第28話 そうだ、京都へ行こう その9
「芦屋さん、辛いようでしたら…」
「いや、いいよ。関係ないだろ」
現時刻 0:00。
話し合いの結果、俺と伏見さん、俺の隣に颯人、そして是清さんがいる。
幾重にも貼り重ねられてる結界に守られた伏見さんちの地下室だ。
社の下に地下室があるのは伏見家では通常なのかもな…。
蝋燭に照らされた僅かな灯りの中、昏い顔をした伏見さんと是清さんは浄衣姿。
ただ事ではない雰囲気だし、ここまで準備をさせておいて俺の個人的な感情で反故にできる状態じゃない事くらいわかるよ。
押し黙った颯人は少しの怒りと…俺を鎮めようとする優しい気配が伝わってくる。
伏見さん達も颯人も本気で心配してくれてるんだな、とわかるから余計に胸が苦しい。ポーカーフェイス、苦手なんだ…。
「本当にいいんですか?」
「大丈夫です。是清さん。颯人以外の神様達が酔っ払って、狙い通り前後不覚。颯人のお兄さん達が降りてこの辺りは強く潔められている。強固な防音結界が張れるのはおそらく今日が一番でしょう?」
「おっしゃる通りです」
「真幸…」
「平気。…ごめんな、颯人」
「真幸が謝ることではない」
「いや、俺のせいだよ。でも…だからこそ話が聞きたい。足を止めたくない。先を見て走りたいんだ。今はそれしかできないからさ」
俺の手を握った颯人が苦しそうに眉を寄せた。…そんな顔するなって。
俺の過去がなければ妃菜を受け入れていたかどうかなんてわからないけど、それが理由で悲しませているのは事実だ。
全てを抱えたままで俺は生きて、未来へ行くんだ。
颯人と…約束したからな。
「では、始めましょう…父上」
「あぁ」
是清さんが
伏見さんが立ち上がり、手印を組んで…ふわり、と女性が現れた。
この人…いや、神様は…。
巫女服姿のその神が銀色の髪と、たくさんついたふわふわの白いしっぽを
「真幸様、父上様」
「ウカノミタマノオオカミ…」
「なんで俺に頭下げるんだ??颯人じゃないの?」
俺に袱紗を手渡した是清さんと、伏見さんが同じように平伏した。
「マジで何してんの?!なんで??」
驚いて思わず叫ぶと、二人は頭を下げたまま口を開く。
「我々は命の限りなく、
「どうか御身にその証として…相伝のウカノミタマノオオカミを宿し、私どもの願いをお聞きいただけませんでしょうか」
颯人が眉を顰めてため息をつく。
手渡された袱紗を開くと、中には銀色の勾玉。
「どうして…こんな事するんだ」
「自らの目的を持って、あなたに仕え、それを達成していただきたいからです。信用に足る物として、願いを聞いていただく対価として…私達の全てを明け渡します。」
「大社も、家族も、神々も、私たちが勝手に受け継ぎ繋いだ全てをお受け取り下さい」
腹の底から生まれた熱が、頭まであっという間に登ってくる。
「受け取れない。これは…ウカノミタマノオオカミの意にも反する」
「そうだな。真幸は受け入れぬぞ。伏見らしくもないことをしおって…」
颯人の言う通りだ。らしくない事してさ。俺めちゃくちゃ頭に来てるかんね。
ウカノミタマノオオカミの悲しい顔を見てみろってんだ。
「しかし…他に証を立てようがありません」
「は??俺そんなサイテーな奴だと思われてんの?マジで腹立つんだけど」
「「…えっ?!」」
何でびっくりしてんだよ!
もー無理。もー我慢ならん。ブチギレてやる。
「あのさぁ、俺前に言ったよな。相伝だかなんだか知らんけど、そもそも神様が狐さんに縛れるわけないって。ウカノミタマノオオカミが伏見家のこと好きだから受け継がせてくれてんだよ。話し合えとも言った筈なんだが」
「…はい」
「ちょっとやりにくいから顔あげてくれ。
俺の目を見ろ。…んでどーーーーせ話してないんだろ」
「…して…ません」
やっぱりな!そうだろうな!気まずいのはわかるけど、そっちが先だろ!!
