第20話 エピローグ
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「リィ」
「なんだ?皇帝。暇なのか?」
接客中だった私は、邪魔をしに来たレオンをギロリと睨む。
「先生。皇帝陛下にもそのような態度を取られいると、殺されても文句は言えませんよ」
私の客はレオンへの態度を改めるように苦言を呈する。いや、脅しをかけてきた。
「レオンは私の一番弟子だから問題ない。それよりも今後の『サルバシオン』の事だが……」
「リィ。俺に客人を紹介してくれないのか?」
レオンはそう言って、私が座っている長椅子に強引に腰掛けてきた。
「おい。私を横にずらしてまで座ることか? 一人掛け用の椅子があるから、そこに座れ」
私が睨みつけて文句を言っても、どこ吹く風と言わんばかりに、レオンは居座っている。
「一人はさみしいじゃないか」
いや、寂しいも何も、ここは王城のサロンの一つだ。この一室の中にどれほど座る場所があると思っている。一緒に座る意味もないし、この場に居て寂しいとは如何なものか。
「ふふふっ。先生に言い寄る男性は何人もいましたが、全然相手にしておられないと思えば、やはりそういうことだったのですね」
「そういうこととは、どういう意味だ。イリア」
金髪が似合う二番目の弟子は、おかしいと笑っているが、何がそんなにおかしいのか、私には理解できない。
「おい、リィに言い寄る男とは、どこのどいつだ?」
隣から殺気立って二番弟子に聞いているが、そもそも私に言い寄る男などいなかったが?
「私どもからすれば、患者ですので、どこの誰とは存じませんが……」
「が?」
「先生にその辺の野花を摘んでくるのはよくありましたね。貴族の方らしき人は、指輪などの装飾品ですね」
ん? 野花は飾り気がない救護施設に飾るように言われたのだと思ったのだが、私に好意を向けられてはいないだろう。あと、装飾品は手元にあるのがこれしか無いからと、言っていたので、あれは治療費の代わりのはずだが? 装飾品は全部現金化して『サルバシオン』の運営費に回したな。
「それから熱烈な方ですと、我々の活動の支援をしてくださいました……匿名でしたけど。毎月かなりの金額を寄付していただけました」
あ……それは……私はちらりと、隣を仰ぎ見る。
「お陰様で、我々『サルバシオン』は多くの者の生命を繋ぎ止めることができました。直接お礼を言うことができないことは、残念で仕方がありません。帝都でも治療院を用意してくださり、我々が路頭に迷う事なく、活動を続けられることに、我々一同、とても感謝しております」
「は? 治療院? この帝都で? 私は聞いていないけど?」
私は隣でニヤニヤ笑っているレオンに詰め寄るが、何故か腰に手を回され、レオンの膝の上に座らされてしまった。
「なぜだか、俺が救護施設に近づこうとすれば、姿を消してしまうヤツがいたからな。顔を見るついでに、困った事があれば、援助しようかと言いに行っただけにも関わらず、毎回『先程まで患者の治療にあたっていた』と言われるのだ。不思議だな」
……これはレオンの近づく気配を感じて、別の戦場に移動したことに対して、文句を言われている?
しかし、治療院というか聖女の彼女たちの居場所というべき救護施設を帝都内に作ろうとは思っていた。
貧しい者には低価格で貴族からは高額をぶんどる金額設定にするつもりだった。私が常駐できないとなると、女性ばかりの救護施設は防犯が心配なので、戦争で負傷したものの、警備ぐらいできるという厳ついおっさんを数人雇おうかとも画策していた。
なのに既に治療院なるものが存在しているだって!
