第60話
(やっぱりわたしじゃイザックさんの妻になるには力不足よね……!)
わかっていたが少しだけ寂しいと感じた。
ベルファイン国王は「イザックにはマグリットしかいない!」と力説しているが、やはりマグリットではイザックに相応しくないと思ってしまう。
「ベルファイン国王陛下、折角のお申し出ですがわたしには荷が重いのではないでしょうか。イザック様にも申し訳ないですし」
ベルファイン国王はチラチラとイザックに視線を送っている。
「わたしはイザック様の善意で屋敷に置いてもらっているだけですし、もっと素晴らしい方に……」
「──マグリットの代わりなどいないっ!」
「イザック、様?」
珍しくイザックが大きな声を出したため、マグリットは目を見張った。
マグリットがキョトンとしているとイザックはハッとした後に咳払いをする。
「ゴホンッ、つまり……マグリットはっ、その……俺にとっては特別なんだ!」
「特別、ですか?」
「た、たとえ使用人でも妻でも、俺はマグリットと共にいたい」
ベルファイン国王が見守る中、マグリットはイザックの言葉の意味を考えていた。
イザックはマグリットを気遣って言ってくれているのだろう。
(やっぱりイザックさんはいい人だなぁ……)
それにマグリットも使用人でも妻でもいいからイザックとは末長く一緒にいたい。
何故ならばまだまだ作りたい調味料があるからだ。
「わたしもイザック様と一緒にいたいです!どんな立場だろうとそばを離れるつもりはありません」
「……!」
マグリットがそう言うと、イザックは呆然としていたが、すぐ嬉しそうに顔を綻ばせた。
「マグリット、俺と婚約してくれないか?」
イザックからの提案にマグリットは目を見開いた。
(わたしがイザックさんの婚約者に……?)
マグリットがあまりの衝撃に何も言えないでいるとイザックは焦ったように言葉を続けた。
「こっ、婚約者にならばマグリットを様々な脅威から守ることもできるだろう?ネファーシャル子爵家からもだ。それに……俺はっ」
「……?」
「マグリットのことが、す……すっ!」
イザックが懸命に気持ちを伝えようとしていることも知らずにマグリットは言葉を続けた。
「もちろんですっ!」
「……っ!?」
「なんと……!」
ベルファイン国王とイザックはマグリットの意外な返事に驚いている。
「以前から〝酢〟を作りたいと話していましたもんね!」
「…………ス?」
「果実酢ですよ!果実酢」
「え……あぁ、まぁ……そうだな」
マグリットはイザックと果実酢を作りたいと相談していたことを思い出す。
何故、婚約の話と酢の話が一緒にされたのかはわからないが、どんな立場だろうとマグリットの夢を叶える手伝いをしてくれるイザックの気持ちが嬉しいと感じた。
「がんばって美味しい果実酢を作りましょう!」
「いや……そうではなく」
「これからも使用人兼イザック様の婚約者としてもがんばらせていただきます!」
「「…………」」
二人はマグリットにイザックの気持ちが何も伝わっていないことを悟り、視線を合わせた後に頷いた。
「イザック、マグリットは強敵だな」
「……はい」
「とりあえず婚約おめでとう」
「…………はい」
あっさりと婚約者になることを了承したマグリットは婚約者になったとしてもイザックとの関係は今までと何も変わらないと思っていた。
それにネファーシャル子爵たちもアデルの婚約者や結婚相手のことばかり話していたので貴族になるためには絶対に必要なものという認識でしかなかったのだ。
マグリットはネファーシャル子爵家という狭い世界で暮らしていたせいか、婚約に対する解釈が大きく捻じ曲がっていた。
そんなことにも気づかないまま、あっという間にイザックとの婚約関係が成立する。
それにガノングルフ辺境伯領に帰るためには明日までに魔力コントロールを習得してローガンに合格をもらわなければならない。
今日もマグリットの頭の中は味噌と醤油でいっぱいだった。
(明日もがんばらないと……!)
こうして楽しい食事会はあっという間に終わった。
マグリットは自分の部屋に戻ってからも訓練を再開して夜は更けていった。
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