第55話
マグリットを抱えて王都まで必死に馬を走らせ続けてくれたイザックのおかげで命拾いしたようだ。
必死にマグリットの名前を呼ぶイザックの声を思い出すと、そっと自らの唇に触れる。
(気のせい……よね?)
イザックはベルファイン国王にマグリットのことを伝えに向かい、前国王や王太后に久しぶりに顔を見せに行くといってマグリットの頭を撫でて去って行った。
ローガンに絶対にマグリットに触るなと念を押して……。
部屋の中にはニヤニヤしながらイザックを見送っているローガンと女性研究員の姿。
気合い十分で魔力コントロールを受けようとしたマグリットだったが、何故かローガンから椅子に座るように促された。
今から何をするのか……マグリットが緊張しているとローガンは近くにあったテーブルから本を取りマグリットに渡した。
「まずは基礎からだね。自分の体にある魔力を感じることから始めよう。今、意識がある時は常に魔法を使い続けている状態だ。それをコントロールして抑えていかなければならないんだよ」
「は、はい!」
「本来は子供の時に学ぶ魔力コントロールを垂れ流し続けたことで、ここまで魔力が大きくなったのかもしれない。イザックとは違うパターンだな。色々な考察ができるね」
ローガンはマグリットを前にブツブツと呟いて高速にメモをするために手を動かしながらも、初歩的な魔法の使い方が載っている本を使ってわかりやすく教えてくれた。
そのおかげでマグリットも数時間で魔法の仕組みを理解することができた。
子供でもできることなので実践するのは簡単だったが、今まで当たり前のように出していたものを抑えることに違和感しか感じない。
(な、なんか体の中に溜まっていく感じがして気持ち悪い……っ!)
そしてローガンが言うには膨大な魔力を内に留めていくのはかなりの精神力が必要だそうだ。
マグリットはローガンに言われた通り、踏ん張りつつも魔力を抑えていた。
「ぐぬっ……!」
「ふむ、やはりイザックと同等の魔力量だとみて間違いなさそうだね」
「こ、こんな状態で日常生活を過ごせる自信がありません!」
「んー……この分野になってくるとやはり僕よりもイザックが適任かもしれないね」
ローガンはマグリットの様子を手早く紙に書き込んでいく。
先ほどはふざけた態度とは一転して、その表情は真剣だ。
(魔力を抑え込むのってこんなに大変なのね……!正直、舐めていたわ)
ネファーシャル子爵たちやアデルはこんなに苦労している様子はなかった。
ローガンにそう言うと「マグリットとイザックが規格外なだけで本来はこんなに苦労しないんだよ」と、涼しい顔で言っているではないか。
(気を抜くと抑え込んでいるものが弾けとんでしまいそうだわ!)
マグリットが顔を真っ赤にして汗を拭いながら耐えているとローガンはイザックの話をしてくれた。
「前の魔法研究所の所長から聞いたんだけどね、イザックは幼少期から、かなり強い力を持っていたからコントロールするのが大変で、今のマグリットのように力を押さえつけようとしてよく暴発していたんだ」
「……!」
イザックの過去の話を初めて聞いたマグリットは驚いていた。
確かにこの状態を維持するのは並大抵の苦労ではないだろう。
子供なら尚更、我慢することはできないだろう。
それが腐敗させてしまう魔法となれば、周囲に与える影響が大きくなってしまう。
(だからイザックさんは、あんなに周囲に気を遣っていたのね)
マグリットと初めて会った時のことや自信がないイザックの発言、領民たちが自分を恐れているに違いないと周囲への影響を考えていたことを思い出す。
それは幼少期から膨大な魔力を抑え込まなければならず、万が一漏れ出てしまえばなんでも腐敗させてしまう。
イザックが何かに触れたりすることに臆病だったのはこんな理由があったのだと思った。
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