昔話 雪国の猟師

もっちゃん(元貴)

危機一髪


昔々ある雪深い山奥の村に、猟師の上田髪之烝うえだかみのじょうがいた。


仲間の奥山一介おくやまいちすけと一緒に、獲物の鹿を仕留めに山に入って行こうとしていた。


「今日こそは、食糧をとらないと村のみなが生きられないぞ!」


一介が一段と張り切っている。


おそらく、病弱な母親に栄養をつけるためだろう。さらに、本格的な冬になり熊が冬眠して、狩ることもできずにいて、村の食糧も少なくなり始めていた。


「あぁ、そうだな」


それにしても、今日はここ一週間で、1番の風の強さだ。


「吹雪く前に、早く獲物をとって帰ろうや」



「えっ!何か?なんて言った?」


ずっと歩くのに、足元を見ていたせいか、一介がいつのまにか、声が聞こえないくらい前にいた。


「歩くのが早いよ!そんなに焦って行動すると危ないぞ!」


なんとか、雪をかき分けながら、一之介に追いつくことができた。


「そんなことわかっているさ!」


どうやら今日は、いつもよりイラついている日のようだ。


あまり刺激しないようにしよう。


「俺は、あっちの方を探す、お前は、そっちの方を探してくれ」


「了解」


二手に分かれて、獲物を探すことにした。


しばらく、探していると目の前の木陰から



『ガサッ』



鹿が目の前に、飛び出してきた。


銃を構えるが、鹿が飛び回るので、銃口が定まらない。



「おーーい!いたぞ!!!」



向こう側の斜面にいた一介に、呼びかける。



「よし、きた!」


引きひきがねに、力がこもる。狙いを定めて銃口を鹿に合わせる。


『バン!!!』



「うあぁぁぁぁー!!!」



「くそっ!取り逃したか!」



悔しがる一介。



当たったと思ったが、どうやら鹿に弾が当たらず、下の川の方へと逃げていった。



そう言えば、さっき髪之烝の悲鳴が聴こえたような。


自分のいた反対側の斜面にいる髪之烝の方に歩いて行く。


「なんか悲鳴が聴こえたけど、大丈夫か?」



ようやく、反対側の斜面についたら、髪之烝が、雪の上で、ひっくり返っていた。


「大丈夫じゃねぇよ!おめえの撃った玉が俺のかぶっていた笠をかすめていったんだぞ!」




「それは、すまなんだ 申し訳ない」


一介は、危うく大事な仲間を殺めてしまうところだった。



「すまないじゃないんだよ!俺の大事な髪の毛がその衝撃で何本も抜けたんだよ!!!」



「えっ!そっち!?命じゃなくて!!」



「命も大事だけども、最近、歳をとってからやけに抜け毛が多くて気にしてるから、髪も大事なんだよ!!」


「ごめん」


それしか言えない一介だった。



【これが、危機一髪の由来の物語である!】




その後、2人は、無事に獲物である鹿を仕留めて村に帰っていきましたとさ。



めでたし、めでたし。










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