第14話 私にだけ視えなかった何か
幼少期の頃の話です。
ある夜のお風呂上り、私たちは台所でジュースを飲んでいました。その時です。
「何かいる!」
上の妹が、勝手口の外を指さして言います。しかしうちはマンションです。勝手口は西側のベランダに通じていますので、知らない誰かが居ては困ります。
「誰もいないよ? 見間違いだよ」
父が勝手口から外を見て言います。数日後、勝手口のところに、突っ張り棒を利用したカーテンが取り付けられました。
「きっと妹は夜空が怖くて、変なものが視えた気がしたのだろう」
つまりカーテンを取り付けたのも、妹が夜空を怖がらないようにするためだと、私はそう思っていました。ところが。
「何かいる!」
また別の日、上の妹は再び言います。今度は出窓のカーテンの向こうです。上の妹はその出窓の、西側のベランダに近い一か所、私たちから見て右上を必死に指さしています。
「何かの見間違いじゃない?」
父がカーテンを少し開けて、外を覗きます。
「だ、大丈夫だよ、何も居ないよ!」
父は心なしか、慌てた様子でカーテンを閉めました。よく見ると、上の妹だけでなく、下の妹も、母も、皆が同じ場所を気にしているようでした。
私には何も視えず、何も感じませんでしたが、私以外の家族には何かが視えていたのでしょうか。しかし、私はそれを確かめようとは思えません。
数年後に、妹たちはもちろん両親ですらあまり入ろうとしない、物置のように使われていた部屋が私の部屋になったからです。その部屋は台所と西側のベランダで繋がっていて「怪獣が出る部屋」と呼ばれていました。
「怪獣」とは何のことなのか。それを知ってしまったら、きっと、今までと同じように過ごすことはできなくなるでしょう。
そういったものが視える者には「視える」という利があるのかもしれませんが、視えない者にも「視えない」という利があるのです。
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