第14話 県外遠征@茨城県 その5


「我は認めておらぬ」

「あんたが認めなくても真幸が依代として役割を果たしてるんだから、きゃんせるはできねぇんだよ。そもそも本当に嫌ならオレは契約できてねぇ」

 

「我がお前を殺せば済むことだ」

「はっ、やってみろ。常々気にくわねぇと思ってたんだ。」

「いいだろう。表に出よ」


 

 今、何時だ…。颯人とタケミカヅチの言い合いで目を覚ました。

 いつもの和服姿に戻った颯人と、ギンギンに殺気を露わにしたタケミカヅチが睨み合っている。

 颯人が殺すとか口にしたの初めて聞いたんだけど…マズいな。結構怒ってるみたいだ。

 瞼が開いてもなかなか動けないしお腹に力が入らないから、声が出せない。

 手先まで冷たくて痺れたようになってて動かすのが億劫だ…。


 鬼一さんと妃菜が遠くでハラハラしてる。魚彦が立ち上がって颯人を抑えてくれてる感じだな。腕に必死で力を入れて、お腹にある颯人の勾玉に触れた。

 抱っこされてるから、颯人にくっついてる場所から神力を分けてもらう事にしよう。

 霊力がちっとも回復しないんだ…正直キツイ。




「双方鎮まれ。お主たちはいい歳して恥ずかしくないのか。なゐの神もなんとか言ってやってくれ」

「えー、ワイはどうでも…真幸と繋がって幸せやし好きにしたらええやん」

 

「なっ…役立たずめ!主たる真幸の害になろうが!」

「はー?アンタ緊急避難やて聞いたで。契約切ればええんちゃうか」

 

「よし、わかった。お主も表へ出ろ」

「はん、上等や。白黒つけたろやないかい」


 あ、ダメだ。魚彦までイライラしてる。漸くわずかに溜まった神力をお腹に集中させて、声を絞り出す。


「やめろ」


 頭がズキズキして、目の前に星が舞う。声を出したけど掠れて聞こえたかどうか…。

 体中から何かが溢れて出ていく感覚が止まず、動いてないのに手足が重い。自重じじゅうを重たく感じてるのかも知れん。

 


 


「真幸、起きたのか」

「さっきから…起きてるよ。颯人、悪いけど起こしてくれるか。

 みんなはそこに正座して」


 眉間に勝手に皺が寄る。颯人の手で背中を支えて起こしてもらい、ため息を吐く。

 鬼一さんたちは…窓際で顔を青くしてる。麻多智さんはどこ行った?…いや、見た感じ神宮じゃないなここは。

 

 畳の間、神棚…宿泊先に戻ってきてるみたいだ。現時刻、16:30 。今から茨城童子の元に行くのは無理だ。夜は超常達の力が強くなるし、これじゃ俺自身が使い物にならない。


 俺の目の前に座ってしょんぼりしてる神様達を眺める。体の軸がフラフラと定まらなくて颯人にのしかかってしまう。はぁ…困ったな。


 


「タケミカヅチ。あのさ…さっき言ったけど、俺まだ仕事があったんだ。依代になるのが誉なことはわかる。俺を好いてくれるのはありがたいが、仕事にならんだろこれじゃ」 

「……すまん」

 

「颯人も魚彦も、普段は温厚なのに挑発に乗るな。」 

「「すまぬ…」」

 

「なゐの神もだ。君は人に祀られた神だろ。神格云々を取り出したくないが魚彦よりも随分年下なのに、先輩を敬わないのは感心しない」 

「すまんやで…」



 みんなしょんぼりと頭を下げて上目遣いで見つめてくる。可愛い顔してもダメ。

 まったく…どうしてこうなった…。余裕がなくて言葉がキツいのは自覚があるんだけど…ちょっと反省してもらうしかないな。


 


「鬼一さん、伏見さんに一度事情を話してくれるかな」


 鬼一さんに声をかけると、あからさまにホッとした表情が浮かぶ。ごめんな…そんな顔させて。

 

 

「あ、あぁ。わかった。真幸は体…大丈夫なのか」

 

「ダメっぽい。霊力が0と1の間を行き来してる。さっき吐いて腹の中が空っぽだしなんか食べたい…」


 カロリーが足されれば多少マシになるかもしれないし、お腹が空いてると精神的にも良くないし。

 妃菜がうん、と頷いて立ち上がりカバンの中をガサゴソし出した。


「ほなら夕飯用意してもらって食べよ。先にお風呂入ったらええやん。神さんたちは顕現解いたらどやの?」

「うーん……」


 

