県外遠征@群馬県

16 山神鎮め編 その1

少彦名スクナビコナ祓戸大神ハラエドノオオカミの依代だ。それから、みそっかす」


「そう言わないの。鬼一さん、久しぶり」

「自分でそう言っていただろう。確かに久しいな」


「はい」



 苦い顔をした鬼一さんが小さい声で答えて、深く頭を下げる。

それを見て、彼の横に並んだひょろっと背の高いメガネの男性と、三つ編みの女の子がギョッとしてる。


 今日の任務には助っ人が三人も来てるんだ。

裏公務員は真っ黒スーツで、シャツは白黒選べるんだけど、黒シャツだった鬼一さんは白シャツに変えていた。




「先日は、申し訳ありませんでした」


「その言葉は受け取らないよ」


「……はい」


 顔を伏せ、しょんぼりした様子の鬼一さんに呆気に取られている一行。

しまったな、脊髄反射で拒否してしまった。



「あ、あんた鬼一さんに何て口の利き方してんの!?」


「やめろ、鈴村。これが当然なんだ」


「は?鬼一さん何言うてはるの?」


「鈴村さん、何か訳があるんですよ。伏見さんに言われたでしょう。詮索するな、芦屋さんを絶対に怒らせるな、と」


「……どういう事なんよ」


 なるほどな、伏見さんは何言ってんのさ。説明不足どころか妙な情報与えんなし。




「また伏見に説教をせねば」


「ホントだな。えーと、知ってるだろうけど俺は芦屋です。んで鈴村さんと、あなたは?」


「私は星野です。よろしくお願いします!」


「こちらこそよろしくです。二人の武器は?」


 星野さんが胸ポケットから手の平大の水晶を取り出し、鈴村さんはバッグから金色の軍配団扇を取り出した。




「星野は浄化、祓い。鈴村は小さな傷の回復だ」

「ほー。モンクとヒーラーみたいなもんか」


「「なっ?!」」



「ふん、今回は役に立たぬだろう。まずは山彦から探すとしよう」

「ほいよ」


 ジャケットのボタンを外し、両手を開いてパン、と柏手を打つ。


足元からふわふわ風が起こり、ポフポフ生まれた白い光がお手伝いメンバーの耳に染み込んだ。

これだけ説明しておこうかな、後で聞かれてもめんどくさいし。




「颯人の話がわかるように翻訳機能の術を施した。まずは山彦の捜索からはじめる。結界を通じて念通話もできるから、連絡はそっちでね」


「い、いつの間にそんな術を?」


「俺は神様が先生だからね」


 驚いた顔の鬼一さんが眉を下げて、目を逸らす。

しょんぼりした空気を背負ってるし、反省してるのはわかるけど。


 俺も正直どう反応していいのかわからなくて、困ってはいる。

人数が多いなら調和を取るべきか。

スタートを間違えてしまった気もするが、俺も余裕がないから胸の内で『ごめん』と謝っておくに止めた。




 現時刻朝の6:30 今回は群馬県の赤城山山中が現場だ。裾野が長いこの山は火山噴火によってできたカルデラに水をたたえて、頂上に大きな湖がある。


空に姿を見せた太陽が、湖面に陽射しを反射してキラキラの光が周囲に広がっていく。

湖のほとりに赤城神社があるんだけど、今日は御神体そのものである山側に来てるんだ。


神社の赤い建物達が遠くから見ても綺麗だなぁ。参拝行きたいけど難しそうだ。



 赤城山の山肌にはあちこち断裂線が走ってて、中を覗くとかなり深い穴になっていた。

群馬は活断層が殆どないはずだから、地震が理由じゃない。とすると、これは山神の影響かも知れん。




 最初の研修任務でやらかしてから既に半年。季節的には梅雨を迎えたが、相変わらず天候は狂ってる。


 俺はもう……それはそれは厳しい颯人の研修と、伏見さんのスパルタ任務のおかげで陰陽師の基本は身についたと思う。


 銀座の神起こしから始まって、奥多摩の姫巫女に出会い、栃木では山神見習いの真さんに出会って……その後も修行と仕事の毎日だ。

