絶対呪ってやるからな!

こう

第1話 夜の酒場は無法地帯


 夜の酒場は無法地帯だ。


 普段行儀の良い客も酒が入れば暴君になる。横柄な客も酒が入って即寝落ちすれば可愛いものだ。一番いいのは酒が入ると記憶が飛ぶ客。殴って制圧しても怒られない。

 普段許されない事も酒が入っているというだけで許される。夜の酒場が無法地帯なのはそんな勘違いをした客が大量に沸くからだ。


 そっちがその気なら仕方がない。無遠慮な客にはこちらも落ちついてくださいお客様の精神でそれ相応の対応を。


 私は酒場の給仕だ。十七歳の若い女。若い女が給仕をしていると、何を勘違いしているのか好きにしていいと考える客がいる。肩や腕ならまだしも、尻や胸を触ろうとする客は店を間違えている。酒場に居る女全てを商売女と勘違いしているのか。そんなわけ無いだろう。

 特に私は被害が多い。無駄に肥大化した脂肪のせいだ。うねる金髪、凡庸な緑の目だというのに注目度が高いのは脂肪のせいだ。


 伸ばされた手が私の腕を掴んだ瞬間、何時もの勘違い迷惑客と判断した私は振り向きざまに肘鉄を繰り出した。


 この酒場で働いて三か月。幾人もの迷惑客を葬ってきた肘鉄。触れたら起爆の判断が速すぎると店長に言われたのも忘れ、熟練の兵士のように洗礼された流れで繰り出した。馬の尻尾にしたピンクゴールドの髪が靡く。


「危ないな」

「なん、だと」


 しかしその肘鉄は、対象の手の平に吸い込まれて消えた。

 黒い外套を被った怪しい男性客。身体のラインを隠しても分かる細身だというのに…。


 地元で【鋼鉄の肘鉄】と恐れられた私の肘鉄を止めた、だと…!?


 愕然としたのは一瞬。すぐに距離を取ろうとするがこの男、私の腕を掴んだまま肘鉄を防いでいた。腕をつかまれたままなので逃げられない。


「思ったより凶暴だな。声を掛ける前に攻撃されるとは思わなかった」

「まずは手をお放しくださいお客様」

「凄いな、丁寧に話しているのに殺意が鋭くて手を放した瞬間蹴り上げられそうだ」


 くそ、距離が近すぎて蹴りが出来ない事まで察せられている。

 この男、出来る…!


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