し減らさぬか?神力があまりにも消費されていて、補充が追いつかぬ」
「やだ。鬼一さんがまだ帰って来てないだろ。みんなが揃うまでやめない」
「……真幸」
真幸くんが僕と件を抱き寄せて、ぎゅうぎゅう抱きしめてくる。
体が冷たくなってる……血の匂いがしてるけど真幸くんの血の匂いじゃない。……何かあったんだな。
「真幸、触るぞ」
「ん……」
颯人の手が着物の合わせを緩めて、首筋に直でキスしてる。……神力補充って、普通逆だけど?何そのやり方。
「颯人……俺、怖い。事件を巡るうちに大切な人たちがみんなが怪我するんじゃないか?次は伏見さんだ」
「案ずるな、我らは神だ。何を取られたとて死ぬことはない」
「心臓を取られたら死んじゃうよ。誰が、いつ取られるの?伏見さんの次は星野さん、その次は……」
「そのように神力を使うのはやめよ。このままでは其方まで赤子に戻ってしまうぞ」
「だって、……うぅ……」
一緒に抱えられた腕の中で、件が目を覚ました。チラッとこちらに目線をよこして、仰向けになった真幸くんの体の上にペターッとくっいている。
ふむ……子供の体温なら少しは慰めになるだろうか……真幸君が苦しんでいるなら、何か役に立ちたい。
僕も件に倣い、体をくっつけて頬に頬を擦り寄せる。颯人がなんとも言えない嫌そうな顔をしてるけど、知らないもんね。
「いいなぁ、累もやる!」
累ちゃんは真幸くんの瞼を両手で閉じて、額にチューチューし出した。ふふ、可愛いな。
「んふ、くすぐったい」
「ふ……子供らは慰めるのが上手いな。
頑固な我の花には子守唄を歌ってやろう。其方の歌だ」
「俺の?」
穏やかに微笑んだ颯人は、真幸君の首の下に腕を通し、僕達ごと抱き締めて布団をかける。
そして、ずいぶん昔の調印式で歌った……「さくら咲く」を歌い出した。
確かにこれは真幸君の歌だな。
七色の光がふわふわ漂って、僕にまでそれが降り注ぐ。
あったかい……颯人の神力が心の中まで染み込んでくる。
真幸君の動きが止まり、強張っていた体から力が抜けていく。
累ちゃんも枕に頭を乗せて寝息を立て出し、件もいつの間にか眠っていた。
風の弟の穏やかで低く優しい声は、この世の中で、機嫌を損ねたら一番厄介な神様を難なく鎮めてしまう。
颯人だけが用意できる、真幸君が安らげる場所……それは彼の傷ついた心を丸ごと受け止めて、柔らかく神力を纏わせ、歌声で体に染み込ませている。
まつ毛の先まで涙が染み込み、真幸君は瞬く。繊細なまつ毛は雫をはじき、パタパタと枕を濡らす。ギュウっと寄せられた眉根が緩んで、いつもの定位置に眉毛が垂れた。
「よいか、真幸。何もかもが其方のせいではない。大切な仲間を傷つけられたのなら、何かを失ったのなら、また立ち上がって取り戻すのだ。そのために今は休むべきだろう?」
「うん……俺は何か間違えたのかな?」
「できる最善を施していたのだから、何も間違えてはおらぬ。
例え結果がそうだったとしても、必ず全てを取り戻せる。其方は我をこの世に戻してくれただろう、それと同じ事だ」
「うん」
「我が起こすまでは眠るのだぞ。おやすみ、真幸」
「…………うん。ありがとう、颯人」
穏やかな寝息と、颯人のため息が重なって……二柱の体温が沁みてくる。
真幸君の綺麗な涙の雫を、颯人が唇で受け止めて……寄り添う熱が僕の胸を締め付けた。
あぁ、この子は颯人の傍ならこんなふうに安らげるんだ。
颯人の言葉ならちゃんと届くんだ。
目の前の幸せな光景が悲しみによって作られたものだとしても、数時間後には終わってしまうものだとしても……ずっとこのままならいいのに、と思わずにはいられなかった。
━━━━━━
「では、揃ったので始めます」
伏見が立ち上がり、目の前の黒板にたくさんの文字を記していく。
あれは、普段みんなのスケジュールとか連絡を書いておく為のものだった。
『情報共有』と書かれた黒板はいつもよりも仰々しく見える。
