第5話 山神鎮め編 その1



「右から少名毘古那神スクナビコナ祓戸大神ハラエドノオオカミ、みそっかす」

 

「颯人、みそっかす言わないの。鬼一さんお久しぶり」

「自分でもそう言っていたのだ。多少マシにはなったようだが。確かに久しいな」

 

「はい…」 

 

 苦い顔をした鬼一さんが小さい声で答えて、深く頭を下げる。

 彼の横に並んだひょろっと背の高いメガネの男性と、三つ編みの女の子がギョッとしてる。

 みんなお揃いのスーツ姿だ。陰陽師だから真っ黒なんだよなぁ。シャツは白黒選べる感じなんだけど、以前は黒シャツを着ていた鬼一さんが白いシャツに変えてる。

 心境の変化かな…ふむ。


 


「先日は申し訳ありませんでした」

「そう言うのは要らないよ、俺には受け取る意味がない言葉だ。」

「…はい」


 顔を伏せ、しょんぼりした様子の鬼一さんに呆気に取られている一行。ニコニコしてるはずの俺がキツいこと言ってるから、余計驚いている…脊髄反射で拒否反応が出てしまった。


  

「あ、あんた鬼一さんに何て口の利き方してんの!?」

「やめろ、鈴村。芦屋さんは俺たちの手が届く人じゃない。俺がやったことに対してはこれが当然なんだ」

 

「は?え?鬼一さん何言ってんの…」

「鈴村さん、何か訳があるんですよ。伏見さんがあずかりの方です。派遣前にも言われたでしょう。詮索するな、芦屋さんを絶対に怒らせるな、と」

 

「……どういう事なんよ…」


 ふむ、なるほど把握した。伏見さん俺を怒らせるなって言うの、やっぱり説明が足らないよ。何言ってるんだあの人は。


 


「また伏見に説教をせねばならぬ」

「そうだけど…今は考えたくないなぁ…。えーと、知ってるだろうけど俺は芦屋です。んで鈴村さんと、あなたは?」

 

「は、はい。私は星野です。よろしくお願いします」

「星野さんか、よろしくです。鬼一さんのは知ってるけど二人の武器は何?」


 星野さんが胸ポケットからピンポン玉くらいの水晶を取り出すと、鈴村さんはショルダーバッグから金色の軍配団扇を取り出す。お?扇仲間か?


 

 「星野は毒や身体異常を浄化、神の名の通り祓いが得意だな。鈴村は小さな傷の回復のみに抑えられている」

「ほー。あれだな、モンクとヒーラーみたいなもんか」


「「なっ?!」」


「ふん、今回はたいして役に立たぬ。山神が相手ではどちらも必要なかろう。まずは件の山彦から探す。」

「ほいよ」


 ジャケットのボタンを外し、両手を開いてパン、と柏手かしわでを打つ。

 足元からふわふわ風が起こり、ポフポフ生まれた白い光がお手伝いメンバーに染み込んでいく。これだけ説明して、さっきのはスルーしておこう。めんどくさいし。

 

 


「颯人と話が通じないのは困るし、みんなに翻訳機能の付与結界をつけた。今日は山彦の捜索からだ。結界を通じて念通話もできるようにしてあるから、連絡も楽チンです」

「いつの間にそんな術を…」

 

「俺は神様が先生だから熟練度が上がるの早いんだよ、鬼一さん。」

 


 驚いた顔の鬼一さんが眉を下げて、目を逸らす。

 しょんぼりした空気を背負ってるし、反省してるみたいなのはわかるけど。

 …俺も正直どう反応していいのかわからなくて、困ってはいる。人数が多いなら調和を取るべきか。スタートを間違えてしまった気もするが、俺も余裕があるわけじゃないから胸の内でごめんなさい、と謝っておく。



 

 現時刻 朝の6:30。今回は群馬県の赤城山山中にいる。

 裾野が長いこの山は火山噴火によってできたカルデラに水をたたえて、頂上に大きな湖がある。ようやく空に姿を見せてきた太陽が湖面に陽射しを反射して、キラキラの光が周囲に広がっていく。

 

 湖のほとりに赤城神社があるんだけど、今日は御神体そのものである山側に来てるんだ。

 神社の赤い建物達が遠くから見ても綺麗だなぁ。参拝行きたいけど難しいかなぁ。


 山のあちらこちらにヒビが入ってるのはどうしたんだ?群馬は活断層が殆どないはずだから、地震が理由じゃない…これは山神の影響かもしれない。

 


