消火器は必須なのです!

日々菜 夕

第1話

 私は、消火器を届けるというアルバイトをしていた事があります。


 田舎でも、それなりに需要があるらしく。


 電話を受けたおじさんの指示で。


 私は、地図を見ながら各家庭に消火器を届けておりました。


 そんなある日のことです。


 自転車に乗りながら田園風景を横目に初夏の陽気を感じていると――


 目的地の、田中さんのお家と思われる家が見えてきました。


 新築らしく、外観はとても綺麗だったのを今でも覚えております。


 ただ、いつもと違うのは、お出迎えされてしまったことです。


 普段なら、呼び鈴鳴らしてから消火器を渡してお金をもらうと言うのが私のお仕事の手順なのですが……


 この時ばかりは、鬼のような形相をしたおばさんに圧倒されてしまいました。


「ちょっとアナタ! それ消火器よね⁉」


「あ、はいっ!」


 私が、応えるとほぼ同じにおばさんは消火器を奪って家の中に駆け込んでいきました。


 ぼーぜんとする私。


 ちょっぴり焦げ臭い香りが漂ってくるのを感じ、もしかしてこれは?


 と思って両脇に消火器を抱えて突入すれば大当たり。


 なんと台所で火事がおきていたのです!


 加熱し過ぎたてんぷら油が燃えて壁を焦がしはじめているところでした!


「ちょっと! コレ不良品じゃないの⁉」


 おばさんは、台所の入り口付近で安全ピンを外す事すらせず一生懸命レバーをにぎっていました。


 しかも、ホースの中ほどを持っているところを見ると消火器の使い方を知っているとは思えません。


 丁寧に説明している時間も無いので実演して見せました。


「先ずは、黄色い安全ピンをこうやって外す! ホースは先端部分をしっかりにぎって狙いをさだめてからレバーを思いっきりにぎる!」


 すると、ものすごい勢いで白い粉末状の物が火元である鉄製の鍋に向かって降りかかります。


 少し遅れて、おばさんの持っている消火器も仕事を開始。


 しかし、燃え盛る天ぷら油は、なかなか鎮火してくれません。


 これでダメなら逃げるしかないと思いながらも私は力尽きた消火器を足元に置き。


 三本目の消火器で勝負にでます。


「これで、ダメなら逃げるしかありません! 早く消防署に電話してください!」


「あ、は、はい!」


 おばさんは、今更ながら消防署に電話をしに行きました。  


 幸いにも手持ちの消火器だけで火を消し止められたおかげで大事にならずに済んだので。


 これ幸いとばかりに、コンロを切り鍋にふたをして私のやるべきことは終了。


 もし、あの時。


 他のご家庭に配る予定だった消火器を持って私も参戦していなければどうなっていたことやら……


 最悪、新築のお家が全焼なんて落ちになっていたかもしれません。


 皆さんも火には気をつけてくださいね!


 各家庭に消火器は必要不可欠だと強く感じてくだされば幸いです。



 おしまい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

消火器は必須なのです! 日々菜 夕 @nekoya2021

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