みんな一様に疲れた顔をしているけど、手術を受けたばかりの鈴村が飛鳥に抱えられて参加しているから……疲れたなんて言ってられないみたい。
「では、まず魔法陣の情報から共有します」
・九州の魔法陣は二種類
魔法陣その1 ダミー?(他の魔法陣を最終起動する役割と推測)
魔法陣その2 災害を引き寄せ、その力を吸い取っていた物が四つ。
これらは地底1km地点までいくつもの魔法陣が重なって展開されており、上層の魔法陣が浄化されても下層の魔法陣が生きていた。そのため最終目的の魔法陣が起動された。
最終目的は能力者の内臓を奪う事。
魔法陣の他に龍を穢しているかと思われたが、単純に血を摂った後打ち捨てていただけだった。そこに八犬士の宝玉の一つ、仁の玉のかけらがあった理由は不明。
「魔法陣に関しては今後、地下に展開している場合を想定して徹底的に破壊が必要となります。
今回の事件で仕組みが発覚したので今後の対策もわかりやすくなりました。
次は月読殿の赤子返りについてです」
時間操作をするために動いていた月読は、牧場に到着した時点で何らかの呪いがかけられていたと思われる。そのため神力の消費量が異常に増やされた。
想定される目的は八つの事件を短時間で解決する事を妨害する為と思われる。
「現時点で時間を止める事ができるのは月読殿と、海外の神のみとなりますが……ギリシャ神話の『クロノス・カイロス』は現在行方不明です」
「ん……?まさか拐われたか?」
「いえ、鬼一の心配は杞憂ですよ。何者かに拐われていると言うよりも、元々自由奔放な神々ですから。
捕まえるのに時間がかかるでしょうが、生存は確認してますので。……ここまでで質問は?」
伏見の言葉に清音ちゃんが手を上げる。鈴村をちらっと見て、何とも言えない表情になった。
「すみません、今朝何があったかを知らずにいるのは私だけみたいですが、あの……」
「清音ちゃん、ごめんなぁ。私が九州でドジってしもたんよ。例の魔法陣に内臓取られてな」
「なっ!?そ、そうなんですか!?」
「うん、ほんで魚彦と真幸に治してもろてん。何日かは動けんけど、なんも心配せんでええよ」
「…………は、はい」
鈴村の言葉に俯いたのは、真幸君と真子さん。どっちも自分のせいだと思ってるな、アレは。
真子さんは「自分が九州に呼ばなければ」と思ってて、真幸君は「自分が魔法陣を浄化しきれてたら」と思ってる。
どちらもたらればの話だし、出来ることやってこの結果なんだから仕方ない。
そんな事を言えば、鈴村が否定すると分かってるから口に出せないでいる。
フォローしてあげたいけど……それは僕の役目じゃないから黙っているしかない。
「鈴村は次の任務から外します。
時間を止める術が使えない以上一つずつ解決するのは得策とは言えませんが、人員を分けるのもまた得策ではない。正直手詰まりです」
「気になっているのは内臓を集めてどうするつもりかって話だ。昨日、陽向から何か聞いたんだろ?」
鬼一に問われて、直人が頷く。真横に居た陽向君は発言できない直人の事情も知ってて、代わりに口を開いた。
「現在主犯国の神々を招集して、天照が聴取しています。
魔法陣に『八角、龍の血』を使っていたことから犯人を推測しましたが、神々は青天の霹靂と言った反応だそうです」
「旧中務の奴は?」
「真神陰陽寮で全ての人員を確保、軟禁していますが口を割りません。黙っているところを見れば、中務が関与していると自供しているようなものですけどね」
みんなが沈黙して、真子さんが口を開いては閉じる。彼女は鈴村の事件で髪を切られて、ショートヘアになっていた。
魚彦がやってくれたんだろうね、すごくカッコよくてオシャレになってるけど……彼女も数日は戦力外だ。身に纏う神力が弱くなっている。
発言を躊躇い続ける彼女に対して鈴村が苦笑いになり、小さく笑う。
「真子さん、私は『ごめんなさい』なんて聞きたくないで?」
「わかっとる」
