秘密
UD
第1話 秘密
葬儀屋『デンラータ』は物静かな造りになっている。死者はここに運ばれ、家族や友人に見送られこの先にある墓地に埋葬される。
デンラータの主、シェタマヌは代々続く葬儀屋とこの屋敷を守ってきた。
先ほど町の会合が終わり戻ってくると、デンラータの入口に黒いスーツを着た二人の男が立っていた。
「どうされました?」
シェタマヌが男たちに声をかけると二人の男はシェタマヌに思いがけない言葉を放つ。
「シェタマヌさん。あなたに大切なお話があります。残念ですがあなたには死んでいただかなければなりません」
「は? なにを言い出すかと思えば」
「シェタマヌさん。ここでは憚られます、中へ入っても?」
有無をも言わせぬ力の入った言葉で言う。
屋敷に入るとシェタマヌは怒りに震えながら二人の男に声をかける。
「いったいなんなんだ! お前たちは何者なんだ!」
「黙れ。今から説明する」
大柄な男が前に出てシェタマヌを牽制するともう一人の紳士的な男が大柄な男の動きを止める。
「失礼しました、シェタマヌさん。我々の事はAとPとでもお呼びください。ああ、そうだ、あなたへの用件ですが、我々の組織からあなたへの殺人指令が出ておりまして」
「なんのドッキリだ? ふざけるのもいい加減にしてくれ。殺すと言うなら今殺せばいいだろう」
「まあそう思われるでしょうね。我々の組織は非常に大規模な組織で、大企業、銀行、行政機関などの裏の組織でしてね。そのような無粋な真似は致しかねるのですよ。シェタマヌさん、今から24時間後、明日の正午にあなたの命を頂きに上がります。それまでに身辺整理を済ませておいてください」
「ふんっ! なんの冗談か知らんがいい加減にしてくれ。帰れ!」
「冗談でこんな事をやると思っているのか?」
「まあまあ、P。シェタマヌさんも突然の事で現実を受け入れるのに少し時間がかかるのでしょう。ああ、そう言えば息子さんはバクトンに、娘さんはイハインにいらっしゃるのでしたね」
「な、なぜそれを!? 妻は? 妻は無事なのか?!」
「シェタマヌさん、それはあなた次第です。この件を警察や他の者に漏らせば組織はあなたのご家族にも危害を与えるでしょう。お気をつけください、組織は常にあなたを監視しています」
「た、頼む。家族には、家族には手を出さないでくれ!」
「では、24時間後を楽しみにしております。我々も資料でしかあなたのご家族を知らないのです。このまま無事にあなただけを抹殺したいのですよ」
「私が、私が何をしたというのだ?! 私は正しく生きているじゃないか、いったい誰が?」
「我々は組織から依頼を受けただけだ」
「そう、Pの言う通り。誰が、など知りようがないのですよ。それでは24時間後、あなたを処刑しに参ります。あなたが無事、秘密をお守りになり、他の誰も犠牲を出さないよう祈っております」
(完)
秘密 UD @UdAsato
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