第116話 どうやら計画通り
スタンの言葉で、公爵はチラリと私を見た。
まったく見覚えのない碧眼に温度はない。実の父親と聞かされたが、我が子をいらぬと言い放った男らしく冷たい目をしている。
イラッとした私は拳を構えようとして、スタンに押さえられたままなことに気付いた。私が手に力を込めた瞬間に押さえ込まれたわ。何すんのよ。
「私は夜会ではぐれた彼女を探してここに辿り着いただけだよ。彼女は夜会が初めてだからね。迷子にならないように、しっかり対策を取るのは当然のことだろう?」
一瞬どういう意味かわからなかったけど、すぐに察した。
…こいつ、私に何か呪いをかけていやがった…!? それも、どこに居るかわかる居場所を特定する系のやつ!
途端、ぱっと浮かんだテラスでの一件。突然の暴挙。私がスタンをぶっ飛ばした原因。
(…まさかあれ…呪いの儀式…!?)
愕然と見上げれば、スタンはにっこりと笑った。
否定も肯定もしなかった。
(な、殴り飛ばしたい…!)
現在この場にいる男三名の内二名をぶっ飛ばしたくて仕方がない。
モーリスがいなかったら私を止めることはできなかったわよ。
「…では、殿下はこの娘を追ってここまで来たと?」
「ああ、そうだよ」
「まさか殿下がこのような娘一人を気にかけて下さるとは思ってもみませんでした」
「そうかな? 私は自分の言動には責任を持っているつもりだよ。上に立つものとして、不誠実な行動は取れないだろう」
(どの口がほざいてんだこらぁ!!)
火を噴くかと思った。
「まさかそれが貴殿の屋敷、それも夫人の寝室だとは思ってもみなかったが…私は彼女を心配して、単身乗り込んだ次第だよ。女性を想って常識外れな行動をしてしまう男の気持ちは、公爵だからこそわかってくれると信じている」
そう言われて、公爵は黙った。
伴侶を愛しすぎて常識外れな行動を取っている貴族代表っぽいものね。
言外に、夫人が攫われたらいても立ってもいられないだろう? っていっているわけだけど…こいつ、ついさっきまでその夫人が手元にいなかったことを聞いて知っているわけで。
性格、悪い…。
ついしみじみと思った。
「…許すのはこの一度限りです」
「理解があって嬉しいよ。では…メイジーの誘拐に対しての言い分を聞こうか?」
ここで、立場が逆転した。
妻の寝室に侵入した男を問い詰める夫と侵入者が、誘拐犯と救助に来た男に変貌する。
…というか侵入がどうとか言う前にそこじゃないの? あれか、私が庶民だから軽く扱ってんのか暴れるぞ!
…いえ待って、そういえばつまり私って…。
「殿下にはご心労をお掛けしたこと、誠に申し訳ございません。私も気が急いて、あなたに確認する暇もなくこの娘を連れ出してしまいました」
「誘拐ではないと?」
「ええ、誤解なのです。私はただ、家出した娘を連れ戻しただけですので」
…はぁ?
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