「真幸、あんたもやで。いつまでもへちゃむくれんのやめーや」
「…………」
真幸君が顔を上げて、普段から下がった眉毛をキリッと持ち上げた。
あー、嫌な予感がする。
「妃菜、俺の」
「断固拒否さしてもらいます。真子さんも同じこと考えてんの視えてるで。ホンマにやめてください。
自分の内臓差し出すのは良くないと思うで?特に真幸、あんたは1番それをしたらあかんやろ」
「「…………」」
テーブルの上で握りしめられた2柱の拳を見つめて、ため息がそこかしこで落ちる。
「私たちは既にたくさん子供がいるの。それに、まだ諦めてないわ」
「そやなぁ、私は自分のんを取り戻しますからぁ。悪いけど取られたままシクシク泣いてるのは性に合わないんや。
真幸はまだ1人も産んでないやろ。私はあんたと同級生の子が欲しいんやから、アホな事言うんやめてや」
「……うん」
「陽向くんの時みたいに
私のことを思ってくれるんは嬉しいけどな、仲間ってのはそう言うもんやない」
「そうね、誰かのために他の人の何かを失わせるなんて我慢ならないわ。大切な仲間なら尚の事よ」
「ごめん……」
「私も、ごめんやで」
「「わかればよろしい」」
飛鳥と鈴村が寄り添って微笑んでいる。長年付き合って来たけど、この夫婦の芯の強さにはビックリすることが多い。
僕だってわかるよ、子供が欲しいと思っていたなら落ち込んでないわけじゃないのにさ。
唯一無二の支え合える存在でいるって、こう言う事なんだなって思う。
「話がまとまりましたね。芦屋さんがくださった神器の勾玉が取り出せるようになれば、鈴村は戦線復帰と参りましょう。
さて、時間を止める術をどうするかは後回しにして……次の現場は貴船神社ですね」
「現場に伏見さんが行くの、反対なんだけど」
「それは何故ですか?」
ゆらめく瞳の中に暗い炎を宿した真幸君が伏見を見つめる。少しだけ驚いた彼はこくり、と生唾を飲み込んで目線を受け止め……目を細めた。
「此度は僕の試練でしょう。僕に関連する人が犯人の一派にいることは確かです」
「伏見さんがいなければ、怪我しないだろ」
「しかし、芦屋さんが先ほどされていた卜占ではそのような結果は出ていません」
「……見てたのか」
「当たり前ですよ。もうだいぶ昔になりますが、あなたはご自身の試練を占ってその結果を受け止めて全て占い通りになさいました。
それなら僕も、同じ事をするだけです」
「分霊は全部戻した。俺はここの守りを前よりもずっとずっと強くした。
ここに居て、俺に守られて欲しいんだけど」
「……芦屋さん」
「妃菜だってそうすればよかった。誰にも傷つけられないようにするなら、みんなここに居て、俺が1人で動けばいい」
「…………」
「伏見さんだけじゃない。星野さんも、アリスも、鬼一さんも……」
「なるほど、その順番で事件に立ち向かうわけですか」
ハッとした真幸君にニヤリと嗤って、伏見の細い目が開く。
伏見の目は直人の目の色よりも色素が薄く、
意思を揺らがせる気がないその目は、確固たる意志を持って輝いていた。
「芦屋さん。僕はあなたと同じく困難に立ち向かう機会を得られたのなら、そこからは逃げませんよ」
「逃げるんじゃなくて避けるだけだ」
「同じ事です。あなたが恐怖を抱えて、痛みを知り、絶望を味わっても颯人様を取り戻した事を忘れられる訳がありません。
あなたの様になりたいと望み続ける僕には、絶好のチャンスです」
「なんでだよ。伏見さんはそのままでいてくれよ……」
「いやですよ。僕はお育ちが良くて、家庭環境も大変よかったのでおぼっちゃまを脱しきれないんです。
母や父を寿命で亡くしたとしても、姉が生きている。そして、僕の周りには信頼できる仲間や友がいて、あなたと言う憧れの対象がいますから……チート状態ですけどね」
「憧れるなし。無為に傷だらけになる必要なんかない。……俺に守られてくれないの?」
「はい、守られてあげません。僕はあなたの右腕であり、元人間の最高の相棒ですよ?
