初めての面接
学生作家志望
失礼します
僕は、喋るのが苦手だ。所謂(いわゆる)コミュ障のようなものだ。
誰との会話も少し控えめに。
それが僕の普通────
そうやって誤魔化してたけど、何だかんだ、クラスで目立ってる喋りがうまいあの子に憧れていたのも事実だ。
だから、怖かった。初めて面接の話が出たあの日、先生は僕に面接で不安な点を聞いた
僕は何となく喋りが苦手とは言わずに、礼とか座り方とかが不安だと言った。
最初のうちは僕の予想してた通りだった───ドアを開けて「失礼します」そんな今まで何回使ったかもこれから何回使うかもわからない言葉が全く声に出なかった、出そうと思っても喉の奥で何かに引っかかる
色んな先生と僕は練習を繰り返した
冬休みにも何回も学校に行って練習した
下駄箱には汚れないように「面接チェックシート」が置いてある
冬休み、面接練習初日も二日目も、声とか姿勢がダメで特に声の部分は1番下の三角の評価がついていた
「ダメだ、こんなんじゃ」
追っている理想が何かなんてわからないけどネットでとにかく面接対策動画とかあるある動画とかを見たり、家で自分で練習したり、そうやって自分を安心させられるような行動を何回もした
僕は納豆を百回混ぜても満足しない、手が限界になるまで混ぜる。きっと、目の前に納豆が無いだけでそれと同じなんだろう。僕はきっと何度やったって満足しない────満足も安心も合格を知ってから味わえるものなのだろう
今日も特に意味もない考え事をしてこの雪の降っている寒い道を乗り切り学校に着いた
三角をつけられた日から1週間くらいの空き期間があった。僕にとっては大事なリベンジの日────
「それではやってみようか」
先生がそう言うと、僕は教室の外に出て、
「失礼します」と言った。
未だにこの言葉には重みがある、だけどそんなことは言ってられない
そこからは先生に言われた質問を、今まで先生と練習してきたことを考えながら答えていった。
練習が終わって先生からその日の「面接チェックシート」を返された
評価を見ると、そこには合格の二重丸でほとんどだった
「〇〇くんはねもうほとんど完璧ですよ!強いて言うなら声をあとちょっと出せばいいだけ!」
「そうですか。ありがとうございます。」
座りながら小さい礼をした
その日からというもの、どんな先生とやっても必ず、こう言われるようになった────
「〇〇くん、喋りが上手だね!」
人にこんなこと言われたことなんてなかった。自分の喋りがうまい?
その時少し憧れだったあの子に近づけた気がした
別の先生とやっても
「〇〇さんは、自信持っていいと思う。完璧だよ」
別の先生としても
「全てできてるね!」
もはや褒められないことなんてなかった。
むしろ、それ以外のダメなところを指摘されるのを待っていた。
褒められても褒められてもやっぱり自信はつかない
僕はどうしたらいいのだろう。
でも、やっぱり今日も言ってしまった
後先も考えずに言ってしまった
「余裕余裕!みんな受かるよ!」
そんなこと言ってる僕が一番不安に思っていたのは僕が一番わかってる
なのに、周りにいる友達に心配されないように振る舞った。
もし、不合格だったらどうしよう。そうしたらもう友達も先生にも、親にも見せる顔がない
ここで合格しなければ、しなければ...
僕の心を締め付ける、空想上の世界────
成功する世界はそう簡単には思いつかなかった
でも、言うしかない、もう一回だけ、三角のつけられた
あの、「失礼します」が二重丸に変わるように─────
初めての面接 学生作家志望 @kokoa555
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