94 女神の相棒

真幸side

 

「はー、今日は酔っ払ったな。颯人、水飲むか?」

「うむ……」

「結構飲んだし、お風呂は危ないから、明日の朝入ろう」

「うむ……」



 グラスに冷たい水を注ぎ、ベッドの上に座って心ここに在らずな颯人に手渡す。水を口にしないまま颯人はじっと俺を見ていた。


「どしたんだ?お水飲まないの?」

「……飲む」

「眠たいならもう寝る?」

「…………寝ない」

「眠くないのか?」

「……眠い」



 うーむ。如何ともしがたい。目線がぶれないままだから、何か考えてるんだろうな。とりあえず待とう。口を閉じて真っ黒な目をじっと見てると……それがゆらり、と揺らいだ。



  

「何故女神になった?其方は男神か、どちらにもならぬと思っていた。将来を考えて、と言っていたがあれだけの理由とは考えられぬ」

「ん?んー……女神だとしても変化できるって聞いたけど」

 

「……確かに、神はどちらにもなれる。だが、基礎のなりから変わるには力を使う。兄上も暦書では女神として語られることが多いが、元は男だ。

 姿を変えるにも疲れ、いつしか元の姿のままになっている」


「そうなんだ。……颯人はそれが気になって話したかったの?」

「……そうだ」


 


 ようやく冷たい水を飲んで、ベッドボードにグラスが置かれる。俺の手からも空になったそれを取り上げて同じように並べ、手を繋ぐ。

 


 

「神としての姿は、その者の願望が現れる。

 なりは高天原で決定され、生きていくうちに変化するものの、原初のかたちは変えられない」

 

「うん。俺は……神様としては女の子になりたかった。男として生きるのは人としての人生が終わるまでだ。

 この体が朽ちて、人としての生を全うしたら女の子になりたいんだよ。

 一度決めたら覆すのは苦手なの」


「そう、か……」

「うん。……嫌だった?」


「嫌であるわけがない。たおやかな姿がこの目に焼きついて居る。……本当に、美しかった」


 颯人がそっと寄り添って、肩をくっつけて、お互いの黒髪が溶け合う。

 頬に触れる颯人の髪が心地よくて、ため息が溢れた。


 


「真幸に出会ってから、人と言うものを本当の意味で知った。其方に様々を教えながら、自らも学んだ。芭蕉から得た情報よりもっと深く、もっと奥底まで。

 その上で人であった真幸が女子の形を選んだのが嬉しかったのだ」

「ん……でも相棒だぞ?」


「わかっている。其方がこの先で夫婦めおとを選ばずとも、共にいられれば良い。口先の言葉ではなく、これは心からのものだ。

 ……許されるならその線は越える」

「ふふ……そんなに嬉しかったのか。男の硬い体は好きじゃないって言ってたもんな」

 

「其方には適用されぬ。それに、最近では元の体も柔らかくなっている。

 心がほぐれ、何かが整ったのだろう。硬くても良い。瑣末な事だ」

 

「ふぅん……颯人はスキンシップが多いから、どこまでが相棒なのかよくわからなくてさ。イナンナに聞いたけど、結局は自分次第だって言われたよ」

「それはそうだろう。我と其方で決めることだ」


「うん。颯人はさ、最初から一緒のお布団で寝てただろ?俺……人に触れるのが怖かったんだ。触られるのも嫌だった。」

「そうなのか……?」



 

 びっくりした顔で離れようとする体を引っ張って、抱きつく。颯人の心臓を耳に当てると鼓動が体に響き渡る。

 今更離れなくていいの。今こうしてるんだから、克服したんだってわかるだろ。

 目の前に並んだ空のコップみたいにピッタリくっつくと、颯人の腕が肩に回ってくる。


 

「我は妻と共寝をした事はなかった。其方とは、最初から寝食を共にしたいと思った」

「恋してチューするって言ったから?」

「それもあるが。……怒らぬか?」



 胸元から見上げると、不安そうに瞬く瞳。そんなに心配しなくても怒らないよ。

 颯人が俺を変えたんだ。抱きしめたら、当たり前に抱きしめ返されることが幸せなんだって知ったのは颯人のおかげなんだから。

 颯人が俺を思ってしてくれた事を、嫌だなんて思うわけがない。



  