いつまでもお坊ちゃんで居たくないですし、垢抜ける最大のチャンスを見逃すわけには参りません」
「力ずくで抑えてもいい」
「それは困りましたねぇ?僕一人では芦屋さんを止められないでしょうから」
伏見の目線が鬼一、星野、アリスを順番に見て……みんなが一様に笑顔になった。
「俺は伏見に加勢するぜ。一度本気で真幸とやり合ってみたかったんだ」
「私もです。……私には手加減してくださると思うので」
「鬼一さんは物騒だし、星野さんちょっとズルくないですかー。私は真幸さんに得意のタックル&拘束しようかなー?」
「……俺も伏見につく」
あらら……仲間に触発されて直人まで小さく呟きを漏らしたぞ。
「何でだよ。どうして……」
「お前が一人で動けばお前が犠牲になるだろ。そもそもの話、これはお前が主人公の話じゃねぇ。
これが定められた物だとしたら、それぞれの担当が主であり、立ち向かうべき試練なんだ」
「……それは、わかってる」
「芦屋がいつも言ってただろ。『伏見さんは過保護すぎる』って。それと同じ事だ。
お前が思う以上にお互いが大切でかけがえのない存在なんだぞ。
俺たちが怪我しなくてもお前が怪我したら役満だろ。国を滅ぼすのは勘弁してくれ」
「…………」
直人に睨まれて、真幸君は頬を膨らませる。珍しく乱暴に椅子に座ったその膝をたたき、颯人が微笑んだ。
「マガツヒノカミの端くれが言う通りだ。我はいつでも其方の味方だが、鬼一の一閃や伏見の一撃、アリスのたっくるは見逃してしまうやも知れぬ。白石の止めまではそうなってしまうだろう」
「全部見逃してるだろ、それ」
「我が一等大切なのは其方なのだから、無茶をすると言うなら仕方あるまい。
我も力づくでゆこう。仲間が倒されれば久方ぶりの武術指南となる」
「……むー。むーむー……」
「それではそう言う事で、情報共有を終わります。
貴船神社には丑の刻参りの時間より少し前に集合しましょう。僕は犯人の情報を見直します」
「俺はちっと高天原に行ってくらぁ、主犯国の神の顔を拝んでくるぜ」
「鬼一さん、私も行きます」
「あぁ、星野さん……天照に手紙を渡してくれますか?僕の荷物で必要な物があるので、一緒に自宅まで行って欲しいです」
「かしこまりました。私達も陽向くんのお家に入っていいんです?」
「星野さんと鬼一さんならいいですよ。天照が変な事をしない様に見張っていてください」
「……あいつ、信用ないんだな」
「そんなところです……」
「あ、真子さん!お顔の傷治してもらいませんかー?痕が残るといけませんしー!」
「……うん。ありがとうさん」
みんなが一斉に立ち上がり、それぞれが出立の用意を始めた。
真幸君は観念した様に目を瞑って椅子に背を預ける。
完全にしかめ面になってしまった彼の肩を叩き、仲間たちが家を出ていく。
「どうしてみんな言うこと聞いてくれないんだよ。
俺がつくった鳥籠の中にいてくれれば、誰も怪我しないで済むのに……」
「真幸が監禁趣味とは驚いたわねぇ」
「えっ、そう言うの好きやで。ヤンデレ監禁プレイやろ?」
「妃菜ったら……でも、私もされたいわね♡」
「せやろ?んふふ、たまらんな」
「妃菜は本当に監禁だぞ。魚彦にもしばらく動かすなって言われてるんだから」