 鬼一さんも妃菜もすっかり心配させてしまったみたいだ。二人ともあんまり顔色が回復しない。

 妃菜がカバンの中からウィダーなゼリーを取り出して手渡してくれる。

 微笑んだつもりで「ありがと」と呟くが、ますます眉がしょんぼりしてしまった。顔の筋肉動いてないっぽいな…やれやれ。



  

 颯人にゼリーのパウチをあけて貰い、吸い出そうとするけど力が足りないのか出てこない。底側から押し出して貰い、口に入れると甘さが痺れるように広がる。

 

 ゔぁー…生き返る。ゼリーをチューチューしながら顕現を解こうとしてみても、うんともすんとも言わないし手応えが全くない。

 俺、霊力なくなってるな。限りなくゼロに近い状態だ。

 


 

「解除出来ないっぽい。一気に中に入れたら俺が破裂しそうでちょっと怖い気もする」

「そうか…」

「破裂は怖いやん…」


「とりあえず風呂と飯、その後相談だな。颯人、すまんが風呂介助してくれるか。体が動かないんだ…頼む」

「…応」


 颯人に持ち上げられ、部屋を出て廊下を渡って行く。ゼリーを吸い出せずに諦めて胸の上に乗っけて放置するしかなくなった。

 あーん、もう…どしたらいいんだよぉ。


 

 

 颯人がエレベーターの中で頬を撫でてくる。珍しく指先が冷たい。

 胸元から顔を見上げると、切なそうに眉を顰めた表情だ。

 

「…すまぬ。真幸を守れず隙をつかれて依代にしてしまった」

「颯人のせいじゃないよ。俺こそごめんな、余裕がなくてキツイ言葉になる。」

 

「よい。翻訳の術も解けぬか」

「だめだ。なんか調整ができなくて全部吸い取られて行く感じ。困ったな…」

 

「そうか。ひと心地ついたら我が本格的に力を注ぐ。元凶にも協力させよう」

「ありがとう。男の体なんか洗わせてごめんな…」


 エレベーターがお風呂の階に到達して、扉が開く。

 一歩踏み出した颯人がニヤリと嗤った。…ナンデ?


「願ったり叶ったりだ」


 ━━━━━━


 


「はー、ちょっと一服するかぁ」

「お前…軽いな…」

 

「そう?鬼一さん、すまんけど椅子まで運んでくれー」

「おう」

「私も!」


 鬼一さんに抱えられながら妃菜と連れ立って、すっかり喫煙ブースになってしまった窓際の応接セットに座る。妃菜が窓を開けてくれて、あたたかい風が吹き込んできた。

 潮の香りにホッと一息ついて、タバコを取り出す。おわー、手がプルプルしてるな。


 苦笑いした鬼一さんが口にタバコを突っ込んで、火をつけてくれる。

 完全介護させてごめんよ。



「はー…ありがと。今日はあったかいな。春みたいな気温だけど、相変わらず異常気象かな?」

「いや、これは祝詞のせいだろう。」

「せやな、真幸の言霊はあったかかったなぁ…」


 ふわふわ微笑む二人を見て、つられて笑ってしまう。

 なんか、照れるな。


 


「広域浄化であんななるの初めて見たで。神様に近づいとるんとちゃう?」

「そうかな…ゲーゲー吐いたしカッコ悪かっただろ」

「そんな事はないんよ…ほんまに」

 

 妃菜に言われて軽口を返すと、真剣な顔で首を振られてしまう。

 横で鬼一さんがうんうん頷いてるし。

 

 

「真幸は…真幸は尊かった。かっこいいとか、もうそう言うんやなかった」

「そうだな。言葉にならん…真幸が生まれたのが天の差配だと思える程にはな」



 なんだよぉ…そんな言い方されると顔が熱いんだけど。

 二人の柏手が嬉しくて張り切ってしまったとか、言えないじゃん。

 

「ふたりとも大仰だなぁ…さて、仕事のために現状打破しないと。伏見さんはなんて?」

 

「あぁ、真幸に直接話したいと言ってたんだ。電話できそうか?」

「うん。スピーカー通話にしよう」


 


 スマートフォンを取り出して、ぽちぽちするんだが指がうまく動かない。

 妃菜が横から手を出してくれる。

 

