第117話 家出娘


 何言ってんだこいつ。

 飛び出した言葉に、私は真顔になった。


「それは私の娘です」


 認知された。

 どうしよう悪寒が、鳥肌がすごいわ。


「つい最近反抗して家を飛び出しまして、持て余していたところなのです」


 色々ねつ造してきたぞこの男。


「令嬢が家出とは、穏やかではないね?」

「私と妻のあり方に不満があったようです。ですが私は妻の愛し方を変える気はありません。反発して逃げ出した娘を探す気もなかったのですが、その娘が殿下とご一緒なら話は変わります」


 どう変わるんだ。

 確かに親の、夫婦の関係に不満はある。そもそも異常って認識はあったのね。

 多分これは散々人に言われてきたのだろう。自覚があってこれなのか。

 誰か私に呪いの儀式中級編あたりを持って来てくれないかしら。熟読させて。そして試させて。この男に。


「確かに私は彼女が公爵家の関係者だと思って声を掛けたけれど、娘が生まれたとは聞いたことがなかったな。この17年間、接触したこともない」

「申し訳ございません。妻に似た女の子でしたので、嫁に出すことを厭うて今まで屋敷から一切出しませんでした」


 どの口が言ってんだ。

 表情を変えずに淡々とよくほざく。

 天蓋の奥でお母さんがズリズリ移動しているのが見えた。色々反論したいが、公爵と殿下のやりとりだから口が挟めないのだろう。というか、話がどう転ぶか見定めている。


「嫁に出す気もなく教育を施していない娘です。それでも殿下の目に留まり、無礼があるようではいけません。早急に連れ戻し、教育を施そうとしていたところです…殿下もその方が都合も良いでしょう」


 私を教育することとスタンに何の関係があるのよ。

 あと大変恐縮ですが、既にそのスタンによって淑女教育? っていうの受けさせられているのよ。マスターしていないけど。


「都合ね…それはそうと、私がメイジーから聞いていた話と随分違うね?」

「家出していた娘ですから。教育も施しておらず、殿下を謀るような言動を娘が取ったこと、親の私が代わって謝罪致します」


 こいつ私の言動全部家への反抗期ってことにしてきやがったわ!!


 成る程ね! そうやって私がスタンに告げたあれこれを虚偽にしようってこと!? 正しいのは自分の方だと!? たいした自信ねこのハゲ予備軍! オールバックの根元が後退気味でしてよ!!

 というか調べたらわかることをまさしく虚偽として王族のスタンにぶっちゃけちゃっていいわけ? 王族に嘘をつくのがだめってことくらい、庶民の私も知っているわよ。公爵ともあろう者が知らないはずないわよね。


 …え、まさか調べられても自信があってこんなこと言ってる…?

 薄ら寒いものを感じて、私は初めて目の前の男が不気味過ぎて恐怖を感じた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る