祝詞はまだ使いこなせてないけど、霊力の使い方はまともになったんじゃないか?と思う。




「真幸、其方はまだ半人前だ」

「わーってるよっ。ちょっとくらい良いだろ?頭ん中覗くのヤメテ」


「小洒落た髪型になって、調子に乗っているのではないか?」


「うっさいな、ちょっと前髪上げただけだろ。床屋に行く暇がないの!」


「それは伏見が悪い」



 ホントそれな。俺はあれから馬車馬のように働いてる。

良い修行になりはしているが正直休みが欲しいところだ。


ノルマは達成してても「芦屋さんにしか頼めません」って言われると承認欲求がが抑えきれないんだよ……。




「で、今回はどないすんねや。いつまで漫才してはるん?」


「鈴村さん!そんな言葉遣いは失礼ですよ!!」


「星野さん、時間は有限やろ」



 腕を組んだ鈴村さんがじろり、と俺を睨みつけて来る。

鈴村さんは気の強そうな女の子だ。西の生まれかな。


おさげの三つ編みが風に揺れて、吊り目があからさまに「気に食わない」と言う意思をぶつけて来る。


 突っ込みはご尤もなんだが……星野さんが嗜めてるのに、気にもしてないのがひっかかる。警戒しておいて損はなさそうだ。




「君たちは研修で、俺の手伝いをしてもらいます。任務依頼書は見た?」


「見てるに決まってるやん。山彦の妖怪が人を遭難させて死人が沢山出た。退治に来た裏公務員も複数戻ってないし、山神がその穢れを受けて荒神になったて。祓うんよな?」


「いや、説得が最優先だよ。勝手に神様殺したら俺怒るからね?」


「荒神に堕ちた山神なんか説得できるわけないやん!こないに大きい山やで?!関東有数の霊山の山神やで?!」



 ため息をついて、鈴村さんの目をじっと見る。

あんまり良くない色だ。バディの神様と連携がうまくいってない感じ。命が澱んでツンケンしてるのかも。

俺自身にも耳が痛い話だな、気をつけよう。




「荒神だろうと何だろうと、俺のやり方は基本的に対話からだ。端から殺そうって考えなら帰ってもらう」


「鈴村さん、この現場の責任者は芦屋さんです。我々は彼の激務を減らすために教育していただく機会を得た生徒ですよ。立場を弁えて下さい」


「わかってるわ!星野さんはいちいちやかましいな」



「鈴村とやら。お前は我らと共に来い。鬼一と星野は別動だ。先ずは荒神堕ちの原因を探らねばならぬ。山彦を探して話をしたい所だ」


「うん。俺たちは北側から、鬼一さんと星野さんは南側のここを起点に時計回りで探索してくれ。何かあればすぐ教えて」

 


「念通話は時間制限があるはずですが、どのくらい持つでしょうか」


「鬼一さん、敬語使わないでいいよ。

俺の念通話に制限はないから、解除するまで有効だ」


「わかりま……わかった」




「念通話の制限がないとは……しかも神を顕現したままですか」


「それよく言われるけど、俺は颯人の力が強いからじゃないかな。星野さん、色々と気を遣わせてごめんね」


「いいえ、こちらこそお忙しいのに研修を受けて下さってありがとうございます。今日はしっかり学ばせて頂きます!」



 あ、そうか。星野さんは気が弱いんじゃなくて気を遣える人なんだな。強い意思を宿した瞳に笑みを返す。


戦力を分けるのは危険だが、鈴村さんと相性が悪いし別れた方が得策だろう。



「さて、んじゃ行きますか。鈴村さん、お手を拝借」


「はっ!?お、女の子の手を握ろうだなんて厚かましい!!」

「えー……」


「面倒だ、服でよい」

「へいへい」


 鈴村さんの服の袖をつい、と摘んで目を閉じる。


 ぱかりと目を開くと森の中。

おっふ、直ぐ近くに断裂線がある。うっかり落ちないようにしないと……怖い怖い。




「さてなぁ、とりあえず散策するしかないか。山彦さーん」


「真幸、みそっかすが増えたぞ」

「えっ?」


 颯人が俺の足元を指さす。そこには鈴村さんがうずくまっている……どした?