 

 最初の研修任務でやらかしてから既に半年。

 季節的には梅雨のはずだが、相変わらず天候は狂ってる。

 暑かったり寒かったり…地震や竜巻が最近は多いな。

 地方に行けば割と季節を感じられはするから、今日は初夏日和になるかもしれない。最近寒くて仕方なかったからちょうどいいか。


 

 俺はもう…それはそれは厳しい颯人の研修のおかげで陰陽師の基本は身についたと思う。

 お寺さんで座禅を組まされたり、滝に打たれたり、絶食して暗闇の中で一週間過ごしたり、起きても寝てても修行と仕事の毎日だ。

 祝詞はまだちゃんと覚えてないけど霊力の使い方はまともになったんじゃないか?


 


「真幸、其方はまだ半人前だ」

「わーってるよっ。ちょっとくらい良いだろ?頭ん中覗くのヤメテ」

「小洒落た髪型になって、調子に乗っているのではないか?」

 

「うっさいな。オールバックにしただけだろ。床屋に行く暇がないの!」

「それは伏見が悪い」


 ホントそれな。俺はあれから馬車馬のように働いてる。良い修行になりはしているが正直休みが欲しい。

 独立したら好きにしろって言ってたのにさ。ノルマは達成してても「芦屋さんにしか頼めません」って言われると…承認欲求が満たされなかった過去を持つ、俺の欲望が抑えきれないんです。

 古傷が疼くぜ…な感じだから仕方ない。



 

「で、今回はどないすんねん。いつまで漫才してはるんや」

「鈴村さん!!失礼ですよ!!」

「そない言われましても。時間は有限やろ」


 腕を組んだ鈴村さんがじろり、と睨みつけて来る。

 気の強そうな女の子だなぁ。西の生まれかな。最近身近にいなかったからなんとなく新鮮な言葉の響きだ。

 おさげの三つ編みが風に揺れて、吊り目があからさまに「あんた気に食わない」と言う意思をぶつけて来る。

 突っ込みはごもっともなんだが。星野さんが嗜めてるのに、気にもしてないのがひっかかる。警戒しておいて損はなさそうだ。


 


「君たちは研修で俺の手伝いをしてもらいます。任務依頼書は見た?」

 

「見てるに決まってるやん。山彦の妖怪が人を遭難させて死人が沢山出た。退治に来た陰陽師も複数死んでしもたし、山神がその穢れを受けて荒神アラガミになったて。祓うんよな?」

 

「いんや、説得が先だよ。勝手に神様殺したら俺怒るからね?」

 

「な、何や!荒神に堕ちた山神なんか説得できるわけないやん!こないに大きい山やで?!」


 ため息をついて、鈴村さんの目をじっと見る。…あんまり良くない色だ。バディの神様と連携がうまくいってない感じ。

 命が澱んでツンケンしてるのかな…。

 俺自身にも耳が痛い話だな、気をつけよう。

 


「荒神だろうと何だろうと鎮めの基本は対話から。端から殺そうって考えなら帰ってもらうよ」

 

「鈴村さん。この現場の責任者は芦屋さんです。我々は彼の激務を減らすために選抜していただいた生徒ですよ。立場をわきまえて下さい」

「わかってるわ!星野さんうっさいな…」



  

「鈴村とやら。お前は我らと共に来い。鬼一と星野は別動で山彦を探せ。先ずは悪さの原因を探らねばならん」

「そうしよう。俺たちは北側から、鬼一さんと星野さんは南側のここを起点にして、時計回りで探索しよう。何かあれば頭の中で喋れば良いから」


「…念通話は時間制限があるはずですが」

 

「鬼一さん、敬語使わないでいいよ。やりづらいだろ?

 俺の念通話に制限はないから、解除するまで有効だよ。心配しなくてもいい」


「わかりま…わかった」

 

 

「念通話の制限がないとは…しかも神を顕現したままですか」

 

「それよく言われるけど…俺は颯人の力が強いからじゃないかな。星野さん、色々と気を遣わせてごめんね」

「いいえ、こちらこそお忙しいのに申し訳ないです、今日はしっかり学ばせていただきます!」


 星野さんは気が弱いんじゃなくて、気を遣う側の人みたいだ。大自然の中で戦力を分けるのは危険だが、鈴村さんといたら気疲れしちゃうだろうから分けた方が効率はよさそう。

 


  

「さて、んじゃ行きますか。鈴村さん、手を拝借」

「はっ!?お、女の子の手を握ろうだなんて厚かましい!!」

「面倒だ。服でよい」

「へいへい」


 鈴村さんの服の袖をつい、と摘んで目を閉じる。ぱかりと目を開くと森の中。

 おっふ、地面の割れ目が深いな、うっかり落ちないようにしないと。怖い怖い。



 

「さてなぁ。とりあえず散策するしかないか。山彦さーん?」

「真幸、みそっかすが増えたぞ」

 

 颯人がポンポン、と肩を叩いて足元を指指す。そこには鈴村さんがうずくまっていた。

 んぁ?どした?


