90 外宮参拝と一区切り
「人神様、真神陰陽寮の皆様、ようこそ伊勢へ。
「度会さん、初めまして。芦屋真幸と言います。申し訳ありません、ご挨拶に伺うのが遅くなりました。真神陰陽寮の神継達とお邪魔させていただきます」
「謝罪は不要ですよ。事前に何度もお手紙をいただきましたし、国護結界をお繋ぎする時にあなたの神力を感じておりましたから、初めてお会いした気がしません。
想像通り、凛々しいお姿でいらっしゃる。おぉ、サルタヒコオオカミ殿もお連れになりましたか」
外宮の鳥居前で神職さんの御一行がニコニコ笑顔で迎えてくれる。
途中で寄った猿田彦神社からサルタヒコオオカミも一緒にやってきて、外宮参りに参加するって形になりました。
俺は二見興玉神社から白の着流しと羽織、サルタヒコオオカミはおしゃれな水色グラデーションの着流しだ。みんなが真っ黒だから余計目立つ気がして、ソワソワしてしまう。
「スサノオ殿は、芦屋様の中ですか?」
「あ、はい。伊勢参りはまずいかと思いまして。天照……アマテラスオオカミは顕現した方が良いでしょうか?」
上下純白の礼服を着用してお出迎えくださってるのは度会さんは壮年の男性なんだけど……この苗字を持っているならかなり歴史が深い氏族の方のはず。
子孫達は国学、神学者としても名高いお家柄だ……そんな凄い人が案内してくれるのか?
大丈夫かな。すごく緊張してしまう。
心配とは裏腹に優しく微笑んだイケオジ度会さんは、俺の手を握ってぽんぽん、と叩く。
「お好きにしていただいて構いません。ただ、そうですな……
「天照はやめといてやれ、高天原で会議中だ。内宮参拝が明日になってよかったって泣いてたぜー?
内宮はちゃーんと国で一番の自覚があるからさ、神職の奴らも堅苦しくしなきゃなんねーんだ。度会みたいにニコニコしてる奴がいるうちに旦那といちゃついとくといーよ」
「サルタヒコオオカミは何言ってんだ!颯人は旦那じゃないの!」
いちゃつくとか言わないの!俺はこう、清い心持ちで
「なんだよ、あっちで散々風呂酒飲んだ仲だろー?ちっぱい見せてもらいながら飲む酒はサイコーだったぜ!わはは!!」
「やめろ!ヒコ!ばかっ!」
サルタヒコオオカミ……通称ヒコは何も気にせずけらけら笑ってる。
高天原の温泉は、混浴だからな。隠す方がおかしいし、温泉はタオル持ち込んじゃダメだし。
いいんだ別に。俺は巨乳を目指してるわけじゃない。
イナンナみたいに重たいおっぱいで、肩こり慢性化はいやだし、まだ女の子になるって覚悟してないからな。
「ふふ、仲がよろしいですな。お気軽に回っていらしてください。我らは正殿にてお茶でも飲んでお待ちしておりますから。ゆっくりどうぞ」
「お気遣いありがとうございます」
ぺこりと頭を下げると、神職さん達が手をふりふり中に消えていく。
心遣いがあったかいな。優しい人たちだ。
「颯人」
「応…………猿田彦。お主真幸の裸を見たのか」
「おう。見たぜ?神様の体になってたからそりゃーもう可愛いおっぱいでさー」
「そうか、剣を抜け」
「えっ」
「ちょ、颯人!!何してんの!?出てきて早々キレないで!」
「我はまだ見ておらぬ」
「し、仕方ないだろ!?あの、その……大して変わんないし!」
「そーかー?今の体でも前よりはふっくらしたって言ってたが、神の体は乳とケツの膨らみはもうちょいあったぜ?背はちっと縮んでたかな。あとあれだ、手のひらに聖痕が残ってたよなー」
「あぁ、なるほど。全身くまなく見たと言う事だな……」
「おっふ、やべ。オレ様も正殿で待ってるわ〜!こっわ!颯人こっわ!」
猿田彦が笑いながら走り去っていく。颯人を掴んで後を追わないようにしてるけど、顔が怖い。
「……他に体を見た神は?」
「えっ、え……あのぅ」
「いるのだな」
「い、いるけど!!もう、そんな話してる場合じゃないだろ!」
「芦屋の言う通り。さっさと参拝済ませるぞ。
颯人さん、そう言う話は布団の中でするんだよ。うまく使ってくれってんだ」
「……なるほど。わかった」
わかられている!!!!