「な、にこれ?転移術?」

「そうだけど、どしたの?」


「眩暈がして立てへん」

「えっ!?何で?貧血か?」


「…………」


 顔色が悪い鈴村さんが一瞬だけ俺を睨んで、膝を抱えて座り込んでしまう。


ありゃ、本当に具合が悪そうだ。




「相性が悪いとこうなるようだな」

「颯人と相性が悪いのか?」


「いや、まだ言わずにおく。我が辺りを探ってくる故共に待つがいい。じきに回復するだろう」


「はいよ、気をつけてね」

「応」



 音もなく颯人が消えて、サワサワと揺れる白樺の木の下に腰を下ろす。


 何か言い淀んでたがなんだろな。

颯人が言わないなら待つしかない。何かしらの意味があるんだろう。




赤城山はすごくいい山だ。広大な土地に人の手がきちんと入って、下刈りがされてる。ほったらかしの山は陽の光が地面まで届かない。


人間が木々を定期的に剪定して下の草を刈って、手間をかけないとこんな気持ちいい場所にはならないんだ。



 山中の白樺は木肌が明るく映え、杉や檜の濃い色とあいまって立体的なコントラストを作りだしている。

見ていていつまでも飽きないって凄いな。木立の中を見ても、遠くの山肌を見ても本当に美しい。


 ここが地元の人に愛されている山だとよくわかる。

それなのになぜ、山神は堕ちてしまったんだろう……。




 今回問題になった山彦は、山神の眷属であり妖怪として有名だな。山に向かってヤッホーって言ったら返ってくるあれだ。


他にも山神の遣いとして里に下り、土砂崩れや落石の危険を知らせたり、山に入って迷った人を導いてくれたりする。

もちろん悪さもするが。神隠ししたり迷わせたり、神々の悪戯ってやつだな。



 

 だが、今回の事件は悪さでは済まなかった。遭難者が百人を超え、死体が一切出てこない。


捜索隊の警察や自衛隊の人は、山に入ってもいつの間にか麓に戻されてしまう。

地元の有志で来た猟友会の人達だけ普通に入って、普通に帰ってきている。

この様子だと地元の人の被害はないだろう。



 亡くなっているのは恐らく他の地域に住む一般人の分類になる人と、スピリチュアル系の怪しい家業のたち。

そして、裏公務員にも被害が及んでいた。


 恐らく、と言うのはまだ結論が出ていないから。俺の勘が当たらないといいなとは思うけど。


 でも、結果だけ見れば間違いなく山彦だけの仕業じゃない。派遣された裏公務員まで帰らないのは階位の高い神が絡んでいる。




 山神は土地神であり、鈴村さんが言った通りこんなに大きな山なら力もかなり強いだろう。


 赤城山は全国でも霊山・山神のランクがかなり上位なんだ。

俺に回ってくる仕事はこんな感じの厄介な物ばかりになったな、感慨深いよ。





「なぁ、何で神様と別働なんかできんの?どうやってんの?」


「え?なに?」


 突然話を振られて、ちょっとびっくりした。鈴村さんがしょぼくれた顔でこっちを見てる。



「神下ろししたら依代からは離れられないんやで。知らんの?」


「知らん。仕事と家なら四六時中一緒だが、買い物は手分けしてるし……意識すらした事ないけど。これって普通じゃないの?」


「普通やない。24時間自分の中に神様がいる……気持ち悪いわ」


「えぇ?気持ち悪いって……」


 