伏見さんのバカ。ほんとにバカ。不器用すぎるんだよ。
頭を上げた伏見さんも是清さんも、困った顔してる。
散々お世話になってるのに申し訳ないけどさ、それとこれとは別だ!ふざけんな。俺はガチギレだ。
「俺は伏見さんを信じて茨城での事件は口を出さなかった。
その話をしてくれるんじゃないの?
信じ合ってるつもりで居たのに何コレ。俺本気で怒ってるよ?初任務時の鬼一さんといい勝負張ってるからね」
「……」
「何かの証を立てなければ信用できないだろうなんて、俺を侮ってるのと同じだ。伏見さんとは心から信じあって、命を預ける人だと俺は思ってんの。わかる?」
「は、はい…」
「そういう訳で勾玉もその他もいらん。ウカノミタマノオオカミ、いいよな?」
ポカーンとしていたウカノミタマノオオカミがケタケタ笑い出した。
おー、颯人の血を感じるな。なかなかいい笑いっぷりだ。
「切れ方…説教臭い。さすが父上の依代…ぷくく」
「はぁ、もー。ウカノミタマノオオカミもちゃんと話しなよ。颯人みたいにズケズケ言えるだろ?物言いができない神様じゃないはずだ」
「ええ、ええ。そうです。んっふふ。あー面白い。」
「ウカノミタマノオオカミ。何故今まで黙っていた」
ウカノミタマノオオカミは目を細めてふわりと微笑む。
口に細い指を添えて、小さな笑いをこぼしてる。
「父君、あなたと同じですよ。ばでぃだからこそです。私は伏見家を愛している。歴代の依代はみーんな不器用で、申し訳なさそうに私を使うのです。私が了承しなければ受け継げないと本当は解っているのに。
それでも何も口に出せない、愚かで浅ましい…そして優しく悲しい、人間らしい一族を手放せないのです。そのままが一番可愛いでしょう?」
「ふむ…確かにな」
「若干飛び火したのを感じるけどスルーするぞ。愛してるってよ、伏見さん」
「は…はい。ええと…あの…はい…」
「俺も伏見さんが好きだ。是清さんも、お母さんも、真子さんも。心があったかくて、俺がずっと欲しかったものを分けてくれた。教えてくれた。伏見さんだって最初から俺を心配して助けてくれて、一度も嘘をついたり手抜きした事はない」
「はい…」
「そんな人に、信用に足る物がコレしかないってさぁ…俺と同じく一家を愛する神様の魂を渡されて、自分たちの全部を渡すとか言われて、腹が立つに決まってるだろ。マジでやめて。」
「…すみ…ません」
伏見さんがしょんぼりとして沈黙する。
とりあえず是清さんに袱紗を返して、あぐらをかいて座りなおした。
颯人もウカノミタマノオオカミも悪い顔してる。人間のドタバタ喜劇は神様にはいとおかし、だろうな。はぁ。
「で、話って何?さっさとしよ」
「そ、そんな…簡単な話ではないんですよ。私が話せば芦屋さんは命の危険を負う。知って仕舞えば元には戻れないんです」
「是清さん、そんなの覚悟の上です。俺はずっとそれを聴きたくて待ち兼ねてたんだ」
「託宣通りの苦難が身に降りかかります。それでも…いいのですか?」
はぁー、とどでかいため息を落として、是清さんを見つめた。もー…優しすぎる。
心配なんかしなくていいのに…俺はとっくに覚悟してるの。
そうじゃなきゃ身のうちにこんなに沢山神様を抱えたりしない。
俺だってちゃんと考えてるんだぞ。
「痛い事にも悲しい事にも俺が慣れてるって、是清さんは知ってるでしょう?俺の過去を見たんだからさ。
バディの颯人が後ろを向かないなら俺もそうありたい。
颯人は俺を疑わない。同じように思ってくれる伏見さんや是清さんに対価を欲するわけがない。何かくれなきゃ何もしない奴だと思われたくない。
それこそ俺を信じてくれよ。」
「「……」」
ポタポタ涙を流し始めた二人。俺、今日は人を泣かせてばっかりだ。胸が痛い。
あーあ、久しぶりにブチギレちゃった…はぁ。
「泣いておらんで話をしてくれぬか。我は真幸を閨で慰めたいのだが」
「別に慰めなくていいよ」
「ならぬ。我はお主の心に寄り添うと決めた。真幸の心が震える時に、寄り添い支えるのは我でありたいのだ」
「…そりゃ、どうもありがとう…って!恥ずかしいセリフ禁止!」
なんだよ急に真面目な顔して。照れるだろ。
俺たちのやり取りに二人が微笑んだ。…やっと、笑ったな。
「はぁ…まさか私が芦屋さんをブチギレさせるとは思いませんでした」
「いや、俺はいつかやるとは思ってたよ。伏見さんは不器用で優しくて、自分のことをちゃんと評価してない。真面目に生きて一生懸命働いてるくせに…ホントそういうとこ。」
「ブーメランですよ?わかってます?」
「ぐぬぬ…そうありたいと、思ってはいるけど」
「そうなんです。既に。」
「むむぅ…」
悔しい気持ちになりながら、いつもの顔に戻った伏見さんを見て胸が暖かくなる。
さぁ、洗いざらい吐いてもらうぜ!!
