悪い夢

眩しい。目をゆっくり開けると、カーテンがゆっくり開いて光が差し込んでいっている。物が勝手に動くのは流石に慣れてきた。奥には、メイドが一人。テーブルの周りを行ったり来たり。多分、朝食の準備をしてくれている。行こう。

満足するまで目を擦って、やる気のない目を使いながらベットの外へと重い体をずらしていく。ベットに座って床に足を置く。この毛布のような白くてふわふわ床がとても気に入っている。ゆっくり立って、サンドラのところへ向かっていった。

「おはようサンドラ」

「おはようございます。シモ」

シモ?そういえばこの名前なんなんだろう。ダグラスに何回か呼ばれていたから、自分のことなんだろうけど、それだと納得しない。ダグラスのは無視していたけど、サンドラにも言われると、流石に気になっちゃうな。

「ねえ、シモってなに?」

すると、せっせと準備をしていたサンドラがピタッと止まった。足元がざわつく、まるで風を受けている雑草のように、俺は風を受けていないのに足の感触だけがそうさせて、体と頭が納得しないような、違和感が足元から伝わる。サンドラは黙りこくっていた。わかることはすぐに教えてくれていたのに。

「ゼブラ、こんなとこにいたんだ」

背中が懐かしい声を受けた。強い発音なのにそれでいて優しい雰囲気がする声。女の声なのに女らしくない聞き慣れた声。

もしかして、B?

パッと後ろをみると、Bが、いつもの格好で少し恥ずかしそうに、まるで俺のことを意識してるような、思春期特有の面持ちで俺のことを迎えにきてくれていた。

後ろを振り返ろうとすると、毛布のような床が伸びて足に絡みつき、体全体をBの方向に向けられない。頑張って、頭だけ曲げると、傾いたBが、俺のピンチということを認識できずに見慣れない笑みを浮かべている。

「こっちおいで。帰ろう」

Bが両手を差し伸べてくれている。でも

「い、いけない」

「なんで?」

だから、足が動かないんだって。首を曲げるのに疲れて少し体勢を戻すと、急に辺りが暗くなった。

薄ら止まっていたサンドラが動いているのがわかる。少し焦げ臭い。金属を焦がしたような、体に悪そうな匂いが嫌でも入ってくる。

手で匂いを払おうとしたら、両手も伸びた毛布が俺を捕まえていた。動けない。怖い。

サンドラが、何かを持ってきてる。何だ。暗くてよく見えない。動いてる?

目を凝らしてじっと見つめようと体を前に曲げた瞬間に足が凍ったように真っ直ぐ倒れ、毛布が俺を絡めて一体になろうとしていた。嫌だ。抵抗も虚しく、すぐに顔以外絡まり終わってしまった。生暖かくて気持ち悪い。すると、多分サンドラが何かを皿に乗っけて、倒れている俺の前に置いてきた。

黒くて丸い、膨張した水滴のような物が、少しずつ泡を噴きながら脈を、打っていた。

臭いの原因はこれか。なんでサンドラはこんなものを、こんな朝ごはん嫌だよ。

脈を打つ何かに、急に火花が散り始め、その火花がどんどんどんどん強くなっていく。熱い、顔も毛布に覆われ始めて、息ができない。苦しい。とうとう視界が火花だけになって、熱い感覚のまま、毛布が俺を沈めていった。

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