会いたい

何日も何日もメールだけのやり取りをしていた私。

そんな私にバイト先である事件が起きた。


「あんたさ。三上みかみ主任と付き合ってんの?」

「へっ?付き合ってないです。私、好きな人いますから」


バイト先で気に掛けてくれていた三上主任と私の関係を笹川さんに疑われ……。

何故かバイト終わりに緊急召集と呼び出され、責められた。

確かに、三上主任とは何度かご飯を食べに行った。

しかし、それは私を励ましてくれていただけだ。


「笹川が三上主任の事、気に入ってんの知ってて飯行ったの?」

「それは、三上主任が誘ってくれたからで」

「水瀬ちゃんが悪いわけじゃないじゃん。何で、みんなで水瀬ちゃん責めるのよ」


守ってくれたのは、信子さんだけ……。

少しだけアリかもと思っていた田辺さんに一番責められて、この日大嫌いになった。

笹川さんが好きだから、食事に二度と行くな!二人で会うのはやめろ!と責められて気分は落ち込んでいた。


「水瀬、あんたの好きな人。誰?」


全てが終わり話しかけてくれたのは、市井さんだった。

市井さんは、笹川さんと信子さんと仲がいい人。


「市井ちゃん、そんな水瀬ちゃんを責めたみたいに言わなくても」

「だって、笹川が気にしてるから。職場の人?」


すぐに頭に浮かんだのは、凛音君だった。


「違います。彼は、今から仕事で。ボーイズバーで働いてて……。一度だけ、友達が開いた合コンで会って」

「後は?」

「後は、メールだけで……。会いに行ったらお客さんになりそうで怖くて」

「一回ぐらいなら大丈夫だよ!私が、出してあげるから行こう」

「えっ……。それは、何というか……」

「水瀬ちゃんが白だって私が笹川に言ってあげるから」


半ば強引に私は市井さんと信子さんと彼の働くボーイズバーに行った。

会いたくて会いたくて仕方がなかったのに、お店に来れば簡単に会えてしまった。


「一葉、いらっしゃい」

「こんばんは」

「今日暇だから、ゆっくりしてってよ。カウンターでいい?」

「うん」

「初めまして、水瀬ちゃんと一緒に働いてる市井です」

「宮村です」

「初めまして、どうぞ、どうぞ」


私達は、カウンターに案内される。

凛音君が用意を始めると、市井さんが私の耳元で男前だねと囁いた。

お客さんになりたくなかったのに、私はここに来てしまった。

初めて知るボーイズバーは、ホストとは違って敷居が低い気がした。

料金もそんなに高くなくリーズナブル。


「楽しかったーー。じゃあ、帰ろう」

「はい」


二時間ほどで、市井さんと信子さんと帰る事になった。


「水瀬ちゃんは、最後までいなよ」

「えっ?」

「明日、休みでしょ?」

「そうですけど……」

「せっかくなら最後までいな!最後までいてもそんなに高くないでしょ?私は宮村ちゃんと帰るから」

「えっ……あっ……」


タクシーまで、凛音君が見送りに来てくれたのに私は乗せてもらえなかった。


「一葉どうするの?」

「あっ、始発で帰ろうかな」

「じゃあ、いったん店にもどろうか」

「うん」


凛音君と一緒に戻ると代表さんが近づいてきた。


「あーー、こないだ合コンした子だよね?違った?」

「そ、そうです。ここで」

「へーー、いらっしゃい。こういう所初めて?」

「はい」


代表さんが私の席につく。


「カウンターよりBOXがよかった?」

「いえ、ここで大丈夫です」

「凛音、こっち来てよ」

「あーー、わかった。じゃあ、代表よろしく」

「はいはい」


BOX席から女の人が大きな声で叫んでいた。

凛音君が席に着くと私を睨み付けながら凛音君の腰に腕を絡める。


やっぱりそういう所だよね。

私は、納得した顔をして代表さんを見る。


「価格は、ボーイズバーだけど。商売としてはホストみたいになっちゃうんだよね。どうしてもね」

「そうですよね」

「一葉ちゃんだっけ?」

「はい」

「凛音からよく名前聞いてるよーー。合コンがよっぽど楽しかったんだろうな!今何してんだ?営業はって言ったら一葉ちゃんにメールしてたとかって言ってさ」

「そうですか……。今度、また来ます」

「いやいや。別にお客さんとしておいで何か言ってないよ」


代表さんは、困った顔をしながら笑っていた。

凛音君がお客さんとして私に来て欲しいと思ってないのはわかってる。

だって、一度も営業をしてきた事がないから……。

だけど、私はまたここに来たいと思った。

だって、ここに来れば凛音君に会えるから……。

お金を払えば凛音君を独り占め出来るから……。




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