「わかっとるわ!流石にヘロヘロやし、のんびりさしてもらいます」
テーブルに頬杖をついて、直人と目を合わせて真幸君は何か言いたげにしてる。直人は知らんぷりしてフードを被り直し、すうっと姿を消した。
ハッとした清音ちゃんはがっくり項垂れている。
「あ、あー……またお話できませんでした。お名前くらい聞きたかった……」
「清音さんは、あの神様が気になるの?」
「ずーっと見とったな」
「あらまぁ……♡」
「気に、なります。依代であるアリスさんにはすみませんけど。
声とか、立ち居振る舞いとか……さっきもとってもかっこいい発言をしてましたね!」
「わ、わー。そうなんですねー」
「あらあら、素敵なことね♡」
「ま、そのうち嫌でも一緒にいられるで。妃菜ちゃんの託宣や」
「妃菜ちゃんのは託宣じゃありませんよー。ズルいですねー」
「別にええやろ!たまにはズルしたいんや!」
「いつもしてる気がしますけどー」
「なんやて!?」
わちゃわちゃし出したアリスと妃菜ちゃんをみて、真子さんが頭をゴンっとテーブルにぶつける。
……え?ぶつけ……え??
「ちょ!?真子さん!?」
「何してはるんや!?」
「きゃー!?」
びっくりした真幸君に頭をゴンゴンやってるのを止められて、額が真っ赤になった真子さんがボロボロ涙をこぼしている。
「妃菜ちゃんに謝りたいのになんで聞いてくれへんの!モヤモヤすんの嫌やねん!」
「あかんでー?受け付けへんよ」
「なんでやの!私が九州に呼ばなきゃあんたが怪我することなかったやろ!!」
「アホやなぁ、事後にそんなこと言うても何もならん。真子さんかて髪の毛短くなってしもたやろ。……ごめんな」
「なっ、何で妃菜ちゃんに言われなあかんねん!!あほ!ホンマにずるい子やな!!」
「うん……真子さんが無事で良かったと心から思ってる。大切な友達を守れて私は自分が誇らしいわ」
「……う、うぁ……わあぁーーーん!!」
飛鳥に抱かれたまま妃菜ちゃんが手を伸ばし、大泣きの真子さんが抱きついて……二人してわんわん泣き出した。
「わぁ、女の子ってこう言う感じなのか?激しいな……」
「概ね幼少期からこんな感じですねー。本当に仲良しじゃなきゃこんな風にはなりませんけどー」
「そっか……アリスもやる?」
「私は真幸さんに抱きつきます!」
「何でだよ!?」
「やれやれ……女子は和解する術がこれとは……不可思議な物だ。茶でも入れてやろう」
颯人が席を立ち、僕は女の子たちの姦しい触れ合いを眺めた。
真幸君は、もう女の子だなぁ。めちゃくちゃ馴染んでるし……そもそもそんな括りの人じゃなかったけどね、最初から。
「ん?件……どしたの?」
「ん、ん……」
「あっ??喋れるの?」
「んー」
件は椅子の上に座った僕に抱きついて、胸元に顔を擦り寄せる。なんだ、ただの甘えん坊か。
みんなが仲良しなのを見て、寂しくなったのかな。
「仕方ないな……月読様の弟分にしてやる。今だけだぞ」
「んー」
全体で見ればちょっと奇妙に見えてもこうして体をくっつけて仕舞えばただの可愛い赤ちゃんだな。
僕は件の体を抱えて抱きしめ、仲良しの女の子たちを見守ることにした。
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