真実の愛の為に冤罪で婚約破棄をされる公爵令嬢

茶坊ピエロ

第1話 

「私、将来は絶対シュナイダーのお嫁さんになる!」


「僕も同じ気持ちだよ」

 

 それは幼い頃の記憶。

 昔はこうやって互いを好いていたわね。

 いつからでしょうか?

 殿下との間に軋轢が生まれてしまったのは・・・

 国立ワガミケ学院高等部に通い3年、公務で顔を合わせる以外で会話という会話もしないまま、卒業パーティを迎えてしまったわ。


 私の名前はルルシア。

 ゲカイガ帝国のランダール公爵家の次女として生まれました。

 私には生まれる前から婚約者が居ます。

 それがこの国の第一皇子、シュナイダー殿下。

 彼は剣術に於いては類を見ない程の天才と謳われている。

 しかし今のご時世、魔術が普及した事により戦闘方法が剣術は一般的ではなくなった。

 剣術で人を一人殺す速度よりも、魔術で人を何十人も殺す方が効率がよく、また魔術を剣術で対抗しようとすれば怪我は免れず、最悪なす術もなく殺されてしまう為、剣術が出来る事が強みではなくなってしまった。


「今日は冷えるわね」


 私は魔法学院の中等部時代に留学という名目の人質としてゴットサウス王国の魔術学院に通っていた為、ほとんど友達が居ない。

 なので今日のパーティでも壁の花となってしまったわ。

 ゲカイガ帝国は剣術が主流の時代では繁栄を築いていたけれど、魔術後進国である為に大国でありながら現在の国家戦力は小国にも劣る。

 それ故に皇妃の仕事は他国との人脈が主となる為、友達は他国で作るほか無かった。

 それにこの国では魔術の使える女性は魔女として蔑まれ、他国で魔術を学んでもこの国で使う機会なんてなかったし、これからも恐らくない。

 魔術学院に通った魔女って家でも言われてるしね。


「ルル、ここに居たのね」


「陛下」


 そんな私にとってのこの国の良心はこの人だ。

 リリノアール皇妃陛下。

 10年前、ゴッドサウス王国とゲカイガ帝国は戦争をした。

 魔術による猛攻に気圧される中、先帝は命を落とした。

 もう一方的に殲滅されると思った矢先に、陛下は独学で覚えられた魔法を使い被害を最小限に抑えて敗北した。

 戦争で先帝様が亡くなられた後、皇帝としての公務をこなしながら、生き残った三人の息子達を女手一つで育てあげた人。

 シュナイダー様と関わる機会が減ってしまった今、彼女の存在が私にとってこの国で数少ない味方なのだ。


「シュナイダーとは、その、どうなのかしら?」


「申し訳ございません、私の不甲斐なさで本日も別のお方とパーティに出席しております」


「全く、あの子も自分の立場をもう少し考えて欲しいわね・・・」


 陛下がこういうのも当然ね。

 皇子の中で一番年上であるシュナイダー殿下は卒業だと言うにも関わらず、まだ皇太子は決まっていない。

 歴代皇帝の方々はこの国立ワガミケ学園に在学中に皇太子として任命されている。


 現在は皇帝が亡くなられているため、皇太子を任命できるのは皇妃様であるのだが未だに任命をしてはいなかった。

 

「言ってはなんだけど、#あれ__・__#が側妃にでもなろうものなら、国が荒れるわよ」


「頭ピンク色ですしね」


 それは今まさにシュナイダー殿下の腕に、二つの大きな乳草を押し付ける女性ののこと。

 彼女の名前はゴールドマリー。

 ウラサンド侯爵家に住む令嬢である。

 

「ゴールドマリーさんだったかしら?彼女はダメね。婚約者がいる男性に這い寄るのは側室が必要な皇太子候補、と言うことで許しましょう。しかし素行が悪すぎよ」


「えぇ、まさか在学中の3年間でに帝国病院の産婦人科に20回も来院するとは思いませんでした」


 私は皇妃様の命で、高等部に進学後すぐに帝国病院の看護士として少々手伝いをしていた。

 医学も魔法を使える人間がほとんどいないこの国では後進国。

 植物事態に魔力が宿る性質上、魔法の知識がないというだけで薬草を扱えず、薬の発展には魔法知識は必須なのだから当然であり、魔法が使えるものがいなければこの国は医療から崩壊していく。

 そしてこの国で魔法が使えるのは現状、私と陛下と第二皇子と第三皇子のみである。

 去年までは第三皇子が手伝っていたのだが、彼もワガミケ学園に在学したことで今年留学から帰国してきて、卒業単位も取得済みの私が代わりに勤めていたのだ。

 まぁおかげで聞きたくもないゴールドマリーさんの情報が入ってきて嫌になったわ。


「月々のもので苦しいというならば仕方ありませんが、やはり彼女の通院理由は・・・」


「口にするのも悍ましいわ。来院理由は全て同じ理由でした。そして先月診断した医者から、彼女に側妃資格はなくなったと連絡があったわ」


 側妃の資格が無くなった。

 側妃の主な仕事は、皇帝の子種を次世代に紡ぐもの。

 その資格が無くなったと言うことは、つまりはそう言うことなのだろう。

 彼女は学園で#遊び__・__#すぎたのだ。


「全く、婚前交渉をするなとまでは言いませんが、それでもこのレベルだと酷いわよ」


「同感ですわ。まぁその点で行くとシュナイダー様は遊び相手以上の関係に発展することはなくなりましたから」


「だといいのだけれど・・・」


 正直シュナイダー殿下、いやシュナイダーはこの事実を知っても信じないと思う。

 だから私は今夜婚約を破棄、もしくは解消されるのでしょうね。


「まぁもしもの時は、ほかにも二人うちの子が居るわ。だから安心して頂戴ね」


「クロムウェル様は私より五つも下です。しかし一つ下のアハト様は・・・」


「そうね。だからそうなった場合はクロムウェルとの婚姻になりそうね」


 陛下の笑顔がまぶしいわ。

 これは本気で考えてる顔ね。

 陛下のこの様子は恐らくシュナイダーは見限られてるわね。


「あ、ごめんなさいね。話に夢中になりすぎたわ。今日は卒業パーティー。優良貴族の子息にも挨拶しないと。それじゃあまたね、ルル」


「はい、陛下も今日のパーティはお楽しみください。留学先からとっておきも仕入れていますので」


「ふふっ、それは楽しみだわ」


 陛下は群衆へと消えていく。

 シュナイダーとの婚約は白紙になる可能性が高い。

 陛下はあんなこと言ってくれたけど、私が下の皇子と婚約することは恐らくないだろう。

 それは国柄からも、そして私の家庭事情からも可能性は高い。

 そう思っていたから、私はこの時あまり深く考えなかった。

 そのことを数刻も経たないうちに後悔するとは知らずに。

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