第4話 森の動物大量虐殺事件

 ズルズルと、一体の魔物を引きずりながら、キュアは森の中にある我が家を目指す。


 今日の獲物は大きなトカゲ型の魔物、その名もバジリスク。

 肉は固くて食べられないが、その体内にある毒袋は街で売る事が出来る。

 後で解体の得意なミズに頼んで、取り出してもらおう。


「あ、ミズ! アースとダークも!」


 家の前にいるのは、自分と同じく本日の狩り当番であるミズとアース、そしてダーク。


 彼らもまた、街で売れそうな獲物を狩って来たところなのだろう。

 彼らは何を狩って来たのだろうか。


「じゃあ、これらはお前らがやったわけじゃねぇんだな?」

「ボク達じゃないよ。そのまま森に投げておくわけにもいかないから、こうして拾って来たんだ」

「最近、問題になっているヤツじゃないかな?」

「はあ、困ったなあ……」

「?」


 狩って来たのだろう獲物を囲って、三人は困ったように頭を抱えている。

 一体どうしたのだろうか。


「ただいまー。三人共どうしたの?」

「あ、お帰り、キュア!」

「げぇっ、お前、バジリスク狩って来たのかよ!」

「いつも思うけど、よく素手で捕まえられるよね、それ」


 話の途中に現われたキュアに、三人は三者三様の反応を見せるが、キュアは彼らには構わず、その獲物に視線を落とす。


 ミズ達が囲っていた彼らの獲物。


 それを視界に捉えた途端、キュアは信じられないと言わんばかりに眉を顰めた。


「えっ、クマの親子じゃない。ちょっと、これ、ダークがやったの?」

「何でオレなんだよ。さすがのオレでもルールは守るよ」


 真っ先に疑われ、ダークは心外だと言わんばかりにそれを否定する。


 ミズ達三人が囲っていた、本日の獲物。それは親グマ一匹と、子グマ二匹のクマの親子であった。


 一見すると、何の問題もなさそうなその獲物達。では、それらの何が問題なのか。


 それは、森の生態系と、とある事件にあった。


 キュア達エルフは、森にいる動物や魔物を狩ったり、薬草や木の実を採取したりして、それを街で売る事を生業としている。

 しかし、それはあくまでも森の生態系を壊さない程度で、だ。

 過剰に狩猟したり、採取したりすれば、森の生態系はあっと言う間に崩れ、絶滅種が増えたり、自分達の生活にも影響が出て来たりしてしまう。

 だから森の生態系に詳しいミズによって、どの種をどのくらいまでなら取って良いのかが、予め決められているのだ。

 つまり、ミズが指定した以上の数は、取って来てはいけない事になっている。


 しかし最近、事件が起きた。

 それが、何者かによる動物の虐殺である。


 この森には、比較的浅い場所に生息している『動物』に分類される獣と、比較的深い場所に生息している『魔物』に分類される獣が棲息しているのだが、最近、浅い場所に生息している動物達が、何者かによって手当たり次第に殺されているのだ。


 そのため、森の生態系を乱さないと言う理由で動物の狩猟は禁止。

 しばらくの間、キュア達は森の奥にいる魔物しか狩って来てはいけない事になっている。


「オレとアースが森の奥に行こうとしたら、血を流して倒れているクマの親子を見付けたんだ。もちろん絶命していたけど、そのままにしておくわけにもいかないだろ? 食料にも売り物にもなるだろうから、こうして拾って来たんだよ」

「でも勿体ないよねぇ、せっかく狩ったのに。どうして捨てちゃうんだろう?」


 狩猟禁止令の出ているクマがいる理由をダークが話せば、アースが不思議そうに首を傾げる。


 確かに動物を狩る意味は分かる。それは食料にも売り物にもなるからだ。

 だから例え禁止令が出ていても動物を狩りたくなる気持ちは分からなくもない。


 しかし分からないのは、せっかく狩ったその獲物を、そのまま放置して行く事だった。

 食べるわけでも売るわけでもなく、持って帰ってコレクションにするわけでもない。

 殺される理由が見当たらない動物達。

 何故、それらを手当たり次第に殺し、その場に残して帰るのか。

 これでは悪戯に命を弄んでいるだけではないか。


「同業者の仕業かな?」

「いや、この森をテリトリーにしているのはオレ達八人のエルフだけだ。同業者がやったとは思えない」

「狩猟を趣味としている人間もいるって聞くけど……?」

「違うな。もしそうだとしたら、彼らは狩った獲物を持って帰るハズだ。その場に捨てて帰るわけがない」

「じゃあ、殺戮が趣味のキチガイ野郎?」

「どうだろうな? 殺されているのは、クマやイノシシ、オオカミと言った獰猛なヤツばかりだ。もし殺戮が趣味のキチガイ野郎が犯人なら、ウサギやリスと言った、反撃して来なさそうなヤツを狙うだろ」

「じゃあ、犯人は一体誰なんだろう?」

「それが分かんねぇから困ってんだよ……」


 そのどれもが犯人ではないと首を横に振ると、ミズは困ったように頭を抱えてしまう。


 確かに早く犯人、もしくは原因を見付けなければ、動物の狩猟が解禁されない。

 動物の狩猟が解禁されないと、お肉がお腹いっぱい食べられない。魚ばっかりの生活なんて嫌だ。


「バジリスクのお肉は固いから食べられないしなあ……」

「あ、でもキュア。鷹型の魔物、ガルーダなら食べられそうだよ」

「私、飛行型の魔物は苦手なのよねぇ」

「じゃあ、ライに頼んで、弓矢で撃ち落としてもらおうよ」

「心配しなくても大丈夫じゃないかな? だって今はスーパーって言う便利なお店があるんだから。街に行けばお肉も食べられるよ」

「ダメよ、ダーク。今は物価が高騰しているんだから。みんなでお腹いっぱいお肉食べたら高くなっちゃうわ」

「ああ、そっか。ごめん、ごめん、そこまで考えていなかったよ」

「大丈夫だよ、二人共! だってほら、今日の夕ご飯は知らない犯人のおかげでクマ鍋だよ!」

「あ、本当だ」

「お前ら食う事ばっかりだな」


 少しは森の生態系を心配しろよ、とミズは三人に白い目を向けた。

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