「ありがとう」

「何も。こんな事しかできひんくて悔しいわ」


 妃菜がスマートフォンを机に置き、ため息をこぼした。

 うー、なんか落ち込ませてる…胸がズキズキしてきた。



 

『芦屋さん!!!』

「ヒェッ!?はいっ!」


 コール音がなる前に叫び声が聞こえて驚いてしまう。伏見さん…スマホ抱えて待ってたのかな?びっくりした…。



『ご無事ですか!?もうそちらに行こうかと準備してたんです!』

「や、伏見さんが居ないとみんな困るだろ?まだその段階じゃないとは思う。とりあえず生きてるから大丈夫だよ」

 

『…そうですか…心配しましたよ。粗方聞きましたが身体の状態を含めて説明していただけますか?無理せずでお願いします』

「ほい。とりあえず落ち着いたし、話しちゃおう。まずは…」


 伏見さんに現状として、卜占とリスト称号の結果、県内のほぼ全域を浄化出来た事。神々や妖怪達が鎮まった事。タケミカヅチとなゐの神が囚われていた親玉がまだ残っていることを伝える。


 

 

「で、うっかり麻多智さんに真名を伝えたらタケミカヅチとなゐの神に依代として契約されちゃって」

 

『絶句』

 

「絶句って口に出して言うの初めて聞いたんだが。ほんで俺は霊力のセーブができなくて山彦以外は全員顕現したまま、術を解けなくなってる。現状颯人がくれてる神力で生きてるが、体に力が入らない。ご飯を食べても食べても腹っぺらしのままだし眩暈と吐き気がおさまらなくて…あと、あのー…目がちゃんと見えてないっぽい」


「「えっ!?」」

 

 鬼一さんと妃菜がびっくりしてる。言ってなかったからなぁ…すまんて。説明が思いつかなくてさ。



 

『人の目が効かない状態、と言うことですね』

「そう!それだ!前と形が違うものとして見えてる。表情とかの輪郭がわかるんだが、他がぼやけてて目の色とかはわからない。サーモグラフィーみたいになってて…神様だけはちゃんと見えてる」

 

『鬼一、宣りの際の様子を』


「はい。大祓祝詞の時点で真幸は集中が極限に達していました。六根清浄大祓が始まると、集まった言霊を吸い込んで金色こんじきの光が生まれ…大地に広がり、それが全域を潔めていきました。音が消え、風が止まり雲が割れて…何もかもを感じず真幸が気絶するまでそれが続いてました」

 

『…天上を覗いてしまったんですね…それは。金色の光は人の力で生み出せません。芦屋さんは魂を神の域に突っ込んでいる状態です』


 おん…なんだそりゃ。鬼一さんも妃菜も口を抑えて青くなってるし、まずい事なんだな多分。俺金ピカだったのか?目を閉じてたし分からんかったな…。



 

『芦屋さんは人ならざるものになりかけています。私からも完全に神力しか視えていません。

 我々は人であるがゆえに、神を宿してもその身を現世に置ける。神社の隔離された神域とは違う、神様の住まう場所へと宣りで歩を進めてしまったんです。

 タケミカヅチとなゐの神の契約で霊力が途切れ、仮死状態で魂が引っ張られています。

 このままでは芦屋さんは神になってしまう』

「えっ…なにそれ怖い」

 

『怖いでは済まされませんよ。人としての生が終わり、あなたと契約した神々は全て依代を失う。そうなるとこの世が滅びます』


 おい!なにそれ。聞いてないよっ!


 

「よ、依代が死ぬと世界滅亡なの??」

 

『そうです。依代を死ぬ前に代えれば良いのですが、名だたる神を降ろせる者などいません。神は依代に心を移すのです。惚れた腫れたの騒ぎじゃないんですよ。それを失った神は堕ち、バーサーカーになります』

 

「バーサーカー…」

『ハイ。神は荒御魂あらみたま和御魂なぎみたまをお持ちです。その和を増幅して現世に神を止めるのが依代なんですから、その依代を失えば和が失われます。あなたが抱えている神は世を滅ぼせる力を持つでしょうね…』