ええい、もう、知らないからな!!
伏見さん達の生暖かい眼差しを受けつつ、颯人にしっかり手を握られて……外宮の鳥居に頭を下げた。
━━━━━━
「はー、おなかいっぱいだ……」
「真幸、お前神様になったらよく食うな?ふるりといい勝負じゃないか」
「そんなに食べてる?」
「……結構食ってるぞ。」
現時刻 20:30 外宮参拝を終わらせて宿に帰ってきたところだ。
神様達も全員顕現してるから賑やかな食卓になったな。
伊勢の美味しい海鮮をたらふくいただいてお腹いっぱい。外宮が広くて今日の歩数は二万歩を超えてる。
俺もこんなに歩いたのは久々だ。
「鬼一さんもいっぱい食べるようになったと思うよ。筋肉量が段違いになったし」
鬼一さんが浴衣姿でニカっと笑って、お茶を啜る。袖を捲って二の腕に力こぶをムキっとしている。……本当にすごい筋肉だ。
「俺も体を鍛えてるからな!……鈴村、眠いんなら先寝てろよ。飛鳥殿、連れてってやってくれんか」
「ん、む……まだいける、まだ……」
鬼一さんの横で妃菜がうつらうつらしてる。酔っ払いのおじさんみたいなこと言ってるぞ。
飛鳥が苦笑いしながらお先に、と妃菜を抱き抱えて部屋から出ていった。
「あの二人は結局くっついたんでしょうか」
「んー、鈴村の心の整理がつきゃあっという間にそうなるだろうな」
「なるほど、恋バナ仲間が増えそうですね」
「女の子の意見が聞けるのはいいかも。若干気まずいの極みパート5が待ってそうだけど。
それにしても、あっちの話はなかなか終わらないね」
「飯は食い終わってんだからいいだろ。白石の体力が心配だがな」
「そうですね、気配が弱めになってます。流石にお疲れでしょう」
鬼一さんと星野さんが言うように、白石はちょっと疲れてる。気配が弱々しいんだ。
次々に情報を与えてしまったし、さっきまで猿田彦の面倒見てくれてたし、今は天照と月読と三人で話し合いしてる。
……大丈夫だろうか。
「俺たちもそろそろ寝るか。真幸もさっさと寝ろよ」
「そうしましょう。芦屋さん、また明日」
「うん、おやすみ」
二人を見送って、食べ終わった食器を重ねる。今回は珍しくちゃんとした旅館に泊まってるから、部屋だしでご飯をいただいたんだ。ちなみにここは白石の部屋です。なんでか知らんが白石だけ一人部屋なんだよな。
「あ、颯人……いいよ。俺がやるから」
「よい。真幸も疲れただろう。足は痛んでいないか?」
「うん、平気。ありがとう」
颯人が一緒に器を重ねてくれて、入り口側のお盆にのせる。
なんかこういうのいいな。夫婦みたいだな、なんて思ってしまう。
「ついにその言葉が出たか」
「颯人は大切な相棒だからな。夫婦じゃないけどな。どっちも……同じような物なんだとは思う」
ニコニコした颯人が背中から抱きしめてくる。ぬか喜びさせたか……?
「少しずつ進めばよい。なんと愛おしい人を得られたのかと、幸せでたまらぬ」
「恥ずかしいからそういうのヤメテ」
「へーい!目の前でいちゃこらしないでくださーい。ヤンデレ月読爆誕するよー」
「我が弟ながら、お前はすでにヤンデレであろう」
「日本no.2の神様がやめてくださいよ。芦屋、ちょっと来てくれるか」
白石に呼ばれて窓側の椅子に座る。旅館って必ずこう言うのあるよな。
椅子とテーブルの下はカーペットだ。
窓を開けて、白石がタバコに火をつけた。
「すんません、眠気覚ましに一本」
「よい。あとは其方に任せる。残して来た仕事があるのだ」
「僕の話もしておいてね、ちゃんと」
「っス。じゃあまた明日」
「天照も月読もまたな、お疲れ様」
「「応」」
二柱がさっさといなくなってしまった……なんか、ちょっと寂しい気もする。みんな、忙しそうだ。
「芦屋、お前も吸ってくれ。ちょっと真面目な話になる」
「お?わかった。」
浴衣の袖からタバコを出して、火をつける。俺が煙を吐き出す様を見て、白石が椅子の背にもたれかかった。
相当疲れてるな……。
「大丈夫だよ。俺はまだ始めたばかりで慣れてねぇけど、そのうちこれが普通になる。最初はきついが俺だって明るい未来をもらったんだ。身を粉にして働くさ」
「無理しないで欲しいんだけどな」
「お前が一番働いてんだから、そういうのは見逃してくれ。
じゃあ、羽化登仙についてから話そう」
白石が煙を吐きつつ、大量のメモ書きの中から一枚の紙を取り出す。
な、なんだこの文字???見たことのない文字が並んでる。アラビア文字のような暗号みたいな……全然読めないんだが。
「速記用の特殊文字だ。記者の真似事してたからな」
「へー!へー!!これは面白いな……」
「ダメだぞ、お前さんは他に優先事項がたくさんある。休暇期間になるまで教えてやらんからな」
「……わかった」
「知識欲の塊だな芦屋は。えーと、人間が仙人になるには具体的な数値とかはねーな。
必要なのは…
1.人と隔離する期間
2.身のうちの五行を完成させる事
3.