「其方は布団に入るのをためらって、不安がっているように見えた。初日に謎は解けたが、其方の不安を消してやりたいと身勝手にも思ったのだ」

「別に身勝手じゃないだろ。……寝るのは怖かったよ。しかも出会った初日からゼロ距離だし同じ布団で寝ようとするんだもん。懐かしいな、今じゃ別々に寝るなんて考えられない。

 俺の悪夢は颯人が抑えてくれてたんだもんな。ありがとう、颯人」


 

「そう、言ってくれるのはとても喜ばしいが。夢にうなされながらも母を求めていただろう。夢見を止めてしまうのは、我のわがままでもあった。

 傷を負いながらも母を求めている姿を勝手に切なく思っていたのだ」

 

「うん……いいんだ。そうしてくれて嬉しかった。あの夢はもう見たいとは思わない。

 俺が何も考えなくても、颯人が与えてくれる愛情のおかげで浅ましい自分に嫌悪する事もなくなってさ。 

魚彦とも、赤黒とも、累とも触れ合えるし、直接触らなきゃわからない事も沢山あった。その幸せを知れたんだからこれで良かったんだ」


「我とも、そうだろう?」

「子犬みたいな目をするなっての。そうだけど。……でも、颯人にみんなと違うところがある」

「違うところ?」



 こくり、と頷くと大きな手のひらに頬を撫でられた。顔、赤い?でもいいよね、ここには颯人しかいないから。

 手のひらに顔をすりすりする。あったかくて大きい手のひら、俺が大好きな颯人の手。

 ……本当に、取り戻せてよかった。


 


「颯人は、俺にとって全部くれた神様なんだ。父も、母も、兄弟も、友達も。

 お仕事も、生活の全ても、生きる意味も……本当の悲しみも、本当の幸せも」


 


 何も知らなかった、何もしなかったから何もなかった俺の世界に……種を植えて芽を生やしてくれたのは颯人だった。

 自分で見ていなかった、知らなかった俺自身の事を……颯人が教えてくれた。

 

 愛されることを知らなかったから、誰も愛せなかった。人たらしだとか、そんなこと言われるのは颯人が全部をくれたからなんだ。

 颯人が植えたタネは今、大きく育った。颯人が言うならそれでいいけど、花とか言われるのは照れるけど……きっと俺の中には颯人が咲かせた花がある。

 颯人の色に染まった、颯人だけの花が。


 いつか実を結び、種ができるかもしれないけど……それはまだ先のことなんだよ。


  

「みんなには仲間や友情、家族への愛だって名前をつけられる。でも、颯人を一つの名前でくくるのはまだ納得できない。だから、相棒がいいんだ。……わかってくれる?」

「……そうか、わかった」



 二人して抱き合ったままベッドに寝転んで、体温を分け合う。

 胸元の累がしゅるっと抜け出て、消えてしまった。


 


「えっ?か、累?」

(今日から中で寝る!)

「えぇ……なんでだ??」


「累は本当に賢くて良い子だ。我と其方とのひと時をくれたのだろう。出会った時と同じく、二人きりの夜はとても良い」

「ぬ、ぬう……むぅ……」



 首の下に颯人が腕を通して、髪を結んでくれる。長いと寝て起きた時に絡むから、いつの間にかこうして寝る前に結んでくれるようになった。


「ありがと」

「ん……」

 

「颯人は自分も長いから髪の毛結ぶの上手いよなぁ。俺も上手にしたいけど、うまくいかないんだよ。適当にするとみんなが怒るんだ」


「雑に括るからだろう。そのままで良い、我の楽しみを減らすな」

「俺だって颯人の髪の毛結びたいんだけど」

「其方には、いつかこの髪を解いてもらおう。夜の支度だからな、其方の仕事だ」

「…………??」



 夜の支度ってなんだ?寝るのにって事?颯人だって長いんだから、解いたら絡まっちゃうんじゃないのか?


