第125話 何故放置した! 言え! 何故だ!


 思わずソファから立ち上がり、スタンを見下ろして叫んだ。


「アンタなんでわかっていながら父親を一発でも殴らなかったのよ!」

「過激」

「モーリス煩い! 家族が家族に呪われてんのよ!? 会話が通じないなら殴って矯正しなさいよ! 何より最高権力者がそんなことして許されている現状がおかしいでしょ!」


 おかしいわよ。なんなのこの国。

 確かに呪いを使用するのは魔女の仕事だ。しかし人を傷つける呪いは禁止されている。筋肉痛になる呪いなんて、精神が崩壊する危険をはらむ呪いだった。


 そんな呪いを娘にかけるよう依頼するなんて、頭おかしいわ。

 犯人がわかっていながら、放置しているスタンもおかしい。

 こいつは妹が大好きなくせに、何故父親を放置しているのか。


「公爵を殴って親子喧嘩をはじめたメイジーの言葉には説得力があるね」

「感心している場合か! アンタがこんなに腑抜けているとは思わなかった…ねえ、王様ってどうやって会えばいいの」

「流石に庇えないから教えられないな」


 私がいきなり殴りかかることを前提にしないで! 私だってまずは対話を試みるわよ! 決裂したらわからないけど!


「それに、陛下は一度王妃に叩かれている」


 王妃まともだわ。

 ちょっと落ち着いた。

 …だけど、呪いが続いているってことは懲りていないってことよね。


「で、それとこれとがどう繋がるのよ」

「実際に呪いを送っていた魔女が、目くらましの呪いを解いて公爵夫人を見つけ出しメイジーの経歴偽造に手を貸した魔女なんだ」

「犯人揃っているじゃない」


 全員一箇所に集めてお仕置きしましょ。そうしましょ。


「…だから、わかっているのになんですぐ手を出さなかったのよ!」

「魔女は陛下に囲われていたからね。手を出せなかったんだ」

「その陛下をまずぶん殴りなさいよ!」

「その陛下は魔女の呪いで守られていたんだ」

「じゃあ魔女を…権力ぅ!」

「うん、魔女に守られている陛下が魔女を囲っているから、正攻法では取り締まれなくてね。陛下を牽制して黙らせることはできても、直接叩くことはできなかった」


 多分これ、私の叩く(物理)とは違うんでしょうね。


「陛下は他にも魔女を囲っていて、そちらは大人しくさせることができたんだけど…しぶといのがいてね。そいつが図太くも、陛下を諫める立場である公爵と接触したのが今回の始まりだ」


 …公爵って陛下を諫める立場だったの?

 諫められる立場じゃなくない? やらかしの経歴からして。


「メイジーには信じられないだろうけど、公爵は家庭以外の仕事は完璧だったんだよ」

「それ本当に公爵がしてる?」


 偽造されてない? 大丈夫?

 私の疑問に、スタンは困ったように笑った。


「一度偽造してしまうと、いつまでもその疑念がついてまわる。本当に公爵は馬鹿なことをした。これからはまともな仕事をしても、信用されなくなってしまう」

「…本当に今までまともだったの? 仕事が?」

「仕事がまともだったから、家庭が多少危うくても放置されていたんだよ」

「仕事が全てじゃないんだから家庭がやばかったら通報しなさいよ!」

「一度通報して、夫人が無事かどうかを大々的に確認すべきだったと思っているよ」


 そうよね。それが叶っていたら今回の件、絶対違う形になっていたわ。


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