4.一芸に秀でる事
これらが揃って神様の判定が下りればできる。3.4に関しては神継なら殆ど合格レベルだそうだ。
判定するのは決まった神だが、元々月読もその役割を持っているってよ」
「へぇ、月読が?」
「月読は天照の補佐で様々な役割を持ってるし、天照はイザナギの左目、月読は右目から生まれただろ?あいつらは元々セットの神だからな。それで、俺は月読を芦屋から借り受ける形で、依代を勤めたらどうかと提案された」
えっ。何それ。月読を……貸す??
そんなことできるのか?
「月読の目的は芦屋のそばにいる事だ。今は魚彦が高天原で馬車馬の如く働いててあいつは比較的手が空いてる。
さらに言えば、俺はお前の助手だからな。天照の助手である月読から極意を学ぶこともできる。
借りるってのは、魚彦とククノチさんが仮契約したことがあるだろ?あれをやりゃいいんだ」
「なるほど……でも、大丈夫か?二柱とも体の負担がデカくて、俺は死にかけたんだ」
「其方には神力がない。少々危険だと思うが」
颯人が心配そうにしてる。俺も心配だ。天照と月読のパワーバランスはほとんど同じだった。神力があった俺でさえ魂を持っていかれそうだったんだぞ。
神継になったばかりの白石が危険な目に遭うのはいやだ。
「そこは他の神様の力を借りる。導きの神、猿田彦がいるだろ?芦屋もそうだ。内宮にいる神に力を分けてもらい、誘導してもらう。芦屋の中に降りた時も神々が居所を作ったんだからこれも同じ事をすればいい。
猿田彦にも頼んであるし、内宮の神にも伝えてくれるようにしてある。人海戦略……神海か?まぁそんなもんだ」
「白石、本当にすごいな……よく考えてる」
びっくりしながら答えると、颯人がふむ、と顎に手をやる。
真剣な顔だ。颯人も白石の事を大切に思ってくれてるんだな。
「それならば成せるやも知れぬな。念の為魚彦にも来るよう伝えたほうがよい」
「あ、もうメッセしてありますよ。問題ないそうです」
「ふ、手配が早いな。仙人になる過程の全ては高天原に交代で登らせてもいいやも知れぬ。時の流れが違うのだ。あちらなら現世よりも早く修練できる」
「そっすね。その辺は伏見さんと話しておきますんで、颯人さんにも協力をお願いしたいっす」
颯人が白石を見つめて、うん、と頷く。
白石がそのまま目を逸らさず、目の力を強めた。……なんだろう。
「颯人さん、それとは別件で聞いておきたいことがあります」
「なんだ」
「颯人さんは、避妊ってわかります?」
「ししししし白石!?な、何を言い出すんだ!?」
顔が熱い。白石は真剣な顔してるけど、突然どうしたんだよ。なんでそんな話題を振ってくるんだ!
「芦屋、これは照れてる場合じゃない話題だ。仕事をしていく上で産休ってのは計画的に取るべきだろ?