「な、にこれ…転移?」

「そうだけど、どしたの?」

「眩暈がして…立てへん」

「えっ!?なんで?貧血か?」

「…………」


 顔色が悪い鈴村さんが一瞬だけ俺を睨んで、膝を抱えて座り込んでしまう。

 ありゃ、本当に具合が悪そうだ。



 

「相性が悪いとこうなるようだな」

「颯人と相性が悪いのか?」

「いや…まだその時ではない。我が辺りを探ってくる。真幸はついていてやれ、じきに回復する」

 

「はいよ、気をつけてね」

「応」


 音もなく颯人が消えて、サワサワと揺れる白樺の木の下で腰を下ろす。

 何か言い淀んでたがなんだろな。

 颯人が言わないなら待つしかない。あいつがすることは何かしらの意味があるんだ。


  

 赤城山はいい山だ…白樺の木と杉の木がたくさんある。人の手がきちんと入って、下刈りがされてる。

 ほったらかしの山は陽の光が地面まで届かない。木々をきちんと剪定して下の草を刈って、苦労しないとこんな気持ちいい場所にはならないんだ。

 

 白い幹の白樺は山中に明るく映える。杉の木の濃い色とあいまって、立体的なコントラストをつくりだしていた。いつまでも見ていて飽きないって凄いよ。木立の中を見ても、遠くの山肌を見ても本当に美しい。地元の人に愛されている山だとよくわかる。

 それなのに…なぜ、山神は堕ちてしまったんだろうな…。




  

 今回問題になった山彦とは、山神の眷属。山に向かってヤッホーって言ったら返ってくるあれだ。

 他にも役割があって山神の遣いとして里に下り、土砂崩れや落石の危険を知らせたり、山に入って迷った人を導いてくれたりする。

 

 もちろん悪さもするが。神隠ししたり迷わせたりとか…神々の悪戯ってやつだな。

 だが、今回の事件は悪さでは済まなかった。遭難者が百人を超え、死体が一切出てこない。


 

 そして、捜索隊の警察や自衛隊の人は山に入ってもいつの間にか麓に戻されてしまい、地元の有志で来た猟友会の人達だけは無事に行って帰ってきている。この様子だと地元の人の被害はないだろう。


 亡くなっているのはおそらく一般人の分類になる人たちと、スピリチュアル系の怪しい家業のたち。

 裏公務員にも被害が及んでいる。

 

 恐らく、と言うのはまだ結論が出ていないから。俺の勘が当たらないといいなとは思うけど。

 でも、結果だけ見れば間違いなく山彦だけの仕業じゃない。派遣された陰陽師まで帰らないのはそう言う事だろう。

 山神は土地の神も兼ねているし、山中に霊木である杉の木をたくさん抱えて力が強い。赤城山は天と地をつなぐとされる白樺の木もたくさん生えているから北関東では山神ランクがかなり上位なんだ。

 

 俺のとこに回ってくる仕事はこんな感じの物ばかりになったな…。感慨深いデス。

  


  


「なぁ、何で…神様と距離を置けるんよ」

「え?なに?」


 突然話を振られて、ちょっとびっくりした。鈴村さんがしょぼくれた顔でこっちを見てる。


  

「普通神下ろししたら依代からは離れられないんやで。知らんの?」

「知らん。仕事と家なら四六時中一緒だが買い物は手分けしたりしてるし…え?これ普通じゃないの?」


 

「普通じゃない。24時間自分の中に神様がいる…気持ち悪いやんか」

「えぇ…気持ち悪いって…」

 

「私の能力がわかるんなら見えてんねやろ。スクナビコナの筈やけど…。今はヒルコや」


  

「そうみたいだな。蛭子大神ヒルコオオカミは恵比寿神の元だと言われてる。少彦名命スクナビコナとも言われてるしその辺は曖昧で諸説あるけど。颯人はスクナビコナって言ってたな」