━━━━━━
「まずは茨城の件からです。陰陽師の確証は…表向きには掴めていません。ですが、伏見家独自のネットワークから一人の陰陽師が該当しました。蠱毒を作成した跡も見つけています。」
「…誰?」
「芦屋さんは一度彼女に出会っていると思われます。千住大橋の河川敷、颯人様が降りたあの場所にいた巫女です」
伏見さんの真面目な顔を見ながら逡巡する。思い当たるのは一人しかいない。
「彼女は陰陽師課に所属していて私が担当のあずかりでした。
名前は
「あっ…あの人がそうだったのか…」
鬼一さんが言ってた
「あの人は何してるんだ?俺ともバッティングしないし…役所内でも見ないよね」
「はい。彼女は全ての情報が秘匿されています。わかっているのは安倍晴明の子孫だということ。そして、現在は…
芦屋さんが忙しくなり、あなた専属になってから私もお会いしていません。」
「うーんむ…中務ってそもそも何?誰?」
ハッとした伏見さんは、「あはは」と笑って自嘲気味に答える。
「そうだった、そうでした。あなたはまだ本当に何もかもを知らない人だったんだ…陰陽師を始めて一年も経っていないのに。僕は…バカだな…」
おろ。伏見さんが酔った時の一人称になったな。怒りすぎたか?
「はぁ…すみません。中務は、平安時代と同じように政治の中枢に関与しています。現行で言えば陰陽師を動かしている『あずかり』の上層部、全ての超常現象に対しての権限を持ち、それを傘に着て日本の政治家を思うがままに動かす集団です」
「政治家を動かす…?」
「そうです。僕の憶測ですが、天変地異を起こしたのは…中務だと思っています」
ワ、ワーオ…もんのすごい衝撃なんだが。俺の予測と違って黒幕がより身近かもしれないってことかー。やーだなー。
「そうかぁ…でも俺、政治家の人がやってんのかと思ってた」
「中務を知らねばそうなりますね。僕も知ろうとしなければ、その中身を知り得ませんでした。ねちっこい秘密主義なんですよあそこは」
「ふむ。中務の大元は何?鬼一さんから聞いてた話では、神社庁が陰陽師を集めたのが始まりでしょ?」
「そうです。神社庁は正しい行いをしていますが…中務として選ばれた始まりの陰陽師、そして…それに
神社庁も上手くダシに使われてしまっていますね」
「なーるほどね。大ボスの名前はわからんの?」
「そこまでは流石に手を伸ばせていません。伸ばすとしたら、私があずかりを辞さねばならない。まだ、その時ではないのです」
ん、なるほどな。大体わかった。
「しかしそれを知った所で動きようがないね。
こっちがあからさまに動けば、潰そうとして出て来ちゃうかなぁ…無理に誘い出すにはまだ早いし」
「……真幸…頭がよいのか、もしや」
「もしやってなんだよ。記憶力はいいぞ」
颯人がびっくりした顔してるんだけど、酷くない?こう言う話題くらいついていけるよ。もう。
「…ううむ…政治の事はわからん。魚彦と、その…」
「言い淀むな。妃菜のところに降りた飛鳥大神の助けが必要になる」
「…そうだ」
「鈴村は…まだ信用に足るとは思えません。そして、今の話はあくまで憶測になります。伏見家が抱える隠密の掴んだ情報ですし、それこそ厳然たる証拠がありませんから」
「ふんむ…なるほどね。
そいで、その現状で俺に仕えるだの何だの言ってきたのは?」
伏見さんに代わって是清さんが口を開く。
「関西の神職は独自の信頼関係があります。