 おー…大分困ったことになってるな。漸く事態の深刻さを理解した。神様は荒々しさと優しさを持ってるからな。

 伏見さんが言ったように『荒御魂あらみたま和御魂なぎみたま』って言うんだけど。荒御魂は正しい方向なら潔め払ったりしてくれる悪いものじゃないんだけど、古事記でもそうだが暦書のなかでは神様は結構荒っぽいんだよな…。特に颯人とタケミカヅチはまずい。

 いやそもそも、俺は死にたくないんですけど。



 

「え、どうしたらいいの伏見さん」

『颯人様はなんと?』

「あー、今神様たち皆んなで正座してる。聞いたほうがいい?颯人は風呂で色々あって一緒に反省させてるんだけど。」

 

『せ、正座で反省…ちなみにどちらに?』

「部屋の外。廊下。勝手に契約してきて颯人たちと喧嘩したからさ。風呂の話はしたくない」

『…なるほどと言い難いですね…。でしたら颯人様だけお呼びください』

 

「颯人」

「応」

 

 風を纏って颯人が姿を現す。

 反省したか?怪しい手つきはもうやめろよな…全く。

 

 椅子に座ったまま目線を送ると、顎を引いて口を尖らせてる。

 拗ねてるんかい!まぁいい。話が先だ。

 鬼一さんが椅子を持ってきてくれて、颯人が横に座った。


 

 

『伏見です。颯人様はこの状況、どう思われますか』

「神にしてしまうか、勾玉を追加で飲むしかないだろう」


『…勾玉を下されたのですね』

「そうだ。言うつもりはなかったし、伏見も口外するな。お前たちもだ」


 鬼一さんと妃菜が静かに頷く。

 勾玉ってそんなにアレなものなのか。

 魂だって言うんだから、大切な物だとは何となくわかってたけど。調べても出てきやしないし、困ってたんだ。聞いてみよっと。



 

『勾玉の真相に関しては黙秘します。まだお伝えする時期ではありません。』

「まだ言ってないのに!伏見さんも頭の中見えるの??そして黙秘は何故?!」

 

『察しました。黙秘の理由も黙秘します。

 そのうち嫌でもわかりますよ。勾玉は今どうしてるんです?』


 くっ。黙秘を黙秘されたら…どうにもならん!まぁいいや。


 

「颯人のはなんか知らんが飲まされた。魚彦のは首から下げてるよ」

 

『二柱とも下されたんですか!?』

「え、そうだけど…ダメなの?」

 

『ダメでは…ありません。尋常ならざる事ではあります。それで…量的には魚彦殿の勾玉で足りますか?』

 

「足らぬ。タケミカヅチもなゐの神の物も必要だ。今後は真幸への神降ろしに際してそれが必要となろう。先ほど廊下で話し合った結論だ」

 

『本当に廊下に居たんですか…しかし、契約したばかりの神まで勾玉を下されるでしょうか』

「すでに手中にある。」

 

『「「「は?!」」」』


 裏公務員全員で声がハモる。

 なんで!何がどうしてそうなった!?


 


「勾玉は魂の形。真幸の浮いた命を体に押し留めるにはこれしかない。そう話して一つ返事で貰ってきた」

「なんでだよ!タケミカヅチもなゐの神も今日会ったばっかだろ!?」

 

「…真幸のせいだ」

「どう言う事??」

 

「祝詞に乗せた真幸の言の葉で優しく説いて聞かせて、それに感動してしまったのだから仕方ない。他の奴らも押し寄せて渡して来たから突っ返してある」

「ええぇ…何それぇ…」



『今後芦屋さんには広域浄化は禁止事項にします。誑かしすぎです。』

「誑かした覚え無いんですけどー。なんでだー俺のせい確定かー」


「真幸のせいなのは間違いない。伏見、中務の記録には残さぬように。厄介だ」

『そういたします。では勾玉飲んでください。なう。』


「ひどいよ颯人…って伏見さん!?なうってなに!?ちょ、まっ…颯人!?」



 

 俺の顎を掴んで不満げな颯人の顔が目に映る。手に三つの勾玉。あー、やはり髪の毛付きなんだねぇ。またそれ飲むのかー。

 

 魚彦の水色の勾玉をいつの間にか手に持ってるのは何でだよ。黄色はタケミカヅチ?雷だしな。黒いのはなゐの神か。

 カラフルだなー。飴みたいだなー。

 

 タケミカヅチの金髪となゐの神の黒髪がネックレスみたいにぶら下げられてぷらぷらしてる。魚彦と同じように編み込んであるからイケるか?