 

「さよか…私の中にいるのは、今はヒルコ。スクナビコナと言われる事はまずない。見た目がズルズルで…酷いんよ。あんたみたいにかっこいい神様ならよかったのに」


 そりゃ颯人はかっこいいけどさ。なんか嫌な言い方だな。

 鈴村さんは俯いてるけど、一切同情の念が湧かない。


 

 

「神様は神様だ。そもそも見た目なんて依代の霊力でどうにでもなるって颯人が言ってた。そんな事言うのは不敬だろ」

 

「私じゃどうにもならへんの!気持ち悪いのは事実やんか!近寄りたくないのに長く顕現できない、顕現しても遠ざけられないんよ…嫌や言うても無理なの」

 

「あのさぁ、ヒルコオオカミに向かって気持ち悪いって言うの、本当にやめてくれない?中にいるなら神様にも聞こえてるだろ、それ」



 

 俺の強い声に、鈴村さんがハッとして顔を上げる。

 

 自分の力不足で神様を正しい形にしてあげていられないのに、それを疎んじるって何様なんだよ。しかも、見た目なんか関係ないだろ。

 悪いけど俺、君のこと好きじゃない。


 


「ヒルコオオカミは、すごい神様なんだ。日本を作った伊邪那美命イザナミノミコト伊邪那岐命イザナギノミコトの嫡子だぞ。癒しの力を与えてくれる神様の数が少ないの、知ってるよね?だから鈴村さんは今回選抜されたんだ」

 

「知ってる…」

 

「そもそもヒルコオオカミほど優しくて慈悲深い神様の事を侮るなんてどうかしてる。同僚と思いたくない。君は鬼一さんより嫌いになりそうだ」

「な、なんでや…どうして…」



「スクナビコナは国造りの優秀な参謀で、俺たちの生活全てに通じてる。田畑でんぱたの知識・経済・医療・政治まで…人が生きていく上の全てを知ってるんだぞ。元々俺たちの先祖に知識をくれたのは彼だ。

 エビスノカミは言わずと知れた豊穣の神様。ヒルコオオカミはそのすべての原型で、自分を捨てた父母を赦して人間のために尽くしてくれた。疎んじること自体が信じられない。」

「…………」

 

「憎しみも悲しみもあっただろうに、それに従う事なく自分の使命を全うしてる。

 日本の神様は海外みたいに悪いだけの神様なんかいない。人知で悪と測れるものですらない」

「え、そ、そうなん?」


 どでかいため息をついて、ggrksググれカスと呟きたくなる。俺みたいな陰陽師一年生でも知ってるのに…腹立つな。



 

「日本の神様は基本的に助ける事を使命として生まれている。災厄を司る神様もいるけど、災が転じて福になる事も多い。

 地震だって神様な国なんだよ日本は。

 俺が荒神だろうが何だろうが説得からって言ったのはそう言う意味だ。

 人に望まれて、災厄だったものですら守護神として存在してくれてるのに。尊い命を貶めるのは辞めてくれ」

「…………」


 


 沈黙してしまった鈴村さんをひと睨みして、鼻息をふんふんしてしまう。

 神様に守ってもらってんのだって事実だろ。ヒルコオオカミを馬鹿にするなんてサイテーだ。

 

 愚痴ってため息をつくと、それを流すように一陣の風が吹く。

 颯人の匂いだ。帰って来たな。

 


  

「ふ、説教か。戻ったぞ」

「おかえり、颯人」

「うむ。真幸は年寄り臭くなった。我が危惧していた事を先んじるとは…中々な強者になっている」


 颯人が俺の肩に手を回し、頭をぐりぐり撫でて来る。そっか、颯人も気づいてたんだな、鈴村さんとヒルコオオカミの関係を。

 でも、妙齢の俺を年寄りとか言わないでください。


 


「半人前だって言ってただろさっき…山彦の気配は?」

「感じはしたな。だが、荒神と共にいるようだ」

 

「あららぁ…セットになってるのか」

「あぁ。神聖な山だが、不法投棄の山だ。証拠を消そうと火を使った跡もある」


 あー、嫌な予感は的中するもんだなぁ。山中で行方不明者の一般人は一部証拠隠滅を図った業者の人も含まれているようだ。


「後は、そこいら中にこれと細々したゴミたちが落ちていた」

 

 苦い気持ちになっていると、颯人が丸い玉を渡して来る。何だこれ?仁丹にしてはデカい。


  