また、神社庁と神社本庁は別物…ええと…子会社と本社のようなもので、中務は神社庁主体でした」
「えっ!?神社本庁がメインじゃないの?なんで??」
「簡単に言えば実行権的なものです。象徴と実務部隊のようなものですね。
そもそも、神社本庁、神社庁を含めて我々神職は元々腐ってなどおりません」
是清さんの細い瞳に強い光が宿る。
「伏見家は陰陽師の血脈、神職の血脈を持ち…神と共に時代を歩んできました。
はるかな昔は権力に
隠密があるのはその名残ですが、私の命にかけても…そのような事はさせません」
「僕も、正しくあろうとする父の背を見て育ちました。汚い金の動き、力の動き、その中に潜りながらも正しいことを成そうとしてきた親の背を見て、それを倣うと決めています」
伏見さんも是清さんもいい目だな。
親の背を見て子は育つ…とっても素敵な親子の形だ。
だからウカノミタマノオオカミはずっと伏見家にいるんだな。
「と、言うことで私達は神社庁、中務以外の組織をまとめ、新しく団体を立ち上げます!」
「……え、まさか…」
こくりと頷く二人。颯人はのんびりふーん、と一人ごちている。
そういう事なら答えは一つだなぁ。
「謹んで断固お断りしまーす」
「ちょっ!?芦屋さん!!ここは了承して一致団結して行くところでしょう!?まだ口に出してもいませんよ!」
「やだ。流石に察した。俺プレイヤーだし長って器じゃないし。それに組織の管理したくないもん。わがままですいませんね」
「「……」」
「伏見、真幸はえーすでよかろう。要するに安倍晴明の子孫とやらをぶちのめせばよいのではないか?」
「いや、それはそうですが…大元の中務を潰すには、権力に権力をぶつけるしかないと言いますか…」
「別働でいいでしょ。是清さんが取りまとめた神職集団の組織に、ポッと出の陰陽師一年生がやってきてさ。俺がボスです!なんて通じないよ」
「しかし
「あれー?それ誰ー?俺知らないなぁ?たまたま稀有な神様が通りすがって、たまたま幸を落としたんじゃなかったっけ?」
「くっ!?」
んふふ。イジワルしちゃった。
でも、俺が動かすんじゃなくて伏見家が動かす方が絶対に相応しい。
連綿と続いた歴史の中で、闇に埋もれながらも光を手放さなかった…ウカノミタマノオオカミの言う通り、優しく、悲しい、人間らしい一族が主軸になるべきだ。
「な、別働にしてくれ。それに俺が受けた託宣が本当なら、俺が長じゃ困る事が起こるだろ?もちろんそれは乗り越える気でいるけど、一時でもいなくなったらダメでしょ。立ち上げたばっかりの組織なら尚の事だよ。
何言われても俺はやだ。断固拒否。敬われたくないでーす」
颯人が大笑いしながら俺を抱き上げ、膝の上に乗せて腕を絡めてくる。
あー、もー、好きにしてくれー。
現状できることがなんもないぞー。
秘密結社をやるなら、それをまとめ上げて軌道に乗せる時間稼ぎが必要だ。
それこそ今の仕組みをひっくり返せるような大きな団体にするしかない。
今の中務が政治権力を揺るがすような中身を持っているなら、それは必須になる。
俺はそんなの作れないよ。
国造りをした魚彦ならできそうだけど。
がっくり肩を落とした是清さん。
どうしたら…なんて呟いちゃってる。
「こうしたらどう?是清さんが作り上げた組織をちゃんと育てて、中務より『こっちの方がいいな』と思わせる。
俺は地味に日本に結界を張り続けて、実力をつける。
国護結界があれば中務は政治家を牛耳れないだろ?