「まだ知らずとも良い。そのうちに教えてやる……明日は外宮で修練をしよう。もう寝るぞ、瞼が重くてかなわぬ」

 

「うん……おやすみ、颯人」

「あぁ、おやすみ……我の花」



 目を瞑った颯人のほおを撫でて、胸に耳を当てた。颯人が生きてる。動いてる。ちゃんと返事をくれる。

 なんで幸せなんだろうなぁ……このままずーっとこんなふうな時間が続いたらいいな。ずっと、ずっと。



「……理由を、聞き……そびれた」

「ん?」

「……」



 寝言だったみたいだ。颯人が眠りについて、すやすや寝息を立て出した。

 うん、話を逸らすのは得意なんだよ。ごめんな。颯人には嘘をつけないからさ。

 胸元で小さく小さく、誰にも聞こえない声でつぶやく。まだ、内緒にしておきたいんだ。



 

 ――女の子なら出来ることがあるんだよ、颯人。俺は……その願望を持ち始めてしまったんだ。



 乙女チックな真実を吐露して、俺も颯人の後を追いかける。夢で会えたら、もうちょっとお話ししたい。

 颯人の声が、大好きだから。


 一人でにやけて、夢の中に溶けていく。きっと幸せな夢が待っていることだろう。



 ━━━━━━


「はー……なんて気持ちがいいんだろう。早朝だからかな?こんな綺麗な空気になるってすごいなぁ」

「特別に意識の高い神職達が朝の勤目を終え、其方の祝詞も足されたのだ。さぞ潔められた事だろう」

 

「そっか。今日の参拝に来る人たちも喜んでくれるかな」

「あぁ、良い力がつく」


 

 

 現時刻 5:15

 早起きして支度をしてたら、伏見さんと白石が起きてきて、朝の修練を一緒にしたいと言うことで、みんなで外宮にやってきた。


 冷たい空気、薄暗い夜明けの色に包まれた外宮は神秘的で静謐だ。

外宮も内宮も人がたくさん参拝に訪れるから、昼は賑やかだ。それも素敵だけど、朝の雰囲気はより一層好きだな。

 

 鳥居を潜った瞬間の結界の強さもビンビン感じたし、奥に向かうにつれて朝日が登って空の色を変え、大きな杉の木々からの木漏れ日がすごく綺麗で……玉砂利を踏む音だけを楽しみながら歩いてきた。


 ここに来るだけでも浄化されそうだ。早朝に神社に来るのがクセになりそう。伊勢に住みたい。毎朝ここにきたい。


 


「今の家から越すのか?」

「うーん、あそこも気に入ってるんだけどさ。神社がないんだよ。

 特に伊勢は特別な気がする。こーんなに朝の神社が気持ちがいいなんて……すー、はー、すー、はー……あーーたまらん」

 

「ふむ……家の守りに新しく作れば良い。兄上の依代なのだから似た空気にもなるだろう。海に小さな島があった。あそこに建てよう」

「えっ、良いのかな。あそこまでは土地を買ってないんだよ。誰かが所有してるはずだけど」


 

「買ってありますよ!芦屋さん!!」

「うぇっ……伏見、ちょ……首がしまるっつーの!!」

「仕方ありませんよ、へばってるんですから」

「くっそ……朝からあんなに祝詞やるからだろ……ウップ」


 だらーんとした白石を引きずりながら伏見さんが近づいてくる。

 ……アー、俺の祝詞に当てられたか。すまんな……。白石が伏見さんを呼び捨て&タメ語に変えてる。昨日の宴会でまた仲良くなったのかな?


  


「白石、外宮を汚さないでください。神職達に迷惑がかかります」

「お前さんが首根っこ掴まなきゃ吐かねーよ!はぁ……俺はやることが山積みすぎて頭痛がしてきたぞ」


「そもそも白石は祝詞の発声から学び直しが必要です。声がガラッガラじゃないですか」

「昨日散々飲ましたの誰だよ!月読降ろしてへとへとだったっつーのに……今日から勉強し直す」

 

「ふっ、流石ですね。僕と鈴村で教えてあげますよ。ボイストレーニングの教師は鈴村ですが、僕が編み出した独特のやり方を伝授します」



 なぬ。伏見さん独特のやり方なんてあるのか!?



「伏見さん独特のって何!?俺も教えて!!」

「嫌です」

「なっ、なんでそんなにべもなく……いいじゃん、教えてくれよ」


 伏見さんは俺の鼻先にツン、と触れて首を振る。なーんでだよ!知りたい見たい聞きたいんだけど!