「先生はご自分への好意には否定的ですので」
「そうだよな。俺があれだけ、好意を伝えても、
「先生を褒めても、素直に受け取ってくれず、おかしな解釈にされますし、スッと別の仕事に姿を消してしまいますし……」
「こうやって毎日普通に会えるまで10年掛かるってどうなんだ? 逃げすぎだろう」
何故か一番弟子と二番弟子から責められている。
レオン。レオンから好意には、もちろん気づいてはいたが、あのまま私が城に留まり続けると、確実に身分がない私は足を引っ張っただろう。どの未来を選ぶにしろ、じぃの直系の力は帝国には必要だったからね。私はレオンの弱点でしかなかった。好きならなおさら、側にはいられない。
それから二番弟子よ。私が褒め慣れていないというよりも、生きるのに必死だったからだ。私ひとりで戦場を彷徨くのであれば、何も気を使うことはないが、流石百人規模となると色々考えることもある。
「まぁ、先生は色々言い訳をすると思いますが、『サルバシオン』の皆は先生にとても感謝しておりますし、大好きなのですよ。ですから、時々弟子たちに会いに治療院へ足を運んでくださいね」
そう言って二番弟子は立ち上がり、私とレオンに向けて頭を下げた。
「そして、皇帝陛下。先生をお願いします。はっきり言って、両親を殺した陛下のことは憎いです。しかし、先生はその憎しみを陛下に向けないように、色々動いていることを我々は知っております。元ミルガレッド国の最後の王女イリアメーベルが願います。先生をどうか幸せにしてください」
「お前に言われなくとも、リリィは俺が幸せにする」
その言葉を聞いた二番弟子は頭を上げた。その表情はレオンを憎いといいながらも聖女らしい慈愛の笑みを浮かべている。
イリアを助けたのは成り行きだった。罪のない幼い少女まで処刑されるのは避けたかったし、王族最後の生き残りがいると、噂に流せば国民からの反感は少しは抑えられるだろうと思ったからだ。
「ええ、切実に願います。先生を陛下から離すと戦争の火種になるでしょうからね」
「イリア。君から見た私はどんな酷い悪党に映っているんだ?」
「そうやって湾曲して考えて、陛下の好意を受け取らない先生が火種なのですよ」
二番弟子は私が悪いと言い放って、金髪を翻しながらサロンを出ていった。
二番弟子イリアよ。レオンから離れるも何も、殆ど一緒にいる私に離れるという選択肢はないと思っている。現に知り合いが訪ねてきたから行ってくると、執務室を出ていった数分後がこの状態だ。私に自由はないに等しい。
「恨まれるのは当然のことだ。特にミルガレッドは王族を生かすつもりはなかった」
みなごろし宣言! まぁ、レオンの言い分も理解できる。一番に帝国に反旗を翻したのがミルガレッド国だった。戦火は王都にまで迫り、ミルガレッド国は国王の首を差し出して、降伏宣言をした。
ここまでは普通だ。戦争を引き起こした責任を国王に背負わせ、国の存続を願った。
その講和条約を結ぶという日、帝国に赴いた王太子と第二王子がレオンに向けて決死の攻撃を仕掛けたのだ。そう神器を使用した。
しかし、その攻撃は無効化した。神器が何かわからず焦った私が手を出してしまった。そして、、ミルガレッド国の王子二人はレオンによりその場で始末された。
レオンはミルガレッド国の王都に攻め入り制圧した。講和条約を結ぼうとして油断を誘い、暗殺まがいの事をしようとしたミルガレッドの暴挙は無視できるものではなく、王族の血を絶やすという決着をつけたのだ。
で、私は血を残す危険性も感じたけれど、ミルガレッド国民の感情の行き所に懸念した。
だから当時王太子の第三王女であった十四歳のイリアメーベルの救出に向かったのだ。
「しかし、そのお陰でリィに会えたというのもある」
私はそこで失敗してしまった。第三王女を攫っていたと怪盗風にメッセージを残そうと、仕込みに行ったさきでレオンに捕まってしまった。あれは本当に反省点だった。
「『イリアちゃんをもらっていくから』の手紙を渡されて、あの後大変だったんだからな。カルアが」
一応、王族は全員処刑したという事実が必要だったらしく、どこからかイリアの身代わりの死体が用意されていた。カルアくんが頑張ってくれたのだろう。
「いいじゃない? 水面下で帝国に入り込もうとしてた人達もいたようだし、王女さまが生きていて良かったでしょ?」
別に私はただ単に戦場を巡っていた訳では無い。そこから生み出される悪意を払うためでもあった。
私が訪れた各国の戦地や首都に広範囲の傍受の魔法陣を仕込んでおき、帝国や皇帝のキーワードを優先して傍受し受信して記録していった。
もし私が軍師であれば、勝ち戦同然の情報収集能力だ。まぁ、私はよっぽどのことが無い限り、直接は動かなかったけどね。
「それも聖女として帝国も、それ以外の国の兵も、平等に治療する素晴らしい聖女さまだ。その聖女さまが争い事は駄目だという。親が居ない子共が増えていく現状を嘆くわけだ」
イリアに自分の足で歩いてもらうことにこだわっていたのは、ここに理由がある。自分の待遇に悲観していたら、このような言葉は心からは出てこない。
そして、その内彼女が亡国の王女だと気づく者が出てくるだろうという魂胆だったが、イリアは私の予想を超えて、治療師として不動の地位を得た。
この四年ほどは、雪がふる時期は慈善活動をして資金調達をするときにイリアを全面に出して、戦争は駄目だと訴える。すると、あれは亡国の姫君なのではという噂が流れるわけだ。
となれば、イリアの姿を確認するために元ミルガレッド国の過激派が接触してくる。そこで私が登場だ。戦場の悪魔と呼ばれるカルアにそっくりな私がイリアを抱え込んでいると知れば、大方二通りの反応に別れる。
一つは完璧に心が折れるパターンだ。何もかも帝国の手のひらの上だったと理解する。
もう一つが私に敵意を持つパターンだ。残念ながら私にいくら敵意を持とうが、カルアが斬れなかった結界を安々と壊されるはずもなく。王女さまより幼い私に勝てないあなた達って何? っと言って心を折ってあげるのだ。
最後の仕上げとしてイリアに争うことよりも、新たな主君の元で国民を守って欲しいと願ってもらう。完璧な聖女さまだ。
因みに後から私がイリアにキラキラエフェクトを振りまいて、癒やしの効果倍増にしておくのも忘れてはいない。
「私のおかげで事前に防げた案件は、それなりにあると思うけど?」
「そうだな。これだけリィに愛されているのは俺ぐらいだな」
なんか、違う言葉が返ってきた。普通は私のお陰で助かったというべきじゃ無いのかな?