当座の目標としては、実質的な中務の無力化・安倍晴明の子孫を潰す事かな。駒がなくなれば仕事にならないだろうし。
結果的に日本を守るってゴールラインは同じだし…すまんけど俺は政治に関して分からないどころじゃないからね」
「いや、そこまで具体案が出せるなら、組織内でも通じますよ!」
「理解できるのと組織を行使するのは別の話だよ。
魚彦の助言があったとして、俺はそれを先導できない。その役目は長年苦労してきて、頑張ってきた伏見家がやるべきだと思うけど?」
「私に…できるでしょうか」
「是清さんが今してる事の延長線上だろ。今出来てる事がこの先出来ないはずがない。ずっとずっとやってきた努力がもうすぐ実を結ぼうとしてるのに、その頭をすげかえるのは良くないと思う」
「確かにな。ここには真幸の作った社がある。五柱も神が在し関西では権力者なのだろう?危険があろうとも伏見稲荷大社の威厳でねじ伏せられよう」
うんうん。そうだな。その通り。
俺ができることは国護結界を作って仲間を強固に繋いで、研修して…そんなところだろう。
「私は…息子に話を聞いて、芦屋さんにお仕えしたかったのです。あなたの過去を知って、その思いはより深く強くなった。
秘密結社を先導するのは私がやりましょう。
しかし…芦屋さん、あなたを…一番に据えたいのです。それは叶いませんか」
「そこまで言ってくれるのに申し訳ないけど、俺は裏公務員みたいなのがいい。
内実としては秘密裏に国護結界を作って、裏公務員の仕事もそのまますればいいし。陰陽師達の研修もするなら、立場は必要かもなぁとは思うけど。あくまで自分の足で仕事したいんだ俺は。」
「既に馬車馬なのにまだ忙しくなってもいいと?」
「いいよ、伏見さんがそう望むなら」
「そんなキッパリと言われてしまうんですか…?大変な思いだけさせろと、そう仰ってるんですよ?」
二人とも、そんな申し訳なさそうな顔しなくていいのになぁ。伏見家は俺と比べものにならないくらい忙しくなるだろ?
ウカノミタマノオオカミが言ってた可愛いっていうのはこれだな。俺を駒として見られない。優しいから大切に思ってしまうんだ。
俺は元々社畜戦士だぞぅ。そして承認欲求の化け物だ。
大好きな伏見一家が頑張るってんなら馬でも牛でも何でもやってやるさ。
それに…件の呪いをもたらした陰陽師の正体に納得がいっていない。
颯人がずっと前に言っていた『自己犠牲の精神』を持つ人ならば、どう考えてもおかしい。
私利私欲で動くはずがないその人が茨城県でやった事と結びつかない。
魚彦が言ってたな…政治は複雑で難しい、悪いことをしながら良いことをしなければならないって。
それをできる人か…またはやらざるを得なくなっているのかわからんけど、同じ陰陽師なら話は通じるはずだ。
そういうのは組織を動かす人でなく俺みたいな現場の人がやる仕事で、俺はそれがやりたいの。
「今まで通り、俺をうまく使ってくれ。嘘がつけなくて不器用な俺は、政治的な部分では足枷になる。さっきみたいにすぐ顔に出ちゃうからさ。
平和の暁には…褒められたいし認められたいけど、俺がそうして欲しいのは仲間内だけだよ」
「芦屋さん…」
「伏見家がやる組織なら、俺は今まで通り命を預けられる。
俺を働かせる対価がどうしても必要だって言うなら…伏見のお家でお母さんのご飯が食べたい。真子さんとお手伝いして、お父さんと伏見さんが炬燵で待っててくれる時間が欲しい。俺、伏見さんちが大好きなんだ」
「……はい」
「…かしこまり…ました」
是清さんが頭を下げて…勾玉を握りしめる。
ウカノミタマノオオカミが微笑んでその姿を消した。
俺は結局欲望を撒き散らしてしまっただけな気もするけど、伏見さんも是清さんも満足そうな顔してるから良しとしよう。
とりあえずは俺の神様たちにも共有しなきゃならんし…。頭がパンクしそうだ。
眉間を揉みながらうーむ、と唸ると大きな掌がぬっと目の前に現れる。
「
「真幸が破裂してはかなわぬ」
「
「んっふふ…面白い…」
颯人に顔をむぎゅむぎゅされながら、しまらない締めで話し合いを終えた。
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