吹く風に

梅林 冬実

吹く風に

瞳が夜の芝生を撫でる

月の灯す仄かな明るさが 君のシルエットをぼんやり映す

長い髪が風に揺れ 君は少し苦しそうに凪を払う


些細な変化にも耐えられない

そんな君が纏う風に僕は触れ 苦しくなる


木々のさざめきが夜を伝う呟きなのなら

君はいくらか楽になれるだろうか

君の瞳に柔らかな笑みが宿ったのは いつのころだったか

とても短い間に君は恋をして 大人になった


けれど


けれどそれは望まない変化だった


君はそれにうまく気付けずに日々を過ごし

いつしかカーテンの向こうで思案するようになり

俯いたまま時だけが過ぎていく毎日に

すっかり怯えてしまって


朝の輝き

昼の淑やかな煌き


君がそれらにひどく嫉妬するようになって

僕は君を知った

僕は夜の闇に纏わりつく 僕の幻影だから


不意に吹く風を

心地いいと感じるときと

煩わしく思う瞬間と

縋りたくなる気持ちと

様々に味わいながら 君は翻弄されていく


僕はこうして君から離れた場所で

固唾をのんで君を見守っているけれど

君が混乱する姿を 愉快に感じてもいるんだ


君は僕に見向きもしないからさ


素直だった愛情が ある頃急に旋回を始め

最早僕にはどうすることもできないくらい 狂ってしまった


君の物憂げで

頬に薄紅を散らしたような

息もできないほどに鼓動が早まったような

そんな姿を眺めるのは 正直悪くない


人を愛するということ

君は誰にどんな風に それを教わったの

僕は誰かに教えられた君に それを教わっているよ

血のように激しい

新緑のように力強い

夏の太陽のように激しい

それでいて 冬の土のように冷たい


人を愛するということ


月明りが照らす君の頬に

それを味わわされている

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

吹く風に 梅林 冬実 @umemomosakura333

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る