第136話 王妃の条件


 この国は、真実の愛を信じている。

 お伽噺のような恋物語などあり得ないと思っていながら、呪いを解く万能の魔法、真実の愛を信じている。


 実際『祝福』を持つ者たちは「呪う力」を持っている。その呪いに打ち勝つ真実の愛の口付けは、簡単のようで難しい。

 そんな国を統治する王。勿論いつ呪われてもおかしくない王を守るのは、王妃からの愛。

 呪いのある国だからこそ、対抗手段の愛を何より大事にしていた。


「高位貴族から礼節ある女性を選ぶことよりも難しい条件だよ。幸い僕ら王族は一度愛しいと想った人にとことん粘着するタイプばかりだったから、見つけさえすればあとは逃がさないよう囲い込むだけだったけど」

「不穏! そして矛盾! 評価が地底を突き抜けた陛下みたいなのが居るじゃない!」

「あれは自分が間違ったことをしていないと勘違いしているだけで、愛は常に王妃にあるよ。王妃もそれをわかっているから正妻の余裕で駆け引きをしようなんて思ってしまう。恋は盲目と言うけれど、あれはお互いの驕りだよね」


 スタンは軽やかにステップを踏む。混乱した私はされるがままだ。

 触れ合った箇所がやけに熱い。


「王妃の条件に政治的影響も、国内権威の後ろ盾も関係ない。だから王妃は政治に関与してはならない。国の女性代表として扱われるから最低限のマナー教育はされるけど、外交にもほぼ関与しない。言ってしまえば淑女としてのマナーも、子が産めるかどうかも二の次だ。そもそも求められていないんだよ。一番必要なのは愛だから」

「そ、それは流石に嘘でしょ? 跡継ぎを産むのが一番の役目だって」

「血を残すために公爵家があると言っただろう? 突き詰めるとこのためなんだ。婚姻五年間で子が生まれない場合、公爵家の者を跡継ぎとして教育することが認められている。勿論王家直属、嫡男が王位に就くのが一番だけど、ときには呪いに関係なく愚かしい人間も生まれるからね。何度か挿げ替えがあったようだよ」

「え、いや…それなら今代の陛下挿げ替えなさいよ!!!!!」

「即位当時は特に問題がなかったからね。娘が生まれた途端妄執に取り憑かれてこのざまだ」


 くるくる回る。音楽代わりにスタンの語る話に合わせて、二人はくるくる回る。


「とにかく、王妃になる絶対条件は、王に愛されていること」


 足元がふらついたけど、しっかり支えられて転ぶことはなかった。


「逆に言えば、次期国王の僕が愛しているのはメイジーだから、メイジー以外は王妃になれないよ」

「なぁ…っ!?」


 盛大に転んでしまいたい。

 だけどしっかりホールドされていてそれもできない。

 驚愕で見上げた先では、スタンの笑顔が煌めいていた。

 何笑ってんのよむかつく…!


「大丈夫。身の安全のためにちょっと窮屈な暮らしにはなるけど、政治がわからなくても問題ないよ。さっきも言ったけど、求められていないからね」

「問題ありでしょ馬鹿なのこの国…! 王妃がとんでもない浪費家だったら国が傾くじゃない!」


 条件見直すべきでしょ明らかに!

 私は叫び、足を踏ん張ってステップを踏む足を止めた。


(これ以上踊らされて堪るかってのよ…!)


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