でなきゃお前が一人で苦労することになる。子育ては手伝えるだろうが、子供を産んだ女性は車に轢かれるくらいダメージを負うんだぜ。
さっき聞いたが、神様でも同じで『魂がつけた傷』は癒術が効かない。颯人さんの魂を背負ってやった骨折は、治すのに時間がかかっただろ?」
「たしかにそうだった。出産もそう言うものなのか?」
「あぁ。お前が独立して事務所を立てて、数十年周期で引きこもるならその時が産休に丁度いい。
今すぐしろってんじゃねぇよ、芦屋のモダモダは聞いてる。いつか愛情表現で枕を交わすかも知れないなら、ちゃんと避妊をしてほしいんだ」
「は、あ………ハイ」
「避妊、要するに子を作らぬようにと言う事か」
「そうです。芦屋のことだから妊娠しても仕事を押し通すのは、目に見えてる。それを避けたいんで」
言葉が出てこない。
顔を覆って、机に突っ伏す。
なんという話題なんだ。俺はどうしたらいいんだよ。相棒だって言ってるのについていけないだろ……。
「芦屋は聞かなくていいから耳でも塞いでおけ。
人間界では避妊用の道具がありますが、神様はあるんすか?」
「道具はないが、互いに子が欲しいと思い体を重ねるときに誓い合えば出来るものだ。誓と似ている。
誓は枕を交わさぬが、
「天照さんは、颯人さんの勾玉が溶けてるからできるって言ってましたが……それは?」
「自身の勾玉では物実とならぬ。我が人の姿の真幸と子をなすことは不可能だ。眷属の勾玉では真幸の子にはならぬ。
神の姿となれば問題は全て解決だ」
「なるほど。んじゃわかりやすくていいな。子作りしたくなったら神様の体になるって事でいいっすか」
「そういたそう。全ては真幸次第だ」
耳を塞いでも聞こえるから、恥ずかしくて体が震えてくるんですけど!!それって俺が心の整理がついて、そう言うことしたいと思ってるのがバレバレになるってことだろ!!
「別にいーだろ、そんな照れなくても。いつかはそうなるんじゃないかと俺は思うよ。
お前が嫌なうちはそのままでいいんだ。別に早くくっつけって言ってる訳じゃねぇ。
もし、そうなったら仲間内でわかったほうがありがたいし……その、なんだ。
お祝いしてやりたいし、幸せになる芦屋を見ておこぼれが欲しい。俺は、恋人を作らないって決めてるからな」
「白石……それ、どう言うこと?」
白石がおほん、とわざとらしく咳払いしてメモをまとめ……とんとん、と机の上で揃える。
タバコに火をつけて、窓の外を眺めたまま小さな声で語り出した。
「俺は幼少期の頃、隣に住んでたお姉さんが好きだった。ウチが落ちぶれて、自宅を売って、市営住宅に引っ越して別れたんだ。だが、碌でもないゴシップ雑誌の仕事をしてる時に再会した。そんで、ハニートラップされたんだよ」
「……政財界の人だったのか」
「そ。元々の実家は閑静な高級住宅街で、近所はみんな金持ちだったからな。
親が決めた婚約者が腐った議員で『結婚したくない、助けてくれ』って言われて信じたが、結果として殺されかけた。
ベッドの上で、冷たい目をして笑ってた。初めて見る顔だったな」
ふぅ、と煙を吐き出した白石の顔が歪む。遠い目をして、夜空を見てる。
「俺も一応プロだし、金が必要だし、仕事は完遂した。お姉さんの家族も、婚約者の家族もみんな悪いことしてたからな、全員死んだよ。
ハニトラかまして来た初恋の人を、俺が殺したも同然だ。落ちぶれるのに慣れてねぇお嬢様だからな……優しかったし耐えられんかったんだろ。
俺は、そのままその命を受け取った。
目の前で恨み言を言ってさ。泣いて叫んで、首を掻っ切って死んだその人「」を抱いて『愛してる』と言った」
「……まだ、好きなのか?」
「好きだよ。俺はこう見えて一途だ。他の女なんか目に入らんし、入れない。
たとえ腐った根性でも、俺を騙そうとした人だったとしても、ずっと好きだ。
小さい時、忙しい親には中々面倒見てもらえんかったからな。二人で寂しさを分け合った。
俺は、それを一生忘れたくないんだ」
「……そうか……」
白石の心のうちに巣食う闇が、切なくてあたたかいものに感じる。
そう感じさせるのは本人の愛が揺らがないものだから。
何があっても、どんな人でも、白石を好いていなかったとしても……そんなのは関係ないんだ。
「真に愛おしいと思えば、その者がどんな姿でも、どんな命でもそう思える。我にもよくわかるぞ。其方の覚悟は快いものだ」
ふ、と笑って白石が颯人と見つめ合う。二人はあっという間に仲良くなったなぁ。