 


「芦屋さんは元々の声が熟したのですから変な癖をつけたくありません。言っておきますが、天照大神を下ろした方に指導するなど誰も請け負いませんからね。

 何でもかんでも頭を突っ込まないように」

 

「だって、知りたい……伏見さんが編み出すなんてきっと凄いだろ?どんななの?発生が違うのか?発音?喉の使い方?知りたいなー、俺も勉強したいなー、教えて!伏見先生」

 

「くっ……そんなので絆されませんよ!ダメなものはダメです。音の揺れに関与するものではありませんし、これは我々芦屋さん過激派にしか適用になりません。胸の中に確固たるイメージを抱くだけですし、ご本人には無理です」



 白石が微妙な顔してるぞー。なんなんだ過激派ってー。いつできたんだそんなものー。


 

「ならば我は知らなければならぬな」

「颯人様にはお伝えします」

「俺は知りたくねぇ」

「ずるい!いいな……俺も知りたいな……」


「さて、島の権利ですが。家の周辺は見えるところまで全て買い取りました。名義は芦屋さんのままです」

「そんな露骨な話の反らし方ある?!って、そんなに買ったのか?」


「えぇ。近くの村までの占有道路から芦屋さんの土地ですよ。明日にも護りのもりと神社を作りましょう」

「あっ……忘れてた。そういえば作ったほうがいいって言われてたんだ」

 

「えぇ、そうでしょうとも。それでこそ芦屋さんですから」

 

「くっ……不名誉な気がするんだが」

「フッ……護りの杜と言うよりは迷いの杜になるでしょうが。つれて行けと言われてうるさいので、倉橋や加茂にも手伝わせます」


「あっ、そういえば倉橋君お家に誘ってなかった!いやー、うっかりしてたなぁ」


「芦屋、お前案外酷いやつだな。俺も連れてけよ」

「はは……あれ?そういえば白石は一緒に住まないのか?弟さんも連れてくればいいのに」



 

 白石は顔が青いままでさらにげんなりした表情になる。


「勘弁してくれ。芦屋と颯人さんだけならまだしも、神様軍団もいるわ、神嗣のお偉いさんだらけだわ……俺が休まらねぇだろ」

「おおぅ、そう言うもんか?」

 

「そう言うもんだ。星野だって新婚で別なんだろ、そう言う扱いにしてくれ。伏見のヤキモチにもうんざりしてんだからな」



 ん……?ヤキモチ?伏見さんが?

 当人の伏見さんはもじもじしながら自分のスーツにのの字を書き始めた。



「僕が一番の人間の相棒なんですから。白石はその次ですからね。同率一位とか嫌です」

「……伏見さんは真神陰陽寮で一番だし、白石は俺の新事務所でのパートナーだろ?別々じゃん」

 

「そのうち真神陰陽寮じゃなく、あなたの事務所に移るんです。何百年も生きてなお真神陰陽寮にいるとかおかしいでしょう。

そうしたら、僕はどうなるんですか……」


 


 伏見さん……涙目なんだが。ナニコレ、可愛い。


「いいですよね?ぼ、僕は公私共に神になっても颯人様の次は譲りたくありません」

 

「ふは……なんで不安になってるんだよ。伏見さんは伏見さんだろ?特別なのは変わらないよ。

 俺の仕事を最初からサポートしてくれてたのは伏見さんだけだし、慣れてるんだからこの先も頼む。先輩なんだから、白石にも教えてやってくれ。

 颯人の次ってのもおかしいけど、伏見さんは俺の中ではもう、不動の位置にちゃんといるんだぞ」

 

「…………芦屋さんっ!」


 むぎゅっと抱きついてきた伏見さんは、仕事ではあんなにかっこいいのにな。白石の前でもこんな姿をさらけ出せるってことは本当に信頼できたんだろう。よかったよかった。


 

  

「俺の中の伏見のキャラが、音を立てて崩れていく」

「白石、伏見さんは可愛いんだぞ。鬼一さんもそうだよ」

 

「やめてくれ。これ以上妙な知識を植え付けるな」

「鬼一は可愛いと思えるようにはなったな。あれは純朴な男だ、不埒な考えを持たず一心に勤める」


「そうそう、颯人の言う通り。俺の大切な仲間達は白石で打ち止めだ。そんな気がしてるよ」

「……ふぅん……」


「よかったですね、白石」

「うっせぇ。まぁ、なんだ。ぽっと出の俺を受け入れてくれたのは嬉しいが。

期待に応えられるように頑張ります」

 

