第62話 ネファーシャル子爵side9
その隣には魔法研究所の所長兼、リダ公爵家の若き当主ローガン・リダがいる。
その横には社交界で見たことがない背が高く品のいい端正な顔立ちをした男が立っていた。
その美しさに目を惹かれた。アデルもその男に魅了されているようだ。
オリーブベージュの髪とエメラルドグリーンの瞳を見ていると何か思い出せそうだと首を捻るが誰だかはわからない。
それよりもこんなところにいるマグリットが気になって仕方なかった。
(マグリットはガノングルフ辺境伯邸の使用人として働いていたのではないのか?)
しかしそんな疑問もすぐに消えてしまう。
普通に考えたらわかることだ。
(令嬢として役に立たないマグリットを娶るわけがない。使用人として働くことも断られ、研究所で働いているに違いないっ!)
ガノングルフ辺境伯に追い出されたマグリットはリダ公爵の元で運良く下働きでもしているのだろう。
惚けているアデルの手首を掴んで早足でマグリットの元に急ぐ。
「──マグリット、こんなところで何をしている!」
マグリットが顔を上げてこちらを見た瞬間、曇っていた天気が嘘のように晴れていき光が漏れた。
まるで天気までも自分たちの選択が正しいと後押ししてくれるように思えた。
キラキラと雲の隙間から差し込む光がマグリットを明るく照らしている。
しかしそんなマグリットを守るように立ち塞がったのはオリーブベージュの髪をした先ほどの男性だった。
こちらに気づいたリダ公爵がいつものようににっこりと笑みを深めながら前に出る。
「これはこれは……ネファーシャル子爵、何か用が?」
「リダ公爵、急に申し訳ないが今すぐに国王陛下に会わせてくれ……っ」
「国王陛下に?ここは魔法研究所だよ。アデル嬢を魔法研究所に呼んだ覚えはないけど」
「アデルが至急、伝えたいことがあるそうで連れてきたんですよ!」
マグリットの前にいる男を見ながら惚けているアデルの肩をつつく。
こうして惚れっぽいアデルがオーウェンにまんまと騙されてついていったのだ。
今回もこの男性に一目惚れでもしたのだろう。
背も高く体格もいい。
甘いマスクに整った顔立ちを見ていると一瞬だけベルファイン国王と重なった。
だが、気のせいだろう。
今はアデルを使ってベルファイン国王に会わなければ……そう思ったからに違いない。
「アデルが新しい力を得たのです!是非、国王陛下に見ていただきたいっ」
「前にも話したと思うけど、アデル嬢が魔力を高めない限りはこれ以上新しい力は生まれない。何か訓練をしたの?」
「いや……それは」
リダ公爵はこちらを怪しんでいるのがすぐにわかった。
アデルがめんどくさいと嫌がるため、魔力訓練など行ったことはない。
それでも貴重な魔法属性さえあればそれでいいと思っていたからだ。
「とにかく、ベルファイン国王陛下に報告をしてください!」
「何故、国王陛下に報告する必要が?」
「我々は間違いを正さなければならないんですっ!」
「もう少し詳しく説明してもらえます?」
「──マグリットをネファーシャル子爵家へ戻してアデルをガノングルフ辺境伯の元に嫁がせなければならないんです!今すぐにっ」
そう言った瞬間、空気が張り詰めたのがわかった。
しかし今はそんな些細なことを気にしている暇はない。
「あなた方がアデル嬢の身代わりにマグリット嬢を嫁がせたと聞いたけど?」
「そ、それは間違いだったんだ!」
「国王陛下もガノングルフ辺境伯がマグリット嬢と共にいることを納得したからこの状態なのでは?」
「……っ!」
リダ公爵は首を傾げながらにっこりと笑っている。
(何故ここまで言ってわからないっ!このままだと我々は……)
このままリダ公爵では話が通じないと判断する。
「この件はガノングルフ辺境伯か、ベルファイン国王に直接話さなければならないんだっ」
「ネファーシャル子爵、随分と焦っていますね」
「~~っ、この場にアデルもマグリットもいることです!丁度いい。この件は間違っていたとお前の口から説明するんだ。マグリットッ!」
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