第21話 イザックside2
それが十三歳の時だった。
母も父も反対したが、イザックはずっと抑え続けた力を解放しても問題ない場所に行きたかった。
ベルファイン王国は周囲に比べれば小国だが資源が豊富だった。
国を守るために魔法を使うが、他国の圧倒的な武力や数を前にするには不利だった。
荒れ果てた辺境の地は戦場になって酷い有様だったが、長年の怒りや憎しみを発散するようにイザックは力を振るった。
自分の限界を知りたかったのかもしれない。
(……確かに恐ろしい力だな)
敵国の船や武器をすべて溶かし、戦力を奪ってやれば悲鳴と共に撤退していった。
隣国への国境でもやることは同じ。
戦う術がなくなれば逃げ帰るしかない。
何度か繰り返せば諦めるしかなくなる。
イザックは一人で陸も海も守ることができた。
誰も殺めることなく場を収めたのは、これ以上自分の力を嫌いたくなかったからだ。
イザックの腐敗魔法の噂は一気に広まり、恐れられるようになったおかげか今では誰も近づかなくなった。
その功績を讃えられて父から爵位を賜った。
それが〝ガノングルフ辺境伯〟だった。
社交の場にはほとんど顔を出さずにいるからか噂は嫌な形で広まり続けた。
それから十年かけて戦場を豊かな街へと作り変えた。
イザックはいつの間にか二十三歳になっていた。
海の資源や広い土地から実る作物、ガノングルフ領はあっという間に栄えていく。
領民とのやりとりはすべて手紙か書類を介して行われていた。
自身は海辺の空き家を買い取り静かに暮らしていた。
海が見えるこの場所に人は滅多に訪れない。
ここでは人目を気にせずに過ごすことができる。
(これでいい……自分の役割を果たせればそれで)
王都に行ったのは丁度その年に行われた兄の戴冠式だったろうか。
三十三歳でベルファイン王国の国王となった兄には二人の息子がいる。
行儀よく座り成長した王子たちを見て、この国の未来も安泰だと思った。
イザックを見る視線は相変わらず興味や畏怖があったため居心地の悪さを感じていた。
それから兄は家族を持つ幸せを味わってほしいと何度か縁談を提案されたが、会う前に相手が拒絶する。
社交界に広がり続けた噂を止めることはできはしない。
(こんな悍ましい力を子供に継がせたくない)
これがイザックの正直な気持ちだった。
しかし二十八歳になったイザックの元に久しぶりに兄から手紙が届いた。
今回、アデル・ネファーシャルとの縁談だった。
歳は十八でイザックとは十歳差だ。
とても珍しい結界魔法を使うらしくイザックと相性がいいのではないかとの提案だった。
しかし王都付近で暮らしていた普通の令嬢が辺境の地で過ごせるわけもない。
それから嫁いでくるアデルのために新しく使用人たちを送ると書いてあった。
この屋敷で共に暮らしているのはイザックが幼い頃からずっと世話になっているシシーとマイケルだけ。
嫌な予感はしたが彼らは高齢なため、辺境の地ではなく息子や孫のいる王都に返してやりたいと思っていた。
(兄上は国の未来のことを考えているのだろうが……)
イザックもそれはわかっていた。
しかし心に負った傷が疼く。
また傷つけてしまうかもしれない。
怯えられて怖がられるくらいなら誰もそばにいない方がいいとそう思ってしまう。
だからこそ兄は自身の身を守れる魔法の力を持つ令嬢との結婚を命じたのだろう。
本来ならば自分の息子との方が歳が近いはずなのに。
しかし王都からやってきた侍女や侍従もこの屋敷とイザックを見て逃げ帰る始末。
二週間前にはシシーとマイケルを王都に返していた。
新たな使用人たちがくるからもう大丈夫だから、と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます