第27話 ネファーシャル子爵side4


「あら、よかったじゃない!お父様とお母様だって、マグリットをいらないって言っていたでしょう?」


「……っ」



しかし妻と二人で黙り込むしかなかった。

マグリットがいなくなった穴が大きすぎていることを実感できているのは自分たちだけだ。

アデルはまだ知らないからこんなことが言えるのだろう。



「それにガノングルフ辺境伯が何も言わないってことは今頃使用人として働いてるんじゃないの!?」


「使用人として、だと?」


「令嬢としては無理だけど使用人として働くんだったら突き返さなくてもいいし、元々ガノングルフ辺境伯だって全然結婚に乗り気じゃないって言っていたのを研究所の人から聞いたわ!」



アデルの言葉に納得する部分はあった。

確かにマグリットがガノングルフ辺境伯邸に着いた段階で普通ならば返されるはずだろう。

だがそうならなかったということはマグリットは案外、うまくやっているのかもしれない。



「だったら王命を果たしたことになるでしょう?それでいいじゃない!」


「…………」


「それよりも新しい相手を見つけてよ!お願いっ!オーウェンに後悔させてやるんだからっ」



アデルはオーウェンとの駆け落ちを死ぬほど後悔しているようだ。

オーウェンも何もできずにわがままばかり言うアデルに百年の恋も覚めたのかもしれない。


(まぁ、いい……!一度リセットしてすべてをやり直せばいい。この豪雨もアデルが戻ってくれば落ち着くだろう!)


しかしそんな願いを無視するように、次の日もまた次の日も雨は降り続いてしまう。


(どういうことだ!?アデルがいればまた天気が安定するはずでは……?いや、まだ二日だ決めるのは早計だろう)


しかし雨よりも問題なことがあった。

それはアデルのわがままだった。

子爵家に戻り、あまりにも不便な生活に泣き喚く声は精神を蝕んでいく。


レイはよくアデルの世話をできていたかと思うほどだ。

アデルがレイのような侍女が欲しいと言い続けるため、新しく侍女を雇うがアデルの態度に「私は無理です」と、カンカンに怒ってやめていく。

子爵令嬢ごときがまるで王女のようだ……耐えられないと口を揃えてそう言った。



「アデルッ、これ以上わがまま言うのはやめてくれ!少しは我慢するんだ」


「我慢しているわ!でもレイと全然違うもんだものっ」


「レイのことは忘れるんだ!もういないのだから」


「レイがいいわ。それに食事もマズくて食べられないっ!前の食事がいい!今すぐ料理人をやめさせて」


「それはマグリットが……」


「屋敷も部屋も汚ったないし、洗濯物だって臭いし汚いわ!」


「それも……マグリットが」



マグリットの名前が出てくるたびに存在の大きさを実感する。

マグリットが一人で担っていた仕事の量が大きすぎるのだ。

いつもマグリットの作っていた名前のわからない食事の味が忘れられない。


降り続く雨や屋敷の管理に領地経営、やめていく使用人や料理人のことなど、問題や考えることが多すぎてストレスばかりが溜まっていく。

肌は荒れていき体調は崩れていくばかりだ。

頭痛に倦怠感が消えない。


アデルが戻ってきて二週間、マグリットが出て行って一カ月経とうとしていた。

ネファーシャル子爵家は一カ月でこんなにも落ちぶれてしまった。


アデルもさすがにこの生活に文句を言ってばかりではダメだと気づいたのだろう。

今まで買っていた宝石を売っても文句を言わなくなった。


結局、シェフを三人と侍女を五人を雇い、やっと生活は回りはじめた。

しかしそれと同時に金も倍以上減っていく。


アデルの嫁ぎ先を見つけるために新しいドレスを買ってと言われたがとてもそんな金はない。

雨は降り続いていき、領地からは作物がこのままだと全滅してしまうと報告を受けた。


このまま先が見えない状況でどうなっていくのだろうか、不安に頭を抱えるしかなかった。

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