第16話
こんな時、火の魔法を使えたら便利なのにと思いながらマグリットはマッチを手に蝋燭に火を灯していく。
ぼんやりと部屋に浮かぶ暖かい光を見ていると暗闇からイザックが現れて思わず悲鳴をあげてしまう。
イザックと気づいてホッと胸を撫で下ろすが、彼はショックを受けているようだ。
マグリットが必死に謝っているとイザックは「そんなに怖いだろうか?」と落ち込んでいる。
猫背気味ではあるが背は高く、顔が前髪で見えないのが原因ではないかと言ったのだが、初対面で言い過ぎかと反省したマグリットが「不快に思ったのなら申し訳ありません!」と頭を下げると、イザックは「確かに、髪や髭が邪魔だなと思っていた」と納得するように頷いた。
マグリットがホッと胸を撫で下ろして、今日買ったものを地下の食糧庫から取り出していく。
興味深そうにこちらを見ているイザックにマグリットはある頼み事をする。
「イザックさん、今から夕食を作るのですが今日買った野菜の皮剥きを頼めますか?」
「……俺に?」
「もし嫌だったら大丈夫です。すみません、今日来たばかりのくせに偉そうに頼み事ばかりしてしまって」
マグリットが反省しているのを見てイザックは首を横に振る。
「違う……俺が触れてもいいのかと聞きたかった」
「はい、もちろんですけど」
「…………そうか」
イザックの表情はなんだかわかりずらかったが悲しそうだったような気がした。
しかしマグリットは遠慮なく野菜の皮剥きを任せることにした。
何故ならばお腹が空いていたから早く夕食が食べたかった。
一度、見本を見せるとイザックは器用にナイフで皮を削ぎ落としていく。
「マグリット、見てくれ!俺にも皮剥きができた……!」
「とても上手ですね、イザックさん」
イザックはマグリットの言葉を聞いて嬉しそうにしている。
子供のような一面を見せてくれたり、無表情ではあるが不思議な反応をするイザックと料理する時間を楽しんでいた。
無口なイザックではあるが、マグリットの指示通りに動いてくれる。
調理器具も一通り揃ってはいたが、ネファーシャル子爵邸から持ち込んだお気に入りの調理器具を取り出した。
火を起こして手際よく料理していくのをイザックは興味深そうに見つめている。
大鍋で野菜を煮込んでトマトソースや塩で味付けをしていく。
買ってきたパンに野菜、チーズにハムを挟んで卵と手作りのソースでサンドイッチを作るがマグリットの頭には日本食の映像が頭に浮かぶ。
(おにぎり、お味噌汁……お刺身に煮物に酢の物も食べたいわ)
二人分の料理を作って皿に並べていく。
(思ったより早くできたわ!当然よね、ネファーシャル子爵たちに作る様に手間をかけなくてもいいし、他の使用人たちの料理も作る必要はないんだもの!)
スープは明日、味を変えて小麦で作った麺をあえても美味しいだろう。
レシピを想像すると心が躍る。
イザックと椅子に腰掛けてマグリットは手を合わせた。
「いただきますっ!」
「いただき、ます」
真似するようにイザックも手を合わせる。
ナイフやフォークも使わずにサンドイッチに齧り付いて、スプーンで煮込んだ野菜をすくう。
新鮮な食材を使い、自分の作った出来立ての食事をとれる幸せを噛み締めていた。
ネファーシャル子爵たちに気遣うこともない。
偏食し放題のアデルのための別メニューも必要ないし、文句を言われることがない。
解放感でいつもよりも食事が美味しく感じる。
ネファーシャル子爵家からやっと解放されたこともあり、マグリットの体は軽い。
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