泉の精霊と3つの願い

一ノ瀬るちあ🎨

危機一髪

 昔、小さな村に貧しい青年がいました。

 彼の名前は健司。

 いつも困難な生活をしていた彼は、あるとき、村の外れで小さな泉を見つけました。


 すると、なんということでしょう。

 泉が光り輝き、そこから、浮世離れした容姿を持つ美しい女性が現れたのです。


「私はこの泉の精霊。どんな願いでも、3つだけ叶えて差し上げましょう」


 健司は生唾を呑むと、1つ目の願いを口にしました。


「もっと裕福になりたい!」


 泉の精霊は穏やかにほほ笑むと、彼の足元には大量の金銀財宝が積み上がりました。

 これまで貧しい暮らしにうんざりしていた健司はもう大喜びです。


 高い飯を食い、村の見張り番を金で他の村人に代わってもらい、次第に横柄な態度を取るようになりました。


 しかし、彼はすぐに後悔し始めました。


「なんか最近、健司のやつ感じ悪いよな」

「わかる。お金持ちになったってだけで私たちを見下しているんだわ」

「あんな心の醜い奴とは思わなかった。もう絶交だ」


 村八分にされるようになった健司は大慌てです。

 彼は泉があった場所に戻ると、泉の精霊を呼びました。


「おーい! 泉の精霊さん! 願いは3つまで叶えてくれるんだろう? 二つ目の願いを言いに来たぞ!」


 すると泉が光り輝き、また、泉の精霊が現れました。

 ほっと胸をなでおろし、健司は次の願いを唱えました。


「村のみんなと仲良くなりたい!」


 泉の精霊は微笑みました。


 彼が少し不安になりながら村に帰ると、村人たちは彼を温かく迎え入れてくれました。


「どこに行ってたんだよ健司!」

「心配したんだぞ!」


 そんな様子に、健司はほっと胸をなでおろしました。

 よかった。これで安心だ、と。


 その日はみんなで宴会を開きました。

 健司と村のみんなが仲直りした記念です。


 ひさびさにうまい酒を呑んだ健司は、少し酩酊していました。

 尿を催し、一度席を外した彼がそろそろとみんなのもとへ向かうと、なにやら様子が変です。


「おい、もう十分酒を呑ませたんじゃないか?」

「そうだな。戻ってきたら、さくっと殺しちまうか。それであいつの財産は、みんなこの村のものだ」

「間抜けがいたものよね。騙されているとも知らず」


 健司は酔いもさめて、顔を真っ青にしました。


「しまった! 健司が逃げたぞ! 追え!」


 走る健司の後を、村のみんなが追いかけます。

 健司は必死に走りました。

 呼吸がつらくなって、足が悲鳴を上げて、頭の中は後悔でいっぱいです。


(どうして、どうしてこんなことに!)


 どうにか、泉まで逃げ切った健司は、そこに神秘的な光を見ました。

 すべてを知っていたかのように、優しい笑みを浮かべる精霊が、彼を待ち受けていたのです。


「泉の精霊さま! お願いです! 全部、なかったことにしてください!」


 泉の精霊はうなずきました。


 まばゆい光が、健司を包み込みました。


 次に健司が目を覚ました時、泉は枯れてしまっていたそうです。

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泉の精霊と3つの願い 一ノ瀬るちあ🎨 @Ichinoserti

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