 

「あれだ、所謂いわゆる…パチンコ玉…えーと」


「サバゲーで使うBB弾や」

「それだ。漸く役に立ったな、小娘」


 

 颯人がニヤリと嗤うが、鈴村さんは目を逸らした。うーんこの、なんとも言えない感じ……。

 

 でも原因は判明したな。…サバゲーやって、森を荒らして不法投棄して汚してたから山神が荒神になってしまったようだ。山彦のお仕置きが苛烈になってしまったんだろう。

 

 サバゲーの人たちがダメなの、はタバコをポイ捨てするわ弾を捨てるわ、食べ物のゴミもそうだし、山中で許可なく火を使うことが多いんだよ。火事が起こって木が全部燃えて、山が丸裸になって。最終的には大規模な土砂崩れが起きた事件もあった。自然への配慮がないからこうなってしまう。

 ちゃんとしてる人もいるんだが、どうしても災害が起きてしまうと厳しい印象になる。


  

 不法投棄は完全に悪だ。ゴミとしてダメなだけじゃなく、そこから滲出しんしゅつする化学物質が土地をダメにするから。早く撤去しないと土地ごとやられる。火事も起こりやすくなるし、植物が枯れた後新しく植えてもダメになってしまう。

 山神と山彦の怒りはご尤もな訳だ。



「神様を怒らせるのはいつも人だな」

「そうだな、そう言うものだろう」

「うん…まずはゴミ拾いしよう」

「うむ。しかし洗濯機やら風呂やら建築資材は人の手に余る。」

「そうだよな…先に伝えておこうかな」



 

 

 スマホを取り出し、伏見さんを呼び出す。

 

『はい、どうされました?芦屋さん』

「お疲れ様、伏見さん。赤城山中の不法投棄の片付けって手配できる?家電のゴミと、建築資材系の大きめサイズのゴミで」

 

『お気遣い痛み入ります…1日いただければ可能ですよ』

 

「じゃあそれ、お願いします。とりあえずゴミ拾いに一日メンバー使いたいんだけど、スケジュールはどう?」

『構いませんが、夜間は荒神が力を増します。少々危険かと』

 

「でも片付けないで鎮められないだろ?」

『仰る通りですが…うーん…』


 ううん、と唸る伏見さん。確かにそうだなぁ。できたら荒ぶってない時間のほうがお話もしやすくなる。武力行使して弱らせて、とか戦って消耗してから、とかも仕事でやって来たけど…出来れば神様に痛い思いをさせたくない。

 だって荒神堕ちはほとんどが人間のせいなんだ。どうにかならんかな…。


  


「どう思う?颯人」 

「そうだな、我がめんばぁの神を使ってもよいなら片付けに一日はかからぬだろう」

 

「颯人が研修メンバーの神様借りられれば、一日かからないって言ってます。山中の一箇所にまとめておけば業者さんも楽だし…いいと思うんだけど、どう?」

 

『芦屋さんの霊力は…大丈夫でしょうか』

 

「問題ない。何のために毎晩同衾しておるのだ。貯蔵庫は常に広げている」

「問題ないそうです」


 

 毎晩一緒に寝てるとか、微妙な情報言わないの。子供みたいだろ。不満げな顔の颯人をつつくと「ふん」と不満げに答えが来る。


 

『ではそのようにお願いします。事務手続きはしておきますので、お気をつけて』

「うん、お願いしまーす」

 

『かしこまりました。では』



 

 通話を切って、もう一度颯人をつつく。


「俺の貯蔵庫ってなに?」

「神力を分けるために同衾するとしたのだ。我が真幸の中を作り替えている」

 

「な、何してんだよ!何かいかがわしいだろ!?」

「いかがわしくなどない。真幸の増える知識や修練と共に広がるものを、我が毎日余分に広げているだけだ」


 颯人にしれっと言われて、追及できなくなってしまった。

 うーん、うーん。


  

「そうかい…」

「そうだ。さて、あと二人も喚ぶとしよう。さっさと済ませねば」

「あっ!待て颯人!…あー…」


 パチン、と指を弾いてドサドサ転がる鬼一さんと星野さん。

 うん、やっぱそうだね。二人とも地面に転がったまま呻いてる。



「転移はダメだな、みんなには使わないほうが良さそうだ」

「嘆かわしい事だ。全く」



 腰に手を当てた颯人がため息をつき、鈴村さんは気まずそうな顔で目を伏せた。

 


   

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