「颯人さん、芦屋は自分で自覚しているよりもずっとアンタを大切に思ってる。恋人ってのに抵抗があるのは、弄ばれてしまった過去があるからだ。
体をまっさらな状態にしたって恋愛がしたいと思えるかは、現実問題として別の話だ。
だが、お互いの熱量は一緒だよ。たとえ相棒のまま終わったとしてもお互いの位置は変わらないだろう。
芦屋は神降しをして契約した体で無くなるのが怖いんだ。……そうだろ?」
「……うん」
真剣な眼差しを受けて、素直に頷く。ほんとに、俺のことよくわかってる。びっくりするくらい。
「颯人と契約したのはこの体だし、もし契約にヒビが入ったらと思うと怖い。
母が俺を生かしたのは、アリスが言うように間違いないと思ってる。その縁が切れるのも怖い気がする」
俺の吐露を聞いて、颯人が肩を抱き寄せてくる。されるがままにして、大きな肩に頭を乗せた。
「其方が我の依代だと言うことを忘れてはいまいな?我の血肉を作ったのは誰だ?」
「俺だと思うけど」
「そうだ。我の体は、其方の血肉を分けている。元々真幸の体から作られ、我らは命を繋いだだろう。
それに、命は、真幸の魂はここにある」
颯人が俺の手を取り、自分の心臓に当てる。力強く脈打つ命の鼓動。
手のひらに伝わるそれは、俺と同じ時を刻んでいた。
「いつぞや、言っていたな。一心同体だと。まさしくそのままの意味だ。真幸は我と共にあり、我は其方と共にある。恐れることなど何もない。わかるか?」
「うん……」
「芦屋は『こうあるべき』とか『これが普通』って考える奴だが、元々お前は枠なんかねぇんだ。相棒だからって一線を超えちゃならんとか、好きなら恋人にならなければって考えはよせ。
颯人さんは芦屋を抱けなかったとしても命を分け合ってるんだから満足してくれるだろ」
「…………」
「そこはうんって言ってくださいよ。プラトニックなままでも二柱はもう同じ命だ。誰にもそのことは覆せない。
相棒でも、恋人でも、夫婦でもなんだっていい。芦屋の幸せが颯人さんの幸せなんだから好きにやれ」
「さっきの話はどう受け止めたらいいんだよ」
「颯人さん以外に好きなやつできるかもしれんだろ?あー……側室とか」
「ぬ……」
「ちょ、アホなこと言うなし。俺は……颯人の他に相棒を持つ気はない」
「俺は?伏見さんは?」
「それは、人としての相棒だろ?颯人とは違う……」
俺の言葉に颯人も白石も揃ってニヤリと笑みを浮かべる。こんにゃろめ、謀ったな。
「ま、時間の問題だなぁ。俺も相棒か……そうなれるように必死でやってやるよ」
「其方も信頼しよう。伏見と違ってとてもよく誘導してくれる。白石は優秀だ」
「颯人さん悪い男だなー、俺は芦屋の味方だからな。……芦屋の気持ちを大切にしてやってください。イチャイチャしすぎたら周りが意識しちまう。
人の気持ちばっかり汲み取る、芦屋の足枷を作らんでやって欲しいです」
白石が頭を下げた……なんだ、それ。俺のためにしてくれたのか。颯人は『やられたな』と言う顔してるし。
極端な話題で颯人を乗せて、これが言いたかったのか……。
「本当に優秀だな……白石。我も自制する事を忘れぬようにする。気づかせた其方に心から感謝する」
「……うん、颯人さんならわかってくれるって信じてました。他の連中にも釘は刺しておきます。どっちにしても俺は今後もずっと一緒だからさ、よろしくお願いします」
「あぁ、其方に出会えたのは暁光だ。我からも頼む」
二人が握手してるのを、俺はなんとも言えない気持ちで見守る。白石は俺のこと本当にわかってくれてる。凄いやつだ。
まだ……わからないことが多いけど、なんとなく俺が目指したい形がわかった。
今のまま、この先もずっと続いていけるなら心のままに任せよう。
……しばらくは相棒だ!!
「あー……俺もう限界……寝る」
「我らも閨に戻ろう」
「ハイ」
「……ん?」
「俺は相棒だからな!抱っこされないぞ!」
「何を言っているのだ。出会った時からそうしていただろう。愛していると気づく前からやっていたのだから、これは相棒として普通の事だ」
「…………そう、なのか?でも、確かに今更変な風に変えてもなんか意識してるみたいだから……うーん」
「相棒同士なのだから、今までと同じにすれば良い。何も構えることはないだろう」
「そう……?そうなのか?うーん……まぁいいか」
颯人に抱き抱えられて、部屋のドアを開ける。ドアが閉まる瞬間、なぜか頭を抱えた白石の姿が見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます