うさぎとかめpart2

「ゴール。」


丘で寝ている兎を尻目に、

亀はゴールテープを切った。


レース前、あれ程、兎をつけ回していた

報道陣も、すっかり忘れて亀に群がる。


女性ファンもすっかり兎のことは忘れ、

亀に向かって熱い声援を送る。


栄光と賞賛。虚しいものだ。

目を覚ました兎は

さぞかし悔しがることだろう。




誰も見てない丘の上の方へ

カメラを向けると…


あれ。兎が起きだしている。


しかも、インタビューに応じる亀を

暖かい眼差しで見つめていた。


嬉しそうだなぁ。

栄光と賞賛。

彼に今、最も必要な物だ。


少なくとも、それだけを目指し、

陰で血の滲むような努力をして来た、

お前になら譲ることができる。




兎も、人間で言えば30歳。

栄光と賞賛。

それらは良いものではあるが、

ずっと持ち続ける物ではない。


毎日、しつこく、つけ回す記者達。

家や、仕事場まで追いかけてくるファン。

投資や怪しいビジネスで

金を騙し取ろうとする者達。


もうすぐ父親になり、

幸せな家庭を築こうとする彼にとっては、

それらはもう邪魔な物なのだ。


生まれてくる、子ども達のことを思えば。



幸い、賞金の投資が成功していた。

お金の心配はない。



若い頃の俺を見ているようだ。

冷遇されながらも、

ただひたすらに栄光と賞賛だけを求め

がむしゃらに走って来た日々。


お前もいずれは

誰かに譲りたくなる日が

来るかも知れないな。


それまでは楽しめよ。


彼は丘の上から、密かに、

リムジンに乗せられ、

記者会見へと向かおうとする亀を見送った。


そして、誰にも知られることなく、

静かに歩いて丘を降りた。


2人の新たなスタートである。







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