第56話


「本来ならば三日でなんて到底コントロールできるようなものじゃないんだよ」


「……っ」


「順調にいっても一週間がいいところじゃないかな」



ローガンにそう言われると弱気になりそうになるが、マグリットには長年、叶えたかった夢がある。

それはこの世界で日本食を食べるということだ。


そしてガノングルフ辺境伯邸にはマグリットとイザックが協力して作り上げている味噌と醤油がある。

マグリットは屋敷に置いてきた味噌と醤油が気になって仕方ない。


(記憶が戻ってから、わたしは日本食を食べることを目的に生きてきたのよ!こんなことで諦めてたまるもんですかっ)


三日で魔力コントロールを身につけろと言われたら、夢のためにやるしかないのだ。



「──やりますっ!」


「え……?」


「味噌と醤油のためなら三日で魔力をコントロールしてみせますっ!」


「ミソト、ショウユ?」


「わたしの長年の夢なんです……!」



マグリットは味噌と醤油という調味料があり、それをイザックと共に二週間かけて作り上げたことを興奮気味に話していた。

それにはローガンも興味深そうにしている。



「是非、僕も食べてみたいな!マグリットとイザック殿下が作り上げたミソとショウユという調味料を」



ローガンは食に強いこだわりがあるそうだ。

特に珍しい食材には目がないらしくマグリットの話を楽しそうに聞いている。



「はい!味噌は早くても三カ月から半年後で醤油は一年後に出来上がりますから」


「わお……!随分と長い期間かかるんだね」


「イザックさんの魔法の力を借りなければできない貴重な調味料なんです!」


「ふーん、すごいね。マグリットは」


「え……?」


「イザックの力を怖いとは思わなかったの?」



その質問と共にローガンの手がマグリットの頬にそっと触れる。

しかしマグリットは初めから『腐敗魔法で日本食が作れるかもしれない』と、下心いっぱいでイザックに近づいたためか怖いと思ったことなどなかった。


最初は従者と思い込んで一カ月、普通に生活を共にしたのも今ではいい思い出である。

それがベルファイン国王にバレてしまったらと思うとゾッとしてしまうが、ローガンにその気持ちを伝えるためにマグリットは口を開く。



「イザック様のことを怖いと思ったことはありません」


「……!」


「とても優しくて親切で周囲のことを考えてくださる素晴らしい方ですよ」



ローガンは優しい笑みを浮かべて「そっか」と言ってマグリットの汗ばんで額に張りついた髪をそっと指で梳いてくれた。

そんなローガンはとても嬉しそうに顔を綻ばせている。

彼はイザックを心配していたのだろうと思った時だった。



「──ローガンッ!」


「げっ……!」



タイミングよく扉が開くと、そこには先ほどベルファイン国王や前国王たちに会いに行ったはずのイザックの姿があった。



「マグリットに気安く触れるなと言ったはずだが?」


「いやぁ……あまりにも素直でいい子だから可愛がりたくなっちゃってさ~」


「…………触るな」



怒りを露わにするイザックだったが、マグリットはローガンのイザックを想う気持ちが伝わかったからか、彼を庇うようにマグリットは腕を広げた。



「イザック様、ローガン様はとてもいい方なので怒らないでください!」



マグリットがローガンを庇うと何故かはわからないがイザックはかなりショックを受けているようだ。

ローガンがマグリットの背後でニヤニヤと笑いながらイザックを見ている。


イザックが独占欲を爆発させているとも知らずに、マグリットは魔力コントロールの件について質問するためにイザックに問いかける。


(イザックさんに聞けば何かコツを掴めるかもしれないわ!)

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