「しかし、浮気をしていたとは、聞き捨てならない」
「いや、今の話のどこに浮気要素があったわけ?」
人の話を聞いていたのだろうか? 私はイリアのことについて話ていたはずだ。
「そうだよね! カルア君!」
レオンと一緒にサロンに入って来ていたカルアに確認を取る。カルアは皇帝だからと言ってレオンの言葉に“是”と言う人物ではない。
「そうですね。色々貢物を貰った貴女の話でしたね」
「どこが!」
金髪金目の黒い軍服を着たカルアが、真顔で答える。
まさかカルアに裏切られるとは!
「さて、誰からどんな物をもらったか、教えてもらおうか」
だから何の話だ。貢物なんてもらったことなど無い。
視線だけで射殺すような、隻眼の赤い目を向けて来ないで欲しい。
これはアレか? さっきイリアが言っていた治療費の件か?
「レオン。治療費の装飾品のことなら、サルバシオンの運営費に記入している。誰からというのはわからないが、どのような品がどれぐらいで売れたかを記入している」
「……」
「……それはそれで、いたたまれません」
二人して、先程の私を批難する視線から、可哀想な者を見る視線へと変化した。
利益はきちんと計上しておかないといけないだろう。ほとんど寄付で賄っていたサルバシオンの運営の貴重な収入源だ。
「あ! 勿論、レオンからの寄付金も記載している。イリアも言っていたが、毎月の多額の寄付金は本当に助かった。ありがとう。レオン」
私はニコリと笑みを浮かべて、レオンにお礼を言う。匿名で誰からかわからない寄付金だったが、戦時下で多くのお金を出してくれるところなど限られてくる。
まぁ、実際は皇城に仕掛けていた、情報収集の魔法陣がレオンとカルアの話を拾ったお陰で、わかったのだけどね。
「リィが可愛いからすべてが、許せそうだ」
「陛下。それは鈍愚の始まりですから、やめてください」
「カルア。リィが俺がプレゼントしたお金を記録しているっているんだぞ。とても、可愛らしいじゃないか」
「陛下。プレゼントの記録ではなく、運営費の計上です。そろそろ休憩を終えて執務室に戻っていただきたいですね」
「そうだな」
レオンはそう言って立ち上がった。ということは、私を抱えたまま立ち上がったのだ。
「レオン。私は自分で歩くから下ろして欲しい」
「イヤだ」
嫌だとは何だ! 子供の駄々のように言うな。
「この前も何処の馬の骨ともわからない女と喧嘩していたよな」
「ああ、レオンの婚約者という人」
「何度も言うがそんなもの居ないからな。それに皇妃はリィだということを忘れるな」
はぁ、知っているしわかっている。レオンの自称婚約者もポッと出の私が気に入らないだけだ。
「聞いているのか?」
「聞いている。聞いている」
しかし、昔は有象無象が存在する皇城だったが、今では綺麗なものだ。そう、私が出入りしていた秘密の通路まで封鎖されて使えなくされていて、皇城の出入りが難しい状態になっている。これはかなり酷い。
まぁ、いいか。レオンがレオンとして生きることができているのであれば。
「レオンには私がいないと駄目だってことだね」
「そのとおりだ」
そう言ってレオンは抱えた私に口づけをしてきたのだった。……レオン、執務室を通り過ぎているが、どこに向うつもりだ?
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ここまで読んでいただきましてありがとうございます。
突っ走った感じになってしまいましたが、いかがでしたでしょうか?
一応カコヨムコン9に参加しているので、☆評価していただけるとありがたいと思っておりますが、まぁ年々厳しくなっているので、気に入っていただけたらで……。
ご意見ご感想等がありましたら、コメント欄からお願いいたします。
最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました。
虐殺皇帝と悪魔と呼ばれた私 白雲八鈴 @hakumo-hatirin
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