「そうしてください。僕は馬車馬が増えて嬉しいです」

「うん、このコメントはキャラ像に適してる」

「どう言う意味なんです?それは」

「そのままの意味だ!」

 

「この……鼻持ちならないですね!」



 二人が睨み合ってるけど……ニヤけてるのが隠せてないぞ。

 

 白石は出会ってからまだ日は浅いけど、皆んなに認められる物を最初から持ってた。

 努力家だし、損得勘定で動いたりしない。昨日も思ったけど、出会うべくして出会ったんだろう。


 

「其方の思う通り、仕合わせだろう」

「うん。そう思うし、思いたいってのもあるけどさ……なんとなく確信してるんだ。俺と同じ目線になろうとしてくれるのは今の仲間でおしまいだ。

 倉橋君達も凄い神継だとは思うけど、あの子は俺を尊敬しすぎてるだろ?」


「確かにな。厄介なほどに崇拝している……あぁ、日が昇った」




 外宮の杜上空に太陽が登ってきた。眩い光をあたり一面に広げて照らしていく。

 みんなでそれを眺めて、目を細めた。

 この世を遍く照らす、天照の光を。


「其方の近侍は伏見、白石。近衛は鬼一、鈴村、星野だ。在清は導きの八咫烏として伝説になるだろう」

「うーん……伝説ねぇ?」




 歴史には確かに残るかもしれんな。国護結界作っちゃったし。俺の名前ではなくヒトガミとしてなら、まぁいいか。

 日本の国を愛する神々と裏公務員だったみんなが成し得た伝説が世に残るのならとてもいい。


 

「おい、主人公。いい加減にしろ。お前が成し得たんだからな」

「そうですよ。全く……高天原に正本を作るとして、名は隠して現世に伝えましょう。作成はすでに始まっていますから」

 

「伏見こわ……もう暦書を作ってんのか?俺は関係ねーからな」

「何言ってるんです?伝説というのは形が必要なんですから。アリスさんが八咫烏なら、僕たちは『五芒の騎士』ですよ。陰陽師らしいでしょう?」

 

「……大丈夫なのかそれ?牛蒡って言われそうだが」

「そういうものを含めての歴史なんです。愛されそうじゃないですか」

 

「ふ、ふーん?鈴村あたりに怒られないといいな」

「ふん。別に怒られようが構いません。颯人様は数々の伝説がすでにありますから、芦屋さんの事をどう書くかは悩ましいところですよ。

 魚彦殿の文才に丸投げしようと思います」


  

「丸投げすんのかよ。だが、そのほうが良さそうだ。伏見が書いたらどうしても贔屓目になるし、肩書きがとんでもなく長くなりそうだし」

 

「はい。ダメ出し百回目で魚彦殿に怒られました。一生懸命考えたのに全部ボツです」

「……魚彦の気持ちが手に取るようにわかる」


 


 ……突っ込めない。この二人の会話のテンポが良すぎて口を挟めない。あんまり書かないでほしいとか言いずらい。

 魚彦は高天原でいろんな書物を書き始めたから、それもそのうち読ませてもらうんだ。

 楽しみがたくさんあるっていい事だよな……んふふ。


 


「暦書にするなら、我は女神の相棒だ」

「まーだ女の子じゃないだろ」

 

「そのうちになるのだから同じ事だろう。設定がごちゃごちゃしてしまっては伝わりにくい。兄上と同じだ」

「十分ごちゃついてるだろ、俺は」

「……ふ、否定はできぬな」



「さて、そろそろ戻って美味しい朝ごはん食べよう。そのあとはお仕事だな!」

「うむ」

「ワーカーホリックだな」

「本当ですね」



 みんなで肩を組んで、外宮から歩き出す。これからもいっぱい仕事して、頑張るぞ!

 伊勢の地は俺にとってとっても暖かくていいところだった。元気をたくさんもらえるハッピーな場所だ。


 また、ここにきたいな。その時が楽しみだ。



 足並みを揃えた俺たちは鳥居を抜けて、振り向き……腰を折って拝する。

 日の本一の神々を祀る、伊勢の地を。

 



 

  


 


 

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