「私の能力も神も見えてはるやろ?私の神さんはヒルコやねん」


「そうみたいだな。蛭子大神ヒルコオオカミは恵比寿神や少彦名命とも言われてるし、その辺は曖昧で諸説あるけど。颯人はスクナビコナって言ってたよ」


「私の神さんはスクナビコナと言われる事なんてまずない。見た目がズルズルで酷いんよ。あんたみたいに格好いい神様ならよかったのに」


 たしかに颯人はかっこいいけどさ。なんか嫌な言い方だな。鈴村さんは俯いてるけど、一切同情の念が湧かない。




「神様は神様だ。そもそも見た目なんて依代の霊力でどうにでもなるって颯人が言ってた。自分の力不足のせいでそんな事言うのは不敬だろ」


「私じゃどうにもならへんの!気持ち悪いのは事実やんか!顕現しても遠ざけられないんよ、嫌や言うても無理なんや」


「あのさぁ、ヒルコオオカミに向かって気持ち悪いって言うの、本当にやめてくれ。本神にも聞こえてるだろ」



 俺の強い声に、鈴村さんがハッとして顔を上げる。


自分の力不足で神様を正しい形にしてあげていられないのに、それを疎んじるって何様なんだよ。

しかも、見た目なんか関係ないだろ。

悪いけど俺、君のこと好きじゃない。




「ヒルコオオカミはすごい神様なんだ。日本を作った伊邪那美命イザナミノミコト伊邪那岐命イザナギノミコトの嫡子だぞ。

癒しの力を与えてくれる神様の数が少ないの、知ってるよね?だから鈴村さんは今回選抜されたんだ」


「……知ってる」


「そもそも彼ほど優しくて慈悲深い神様の事を侮るなんてどうかしてる。

同僚と思いたくない。君は鬼一さんより嫌いになりそうだ」


「な、何でや、どうして」



「スクナビコナは国造りの優秀な参謀で、俺たちの生活に関わる田畑の知識・経済・医療・政治まで精通してる。

人が生きていく上の全てを知ってるんだぞ。元々俺たちの先祖に知識をくれたのは彼だ」


「国造り、したんやったな」


「なんだ、知ってるじゃないか。

恵比寿神は言わずと知れた豊穣の神様。ヒルコオオカミはそのすべての原型で、自分を捨てた父母を赦し、人間のために尽くしてくれた。疎む理由が一つもない」


「…………」


 

「生まれてすぐに川流しにあって、憎しみも悲しみもあっただろうに……それに従う事なく自分の使命を全うしてる。

日本の神様は海外みたいに悪いだけの神様なんかいない。人知で悪と測れるものですらないんだ」


「え……そうなん?」


 どでかいため息をついて、ggrksググレカスと呟きたくなる。

俺みたいな陰陽師一年生でも知ってるのに、なんで知らないんだよ。




「日本の神様は基本的に輔ける事を使命として生まれている。災厄を司る神様もいるけど、災が転じて福になる事も多い。人に望まれて、災厄だったものですら守護神として存在しているのに。尊い命を貶めるのは辞めてくれ」


「…………」


 沈黙してしまった鈴村さんをひと睨みして、鼻息をふんふんしてしまう。


 神様に守ってもらってんのこそ事実だろ。ヒルコオオカミを馬鹿にするなんてサイテーだ。


 愚痴ってため息をつくと、それを流すように一陣の風が吹く。

颯人の匂いだ、帰って来たな。




「ふ、説教か?戻ったぞ」

「おかえり、颯人」


「うむ。我が危惧していた事を先んじるとは、其方は中々な強者だ」



 颯人が俺の肩に手を回し、頭をぐりぐり撫でる。

そっか、颯人も気づいてたんだな、鈴村さんとヒルコオオカミの関係を。




「俺はまだ颯人の言う通り半人前だよ、山彦の気配は?」


「感じはしたな。だが、山神と共にいるようだ」


「あららぁ、セットになってるのか」


「あぁ。神聖な山だが、不法投棄の山がいくつもあった。証拠を消そうと火を使った跡もある」


 嫌な予感は的中するもんだなぁ。

山中で行方不明者の一般人は、不法投棄の証拠隠滅を図った業者の人も含まれているらしい。要するに悪人って事だ。




「後は、そこいら中にこれと細々したゴミが落ちていた」


 苦い気持ちになっていると、颯人が蛍光色の丸い玉を渡して来る。

何だこれ?仁丹にしてはデカいし、プラスチックでできてる。



「あれだ、所謂鉄砲玉の偽物……何と言うのだったか」


「サバゲーで使うBB弾や」

「それだ。漸く役に立ったな、小娘」




 颯人がニヤリと嗤うが、鈴村さんは目を逸らした。


 うーんこの、なんとも言えない感じ。

でも原因は判明したな。

サバゲーやって、森を荒らして、不法投棄して汚してたから山神が荒神になってしまったようだ。


いろんな事情が重なって、山彦のお仕置きが段々と苛烈になってしまったんだろう。


 