 ……行きたくない。すごく。


 

「さぁ飲め。真幸。さぁさぁ」

「ちょまって!!なんで髪の毛毎回ついて…いやっ!やめて!!アーッ!!」


 ━━━━━━



 

「生娘のような断末魔だったな」

「…イイ…」


「二人とも…変なこと言うなし…うえっぷ」

『お身体はいかがですか、芦屋さん』


 気遣わしげな伏見さんの声。

 でも止めてくれなかっただろ!くっそー。なんか腹の中でガチャガチャ言っている気がしてならない。ぐぬぬ。


 体をもそもそ動かしてみる。手の先まで神経が戻ってきてるかな…グーパーできるし。体全体はまだ動かんな。


 


「目と体はまだ戻らんけど、手先は動くよ。腹に力は入るから、喋りやすくなった」

 

『ほっ…よかった…。もし可能ならご飯をできるだけ食べてください。食堂に伝えておきますので。空腹がおさまるまでとことん食べ物を突っ込んでカロリー摂取をお願いします。

 あとは…明日のトレーニングを中止して回復するまでは無理をしないでください。

 神界に引っ張られる魂を少しずつ戻している状態なので、結界を張って引きこもっていれば良いかと』


「でも茨木童子たちが来たら…」

「大丈夫だ。俺の神に聞いたらあいつらもダメージがあって動けないらしい」


 あ、そっか。鬼一さんはヤトノカミがバディだったな…なるほどスパイできるのか。凄いな。



 

「ならいいか…よし、早速食べよう。もうずっとお腹ぺこぺこなんだ」

「伏見さん、ぎょうさん食べても真幸のお腹は破裂しないん?」


『鈴村…ですよね今の声』

「そうやよ。私もちゃんとすることにしたんです」

 

『そうですか…大丈夫です。食べ物は実体化しません。神に捧げて芦屋さんの魂の代わりになりますので。お腹いっぱいになれば芦屋さんの魂を取り戻した証になります』


「そうなんや!じゃあ私もキッチン手伝ってくるわ。真幸、嫌いなものある?」

 

「えっ?妃菜料理できるのか?…パクチー以外は平気だよ」

「わかった。ほなお先に。伏見さんさいなら」


 妃菜が走って部屋を出てってしまった… 。

 女の子の手作り料理とは。初めての経験だな。ワクワクしちゃうじゃないか。


 


『鈴村を励ましてくださったんですね、芦屋さん』

「伏見さんの思惑通りだろ?どーせ」


 肘掛けに腕を乗せて、頬杖をつく。伏見さんなら見えてそう。

 狙い通りに俺は覚悟を決めて妃菜と話したからな。彼女の資料を送ってきて、俺が動くよう仕向けたのはこの人だ。

 

 悪い気はしていない。俺を上手く使ってくれて嬉しいんだ。妃菜が元気になったのは、本当にいい事だからさ。

 俺の事も、妃菜の事も信じてないとそうしなかった筈だから。

 

 伏見さんはこんなふうにできるのがカッコいい。適材適所を見分けるのは動かす人を良く見てないと出来ない事だ。こう言うの、すごく好きだな。

  


  

『ふ、そうなるといいなと思っていましたが。はぁ…あなたは本当にすごい人ですよ…』

「伏見さんが褒めるとは珍しいなぁ。役に立てたんなら良かったよ」

 

『役に立つどころではありませんよ。

 神様を正座させるなんて初めて聞きましたし、勾玉を下されるのは滅多にあることではありません。本当に…凄いことなんですよ。

 まだ説明できませんが、その話は芦屋さん自身も口外しないようにしてください。遠隔で狐を飛ばすので、鬼一は鈴村と私の狐と共に結界の強化をするように』

 

「はい」

「じゃあ食べたらまた連絡する?」

『いえ、私も把握できましたから。芦屋さんは休んでください。茨木童子については調べておきます。では』


 通話が終わり、スマートフォンを浴衣の袖にしまう。

 うん、だいぶ動くな。目もほとんど元に戻ってきた。


 


「真幸の美しいまなこが戻ってきたな」

「なんだよそれ。恥ずかしいセリフ禁止」

 

「恥ずかしくなど無い。はよう全てを取り戻そう。飯だ」

「はいはい」


 有無を言わさずまたもや抱き抱えられて、鬼一さんの生暖かい目線を受けながら部屋を後にした。

 



  


 

 

 


 


 



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