 サバゲーの人たちがダメなのは……私有地に勝手に入って穴を掘ったり、木を切って塀を許可なく作る、タバコをポイ捨てする、自然に還らないゴミを捨てる事が多いから。

山歩きの知識もなく貴重な山野草を踏み荒らしたりもするし。食べ物のゴミも出すし、山中で火を使うこともある。


 火事が起こって木が全部燃えて、山が丸裸になって……最終的には大規模な土砂崩れが起きた事件もあった。


 自然への配慮がないからこうなってしまうんだ。

ちゃんと配慮してくれる人も中にはいるんだが、どうしても悪い印象が先立つな。



 不法投棄は完全に違法犯罪だ。

ゴミの存在だけじゃなく、そこから滲出する化学物質が土地を殺してしまう。


早く撤去しないと火事も起こりやすくなるし、植物がやられた後新しく植えてもすぐに枯れてしまう。

そうなれば森の生き物も害される。


 山神と山彦の怒りはご尤もな訳だな。




「神様を怒らせるのはいつも人だよな」

「そうだな、そう言うものだろう」


「はぁ……まずはゴミ拾いからやるか」


「洗濯機やら風呂やら建築資材は人の手に余るぞ」


「うーん、それなら先に報告してみようかね。さてさて」


 スマホを取り出し、伏見さんを呼び出す。この携帯で俺が電話してるのは伏見さんしか居ない。

着信履歴も発信履歴も伏見さんだけ。……ちょっと寂しい気がするのは気のせいだな、うん。



『はい、どうされました?芦屋さん』


「お疲れ様、伏見さん。赤城山中の不法投棄を片付けたいんだ。家電のゴミと、建築資材系の大きめサイズがかなりあるみたいでさ」


『かしこまりました、すぐに業者を手配しましょう』


「お願いします。とりあえずゴミ拾いしたいんだけど、みんなのスケジュールは大丈夫?」


『問題ありませんが、夜間は荒神が力を増します。片付けはそうそう終わらないでしょうし、時間がかかるのは少々危険かと』


「でも、やる事やらなきゃ鎮めができないだろ?口から出る言霊も効力を持てない」


『仰る通りですが、うーん』


 確かに伏見さんの意見は仰る通りだ。神様が荒ぶってない時間のほうが説得もしやすくなる。

出来れば痛い思いをさせたくないし、したくない。


だって、荒神堕ちは今回も人間のせいなんだから。どうにかならんかな。




「どう思う?颯人」


「そうだな、我が他の神を使ってもよいなら片付けに一日はかからぬだろう」


「颯人が皆の神様借りられれば、一日かからないって。山中の一箇所にまとめておけば業者さんも楽だし、どうかな?」


『芦屋さんの霊力は大丈夫でしょうか』



「問題ない。何のために毎晩同衾しておるのだ。貯蔵庫は常に広げている」


「問題ないそうです」



 毎晩一緒に寝てるとか、微妙な情報言わないの。子供みたいだろ。

不満げな顔の颯人をつつくと「ふん」と答えが来る。



『ではそのように致しましょう。お気をつけて』

「うん、業者の手配お願いしまーす」


『かしこまりました。では』




 通話を切って、もう一度颯人をつつく。


「俺の霊力貯蔵庫って、まだ広げてたのか?」


「神力を分けるためにな。我が真幸の中を作り替えているのだ」


「な、何してんだよ!何かいかがわしいな!?」


「いかがわしくなどない。知識を得て修練と共に広がるものを、毎日さらに広げているだけだ」


 颯人にしれっと言われて、追及できなくなってしまった。うーん、うーん。




「まぁいいか……」


「うむ。さて、あと二人も喚ぶとしよう。さっさと済ませねば」

「あっ!待て颯人!あー……」


 パチン、と指を弾いてドサドサ転がる鬼一さんと星野さん。

二人とも地面に転がったまま呻いてる。



「転移はダメだな、みんなには使わないほうが良さそうだ」


「嘆かわしい事だ。全く」



 腰に手を当てた颯人がため息をつき、鈴村さんは気まずそうな顔で目を伏せた。

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